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債権回収は弁護士までお任せ下さい

  • 未回収の売掛金がある
  • 債務不履行で契約を解除したのに、支払い済みの代金を返金してもらえない
  • 少額の債権がたくさんあって管理や回収が困難になっている
  • 会員制サービスの未収金が溜まっている

未回収の債権を放置していると、企業の収益性が悪化して最終的には倒産リスクも発生します。

クリニックや会員制サービスの利用料金のように少額の債権が多数あって回収が困難な場合でも、弁護士が対応すれば回収を進められるので諦めずにご相談ください。

今回は高額な未回収債権が発生しやすい不動産会社や少額の不良債権が多数発生しがちな医療機関、クリニック、飲食店、会員制サービスを提供している各業種向けに、弁護士が債権回収のノウハウをお伝えします。

未回収の債権を放置するリスク

未回収の債権が発生する主な原因は以下のとおりです。

  • 商品やサービスの代金を払ってもらえない
  • 契約を解除したのに、支払い済みの代金を返金してもらえない
  • 会員制サービスの利用料金の未収分が溜まっている
  • クリニックや病院で治療費を払わない患者さんが多い

会社役員同士、会社と役員間、会社と株主間で未回収債権が発生するケースもあるでしょう。

未回収の債権を放置していると、企業には以下のようなリスクが発生します。

収益性の悪化

売上げが立っても実際に債権回収できなければ当然収益性が低下します。徐々に財務を圧迫していくでしょう。

時効消滅

債権には「時効」があります。現在の民法では基本的に「請求できることを知ってから5年」で消滅するので、放置していると回収は不可能となってしまいます。

倒産のリスク

不良債権が増えすぎて財務状況が悪化すると、最悪の場合には倒産のリスクも現実化します。

相手が倒産するリスク

大口の債権がある場合でも、相手が支払わないまま倒産すると回収はほとんど不可能になります。倒産寸前の会社は多数の債権者から請求や取り立てを受けるので、早急に行動しなければ他の債権者にめぼしい資産を引き上げられます。すると回収が一切できなくなり大損害が発生します。

債権回収を軽く考えていると大変な不利益を受ける可能性もあるので、早めに対応を進めましょう。

債権回収の方法

未回収の債権は、以下のような手順で回収を進めてみてください。

相手に強めに請求する

まだ相手に請求をしていないなら、早急に支払いを求めましょう。相手との関係性にもよりますが「このまま支払いをしないなら強硬な手段も検討せざるを得ない」という強い意思を伝えてみましょう。相手が軽く考えているなら厳しく請求して、真剣に捉えさせる必要があります。

内容証明郵便で請求する

相手による債務不履行で契約を解除したのに代金を返してもらえないなど悪質なケースでは、内容証明郵便で代金の返金を求める請求書を送りましょう。こちらが真剣に支払いを求めている気持ちが伝わり、相手がプレッシャーを感じて話し合いや支払いに応じる可能性があります。

公正証書で合意書を作成する

相手と話し合って支払いについての和解ができたら、必ず「合意書」を作成しましょう。書面化しなければ、反故にされて支払いを受けられなくなる可能性があります。 「分割払い」を認める場合には、合意書を必ず「公正証書」にしましょう。公正証書を作成しておけば、後に説明する「支払督促」や「訴訟」をしなくてもすぐに相手の財産を差し押さえられて簡便だからです。
また公正証書を作成している状態で支払いを滞納すると「いつ差押えをされてもおかしくない状態」になるので、相手にプレッシャーがかかって滞納を防ぎやすくなる効果も期待できます。

仮差押を利用する

仮差押とは、裁判前に相手の資産を差し押さえて凍結する手続きです。裁判の最中に相手が資産隠しをするのを防げます。相手に強いプレッシャーをかけられますし、差し押さえたのが相手に必要な資産の場合「支払いをするから仮差押を取り下げてほしい」と頼んでくるケースも少なくありません。仮差押をしただけで、現実に裁判をしなくても債権回収できる可能性があります。

支払督促を申し立てる

支払督促は、裁判所に申立をして相手の財産に強制執行(差押え)をする権利を認めてもらう手続きです。支払督促申立書が相手方に届いてから2週間以内に異議を申し立てられない場合、申立人は相手方の財産を差し押さる権利を認められます。
ただし相手方が異議を出すと通常訴訟に移行し、その場合の管轄は相手方の住所地の裁判所となります。請求をしても相手方が態度を明確にしないなど、異議を申し立てない可能性のあるケースで利用しましょう。

訴訟を申し立てる

相手がどうしても支払わないなら、最終的には訴訟によって債権回収するしかありません。仮差押を行った上で訴訟を進めましょう。
判決が出たら裁判所から相手方へ支払い命令を下してもらえます。相手が支払をしなければ本差押えによる回収が可能です。裁判の途中で和解が成立し、任意に払ってもらえるケースも少なくありません。

少額の債権が多数発生しているケース

クリニックの未収金や月額会員制サービスの利用料金滞納など、少額の不良債権が多数発生するケースでは、いちいち内容証明郵便を送ったり支払督促を申し立てたりするコストが無駄になるかもしれません。
その場合、最低限以下のように対応してみてください。

メールや電話、郵便で督促

ネット上の会員制サービスならメールアドレスを登録させているはずです。クリニックなどでも電話番号や住所を把握しているでしょう。支払いが行われない場合、メールや電話によってすぐに督促をしましょう。特に医療機関などでは債権回収業務を行う人員がおらず、支払いが行われなくても何の督促も行っていないケースがあります。
実際には督促されれば支払いに応じる人が少なくありません。メールや電話で督促しても支払わない人に向けて郵便で督促すると良いでしょう。

連帯保証人に督促

たとえば病院で入院時に「連帯保証人」をとっていたら、滞納されたときに連帯保証人に請求できます。大きな手術を実施し入院代がかさみそうなケースでは、可能な限り連帯保証人をつけておきましょう。

自社で債権回収する困難性

現実には債権回収を自社で進められないケースも多々あります。

専門の人員がいない

債権回収には、専門の人員をあてる必要があります。ただ債権回収会社や貸金業者でもない限り、債権回収のために専門の人員を雇い入れるケースは少数でしょう。
もともと別の目的で雇った人材に債権回収を担当させても効率的ではありませんし、担当させられた従業員のモチベーションも下がってしまいます。結果的に債権回収をせず放置してしまいがちです。

ノウハウがない

効率的な債権回収にはノウハウが必要です。債権回収に不慣れな担当者が電話やメールなどで督促しても、相手に無視されて終わってしまう可能性が高くなります。

かえってコストがかかる

債権回収を進めるにはコストがかかります。本来別の業務を任せるはずだった人員を割かねばなりませんし、内容証明郵便代や裁判所に納める費用なども発生します。「費用倒れになる可能性があるなら未回収のまま放置してしまった方が良い」と考える事業者も少なくありません。

債権回収を弁護士に依頼するメリット

自社での債権回収が困難なケースでは、弁護士に依頼しましょう。

効率よく回収できる

企業法務に積極的に取り組んでいる弁護士は、債権回収のノウハウを会得しています。メール、電話、内容証明郵便、訴訟など状況に応じて手段の使い分けができますし、それぞれの方法の有効な進め方も熟知しています。
たとえば債権回収の際には相手との交渉が必要ですが、弁護士であれば相手にプレッシャーをかけつつ有利な条件で支払の和解を締結できるものです。このように、自社で回収に対応するより圧倒的に効率よく債権回収できるメリットがあります。

裁判所の手続きを活用できる

債権回収では仮差押えや支払督促、訴訟などの法的な措置が必要になるケースが多々あります。自社でこういった対応を進めるのは困難があるのではないでしょうか?
特に仮差押えや訴訟は複雑なので、不慣れな場合スムーズに進められません。
弁護士であればこうした裁判手続きを有効に活用し、債権回収を実現できます。

生産性を落とさずに済む

債権回収に自社で対応しようとすると、どうしても従業員の労力をそちらに振り向けなければなりません。本来は別の仕事を行うはずだった人員を債権回収にあたらせないといけないのでその分生産性が低下します。従業員のモチベーションが低下したり離職者が発生したりする可能性もあります。
弁護士に債権回収を外注すれば、自社従業員は本来の仕事に集中できるので生産性を落とさずに済みます。

費用倒れを防げる

債権回収にコストをかけすぎると、費用倒れが発生するリスクがあります。たとえば債権額が少額なのに個別に財産調査をしたり訴訟を起こしたりすると、費用の方が高くつくでしょう。債権回収には失敗のリスクもあり、手間と費用を注ぎ込んでも最終的に回収できなければ意味がありません。
弁護士に「完全成功報酬制」で債権回収を依頼すれば、回収できたときにのみ弁護士報酬が発生するので、費用倒れを防げます。たとえば少額の債権を多数回収したい場合には、一括で弁護士に債権回収を委託して完全成功報酬制で弁護士費用を計算すれば良いのです。
この方法なら回収できた分の中から弁護士に報酬を払えるので、赤字になる可能性がありません。

状況に応じた対応が可能

債権回収を成功させるには柔軟な対応が必要です。相手との関係性や相手の態度、債権額や性質によっても回収方法が異なります。
相手が支払わないなら強硬に仮差押え、訴訟へと進むべきですが、相手と関係を壊したくない場合には「お伺いの手紙」などから始めるべきケースもあります。
多数の企業から相談を受けており債権回収のノウハウを蓄積している弁護士であれば、企業の状況や経営者の要望に応じて最善の対応を進められます。

時効を防げる

債権回収をせずに放置していると、債権は時効消滅してしまいます。債権の消滅時効期間は基本的に5年ですが、2020年3月31日までの債権の場合には旧民法の「短期消滅時効」が適用されて「1年」や「2年、3年」で消滅してしまうものもあります。
「もうすぐ時効」という場合、自社では適切に時効を止める手段をとれずに、みすみす消滅させてしまうケースも多いのではないでしょうか?
弁護士に依頼すれば内容証明郵便を送ったり速やかに仮差押、訴訟を提起したりして確実に時効を止められます。特に債権額が高額な場合、時効消滅すると損害が大きくなるので早めに対応すべきです。自社では時効期間が何年になるかわからない場合にも、弁護士までご相談下さい。

企業の債権回収は力新堂法律事務所までお任せ下さい

債権回収を柔軟かつ効率的に行い、貸倒による損失を防ぐには企業法務や債権回収のノウハウを蓄積している弁護士によるサポートが必須です。継続的に未回収債権が発生する業種の場合、弁護士と顧問契約を締結すれば個別の債権回収にかかる弁護士費用の割引きを受けられます。

当事務所では不動産売買や管理業、建設業、医療機関やクリニックなどの事業者支援に積極的に取り組んでいます。

  • 契約を解除したのに支払った代金を返金してくれない
  • 少額の債権が大量に発生して対応に困っている
  • 株主や役員の間でトラブルが発生している

お困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

相談はフリーダイアル0120-806-860

破産を検討されている事業者の方へ

昨今の社会情勢の変化や景気悪化などの影響で事業経営が苦しくなってしまったら「破産」の2文字が頭をよぎるかもしれません。

ただし赤字や債務超過となっていても、必ずしも破産が必要とは限りません。

今回は業績が悪化したとき事業者が破産しなければならないケースと破産しなくて良いケースの判断基準、破産手続きの流れなどを弁護士が解説します。

個人の破産と法人の破産は手続きが異なる

事業者の破産は、個人の破産よりも手続きが複雑です。特に会社経営をしている場合、「会社の破産」と「経営者個人の破産」の手続きが別々になるので注意が必要です。 会社が破産しても経営者の借金はなくなりませんし、経営者が破産しても会社の負債は無くなりません。会社経営者が会社と個人両方の負債を消滅させるには、会社と個人それぞれについて破産手続きが必要となります。

もしも負債があるのは会社のみで経営者が個人的に借金をしていないなら、経営者は破産する必要がありません。ただし経営者が会社の負債を保証している場合には、やはり経営者個人も破産しなければなりません。

一方法人化していない個人事業主の場合には法人の破産を検討する必要はなく、ご本人である個人が破産するかどうかのみを決めれば足ります。

以上を前提に「事業者や会社が破産しなければならないかどうか」の判断基準をみていきましょう。

破産が必要か不要かの判断基準

経営状況が苦しくなっても、事業内容や資産の整理、縮小、事業譲渡、経営上の工夫、リストラやリスケジュールなどによって会社や事業を維持できるケースが多々あります。
また私的整理や民事再生により、会社を残す方法も検討可能です。

どうしても破産が必要なのは以下のような場合です。

採算状況が悪化しており事業に将来性がなく支払いが困難

法人の場合、業績が悪化して収益を得られなくなっており、その状況が今後も続く見込みが高いなら破産が必要です。事業に将来性がないなら、経営を継続しても増収が見込めず債務の支払が困難となるからです。
一方、債務超過であっても事業に将来性があり黒字転換できて支払が可能となる見込みがあるなら、破産を避けて民事再生などの手段を検討できます。

著しい債務超過で今後の継続した支払いが困難

企業の場合、資産に比べて負債が大幅に多額となっており著しい債務超過であれば一般的に破産を検討すべき状況です。もちろん事業に将来性があって一気に増収となれば負債を自力で完済することもできますが、そういった具体的な予定がないならいったん破産してすべてを清算するのが現実的な判断といえるでしょう。

経営者個人が法人の個人保証をしている

会社が破産するとしても経営者本人に負債がなければ経営者は破産する必要がありません。
経営者個人が破産しなければならないのは、会社の負債を個人保証しているケースです。金融機関や公庫からの借入の際、連帯保証人になっているなら、通常は会社とともに破産する必要があります。

経営者個人が会社のために個人的な借入をしている

経営者が会社の負債を保証していなくても、事業資金のためにカードローンや消費者金融などで個人的に借入をしているケースがあります。個人の借金をしてしまった場合、自力で返済できないなら破産するしかありません。

個人事業者の場合、収益が悪化しており生活費も出ない状況が続く見込み

個人事業者の場合には、株式会社よりも判断基準がシンプルです。基本的には事業の3か月単位や1年単位の収支状況をみて、収入から支出や負債の返済を引くと「生活費も出ない状況」になっていたら破産を検討した方が良いでしょう。ただし将来事業の業績が好転して各種の支払を継続していける見込みがあるなら破産する必要はありません。
また生活費が高すぎる場合や浪費している場合には、支出を抑えることによって破産を避けられる可能性もあります。

さらに現状のままでは支払が困難だとしても、負債の金額が小さい場合、ある程度の支払能力がある場合には任意整理や個人再生によって破産を避けられます。

破産を避けるために重要なこと

事業者が負債を支払えなくなると、各債権者が取り立てを行います。訴訟をされたり抵当権を実行されたり、ときには直接在庫商品を回収に来たりもするでしょう。このような状況が続くと重要な資産が失われて破産を避けがたくなってしまいます。

弁護士に私的整理や民事再生を含む「債務整理」手続きを依頼すると、債権者からの取り立てが止まって当面の支払いが不要となります。つまり資産のあるうちに早めに弁護士に債務整理を依頼すれば、破産を避けやすくなるのです。 今債権者からの取り立てに遭って追い詰められている状況でも復活できる可能性があるので諦める必要はありません。破産を防いで会社を残すため、早めに弁護士に対応を相談してください。

破産が必要なケースの具体例

法人や事業者で破産が必要なケースは以下のような場合です。

具体例1~会社が破産すべきケース~

A社は近年業績が著しく悪化しており赤字続きです。業界全体が斜陽となっており世間一般における需要が低下しているため、今後も回復できる見込みがありません。すでに債務超過となっており、これ以上の融資は難しくなっています。金融機関への返済のみならず取引先への支払いも困難となりつつあり、めぼしい資産は抵当にとられて従業員への給料も払えなくなりそうな状態です。
この場合、A社は破産する必要があるでしょう。

具体例2~代表者が個人破産すべきケース~

B社は業績悪化により破産することが決まりました。B社の社長は会社が公庫から借入をするときに連帯保証しており、B社の破産と共に5,000万円の負債を背負わねばならない立場です。また資金繰りのため、個人的なカードローンの借入も800万円ほどになっています。
この場合、B社の社長は個人破産する必要があるでしょう。

具体例3~個人事業者が破産すべきケース~

Cさんは個人で飲食店を経営していますが、収支状況が悪化しています。最近ではほとんど収益が上がっておらず、個人的に1,000万円近い借金をしてしまいました。すでに住宅ローンも払えなくなっており生活費も出ない状況が続いています。そもそも店舗の立地が悪く他店との差別化も難しい状況で、今後客足が回復する見込みも立っていません。
この場合、Cさんは破産する必要があるでしょう。

破産が不要なケースの具体例

以下のような場合、破産する必要はないと考えられます。

具体例1~法人が破産する必要のないケース~

D社は近年の社会情勢の悪化の影響を受けて収益性が低下し、負債の支払いが困難になっています。ただ事業内容自体が悪いわけではないので、経営上の工夫をして負債を減額してもらえれば支払いを継続できる可能性もあります。また事業に将来性があるので事業を買い取ってくれる企業も見つかりそうです。
このような場合、D社は「私的整理」や「民事再生」「M&A(事業譲渡)」などによって会社を残せる可能性があります。いきなり破産する必要はありません。

具体例2~法人代表者が破産する必要のないケース~

E社は債務超過となって破産することになりました。E社社長は会社の負債を個人保証していませんし、会社の事業資金を工面するための個人的な借入もしていません。
このような場合、会社は破産するとしても社長本人は破産する必要がありません。
またE社の社長に借入や保証債務があっても、負債を減額すれば支払える状況であれば任意整理や個人再生によって解決できます。

具体例3~個人事業者が破産する必要のないケース~

Fさんは飲食店経営で負債があり支払いが苦しくなっていますが、店の立地や提供している料理自体に問題があるわけではないので、今の苦しい時期を脱すれば業績が回復する可能性があります。また負債を減額できれば自力での返済も可能です。
このような場合、Cさんは個人再生や任意整理で解決できる可能性が高いので、破産する必要はありません。個人再生や任意整理であれば事業用財産も個人財産もなくなりません。
事業を継続できますし、住宅ローン付きの家や車なども守れます。

個人事業者の場合、破産しても事業を続けられる可能性がある

法人の場合、破産すると法人自体が消滅するので事業の継続は不可能です。
一方、個人事業者の場合には、破産しても事業を継続できる可能性があります。破産しても事業経営を禁止されるわけではありませんし、パソコン、大工仕事、農業や漁業などに必要な最低限の仕事道具は手元に残せるからです。
大工業、左官業、IT関係の仕事など「必要な仕事道具が少なく自分の身1つでできる仕事」は破産しても事業を継続しやすいといえるでしょう。
一方「飲食店」など、店舗を借りて大々的に行っている事業の場合、いったん破産すると事業用財産などが清算されてしまうので、継続は困難となります。新たに資金を調達して事業を改めて開始する必要があるでしょう。

破産手続きの流れ

会社や事業者が破産する場合には、以下のような流れで手続きが進みます。法人が破産する場合と個人が破産する場合に分けてみていきましょう。

法人と代表者が破産する場合

会社が破産し、同時に代表者も破産する場合の流れは以下の通りです。

弁護士に相談する

破産するときには、まずは弁護士に相談しましょう。経営者が自分一人で破産が適切かどうか判断するのは困難だからです。また破産するにしても、弁護士によるサポートが必要です。
ご相談時には、会社の決算書類や確定申告書類、帳簿や債権者、従業員に関する資料などをお持ちください。

会社と代表者それぞれの債務整理方法を決める

弁護士に相談をしたら、会社と代表者それぞれについてどのような方法で債務整理をするか決定します。
会社が破産するとしても代表者は破産しなくて良いケースもありますし、その逆もあります。収益性や将来性、負債の状況や資産状況などを全体的に考慮して、弁護士が最適な方法をご提案します。

受任通知の発送、準備

破産することに決めたら、弁護士が各債権者へ「受任通知」を発送します。これにより会社や経営者ご本人への債権者からの取り立てが止まり、返済が不要な状態となります。
その間に破産申立の準備を行います。破産には法人、個人ともにたくさんの資料が必要となり、すべて揃わないと裁判所に手続きを開始してもらえません。必要書類の内容については弁護士が1つ1つ指示しますので、なるべくスピーディに集めましょう。

破産申立をする

準備ができたら裁判所へ破産の申立をします。申立の手続きは弁護士が行うので、ご本人には特に何もしていただく必要はありません。

破産手続き開始決定と破産管財人の選任

申立内容に特に不備がなければ、裁判所で「破産手続き開始決定」がおります。これにより正式に破産手続きが始まります。また裁判所が「破産管財人」を選任します。破産管財人とは、破産者の財産を預かり現金化して債権者へ配当する人で、破産手続きにおいて非常に重要な役割を果たします。

破産管財人と面談

破産管財人と面談をします。申立代理人の弁護士が日程を調整するので、決まった日時に申立代理人と一緒に管財人の事務所へ行きましょう。

債権者集会

破産手続き中は、何度か裁判所で債権者集会が開かれます。債権者集会には経営者本人も出席しなければなりません。とはいえ実際に債権者が出席して積極的に発言するケースは少数です。申立代理人も一緒に出席するので、不安があるなら事前に相談してください。

配当と終結

破産管財人がすべての資産を現金化したら、債権者へ平等に配当を行います。
配当が終わったら破産手続きが終結します。

法人消滅、代表者個人の免責決定

すべての破産手続きが終了したら、法人は消滅します。法人が消滅したら、法人の負債はすべてなくなります。
破産手続き終了後、裁判所は引き続いて代表者本人の「免責」判断を行います。免責が下りたら個人の負債もなくなります。ただし個人の場合「税金」や「健康保険料」「養育費」「罰金」などの支払い義務は残ります(法人の場合には滞納税などの負債も残りません)。

個人事業者の場合

個人事業者が破産する場合には、同時廃止と管財事件の2種類があります。同時廃止となるのはほとんど財産がなく特段の免責不許可事由のない方が破産するケース、管財事件となるのは一定以上の財産がある方や浪費・ギャンブルなどの問題行為がある方が破産するケースなどです。
管財事件の流れは、基本的に上記で紹介した法人の破産手続きと同じです。

個人事業者でも事業用資産や未回収の売掛金もなくその他にも財産がない場合などには「同時廃止」で破産できる可能性があります。以下で同時廃止となった場合の手続きの流れをご紹介します。

同時廃止の手続きの流れ

弁護士に相談する

個人事業者が破産する場合にも、まずは弁護士に相談する必要があります。早期に相談すれば個人再生などで財産を守りやすくなるので、困ったときには早めに動きましょう。

受任通知の発送、準備

破産することに決まったら、弁護士が債権者へと受任通知を発送します。これにより、各債権者からの取り立てが止まるので、カード会社や消費者金融、銀行などから電話や郵便が来なくなります。
こうして支払が不要となっている間に準備を進めます。弁護士が必要書類などの指示を行うので、できるだけ早めに集めましょう。

破産申立をする

準備ができたら破産申立を行います。手続きは弁護士が行うので、ご本人には何もしていだく必要はありません。

破産手続き開始決定、廃止

申立に不備がなければ裁判所で「破産手続き開始決定」がおります。同時廃止の場合には手続きが開始すると同時に手続きが終了(廃止)します。同時廃止の場合、財産は失われないので仕事道具や現金、保険などを手元に残せます(ただし残せるのは少額の財産のみです)。

免責審尋

破産手続きが終わったら、裁判所で「免責審尋」が行われます。免責審尋とは「破産者を免責させて良いかどうか」を裁判所が判断するための手続きで、裁判官から破産者へといろいろな質問をされます。
今までどういった経緯で負債がかさんできたのか、事業の業績がどういった推移をたどってきたのか、今後どのように生活していくのかなどを聞かれます。申立代理人弁護士も一緒に出席するので、不安があれば事前に相談してアドバイスを受けましょう。

免責決定

問題がなければ裁判所が「免責決定」をします。これにより、正式に負債の支払い義務がなくなります。

破産を考えている事業者、経営者の方へ

債務超過、赤字になっていても事業を継続できる可能性があるので、辛い状況であってもあきらめる必要はありません。ただし苦しくなってから時間が経てば経つほど状況が悪化し、破産しか選択肢がなくなってしまうケースが多々あります。
また事業者の破産は会社員などの個人破産よりも複雑ですし、そもそも破産すべきかどうかの判断も難しくなります。有望な事業を継続するためにも、なるべく破産による不利益やリスクを小さくするためにも、早めに専門家に相談することが重要です。

当事務所では破産や再生を始めとして中小企業や個人事業主への援助に積極的に取り組んでいます。お困りの事業者様、経営者様がおられましたら、是非とも一度、ご相談下さい。

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内部通報制度の必要性と設計方法を弁護士が解説

御社では「内部通報制度」を構築していますか?
企業が法令違反を始めとした不正をせずコンプライアンスを遵守しながら経営していくためには、企業内部の従業員等が気軽に利用できる内部通報制度が必須です。

もしも今内部通報制度を構築していないなら、できるだけ早めに整備しましょう。また2016年には「内部通報ガイドライン(公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン)」が改正されて内容が拡充されているので、内容を押さえておく必要があります。

今回は企業における「内部通報制度」の必要性と効果的な設計方法、内部通報ガイドラインの改正について、弁護士がわかりやすく解説します。

内部通報制度とは

内部通報制度とは、企業が従業員などの内部のものから法令違反を始めとする不正行為について、情報提供を受け付けるシステムです。たとえば製造の現場担当者から「適切に検査が行われていない」「原料を偽装している」などの通報が行われると、経営者側も社内の不正を把握できて早期の対応が可能となります。

内部通報制度は「公益通報制度」とも呼ばれるケースもあります。

公益通報者保護法は、内部通報者を保護する法律

企業としては、内部通報者を保護しなければなりません。通報した労働者が不当な不利益を受けるようであれば、誰も情報提供しなくなってしまうからです。
内部通報者を保護する法律として「公益通報者保護法」が作られています。この法律では通報した労働者への解雇をはじめとする不利益取扱いが禁止されています。

公益通報者保護法は、対象企業を規模や業種によって限定しておらず、中小零細企業も含めてすべての企業を対象としています。「内部通報制度を設けなければならない」とはされていませんが、内部通報を受けた場合には法律に従った対応をとらねばなりません。
そのためには事前に内部通報制度を用意して手順等を明確にしておくべきです。

内部通報ガイドラインとは

企業が構築すべき内部通報制度の内容について、より詳細に定めているのが消費者庁の「民間事業者向けガイドライン(内部通報ガイドライン)」です。
内部通報ガイドラインでは、公益通報者保護法の趣旨を踏まえて企業に望まれる内部通報制度の設計や運用のあり方が示されています。

内部通報制度の必要性

企業が適正に運営していくには内部通報制度が必要です。以下でその理由を示します。

違法行為への抑止となる

内部通報制度があると、社内では不正が行われにくくなります。不正行為をすると、他の従業員に通報されるリスクが高くなるからです。
そもそも個人情報のずさんな管理、不正会計、産地偽装などの不正が行われなければ、会社としても調査やトラブル対応に割かれる労力が不要となって生産性が高まるでしょう。

実際に違法行為が行われても早期対処が可能となる

内部通報制度があると、実際に不正行為が行われているときに労働者が制度を使って経営陣等に情報提供できるので、問題が小さいうちに芽を摘み取れます。
トラブルが大きくなる前に早期対処すれば、会社への信用も落とさずに済みダメージを最小限度に抑えられるでしょう。

会社の信用維持

内部通報制度があれば、不正を発見した労働者はまずは社内の通報制度を使って問題を告げるものです。いきなりマスコミや労基署、警察などの外部に通報されるリスクが低下して、重大な風評被害を避けられます。

内部通報を受けたときの適切な対応が可能となる

自社内に内部通報制度がなくても、通報を受けたら公益通報者保護法に従った対応が必要です。ただ内部通報制度がなければ、いざ通報を受けたときにどう対応して良いか判断できず、知らずに違法行為をしてしまう可能性があります。
始めからきちんと内部通報制度を構築して対処方法を定めておけば、法律違反の対応をすることはないでしょう。

内部通報制度(公益通報制度)に求められる対応

内部通報制度(公益通報制度)を構築する際には、以下のように対応しましょう。

徹底した秘密保持

内部通報制度を機能させるには、秘密保持を徹底する必要があります。 秘密が守られないと通報者は安心して通報できません。通報によって不利益を受けるようであれば、誰も情報提供しなくなってしまいますし、内部通報制度を利用せずいきなりマスコミなどに通報してしまうリスクも発生します。

内部通報制度の運用において秘密にすべき情報は以下の通りです。

  • 通報者の個人情報
    通報者の氏名等の個人情報です。
  • 通報にもとづいた調査であること
    調査の際、「通報にもとづいて調査を行っていること」を秘密にする必要があります。対象者や関係者へ「通報により調査している」と告げると「誰が通報したか」推測される危険性があるからです。理由は告げずに調査を進め、明らかになった事実のみを発表しましょう。
  • 通報があった事実
    「通報があった事実」も秘密にすべきです。それだけで「誰が通報したのか」犯人探しが行われたり、通報者(と疑われた人)がつるし上げされたりする可能性があります。

内部通報ガイドラインでも、通報者の所属・氏名等やその事案が通報を端緒とするものであることなど、通報者の特定につながり得る情報は開示すべきではない旨、定められています。

情報の受付方法にも注意

内部通報窓口を用意する際には、電話、メール、ウェブサイトなどで受け付けましょう。その際、他の回線と共有せず「専用のルート」を用意する必要があります。面談を行うなら個室や社外面談にて対応しましょう。

経営陣から独立している必要がある

内部通報窓口は、経営陣から独立していないと機能しません。企業の不正には経営陣が絡んでいるケースが非常に多いからです。経営陣が内部通報制度に関与していると、労働者は経営陣の不正を発見しても通報できなくなってしまうでしょう。
内部通報ガイドラインでも、社外取締役や監査役等への通報ルートなど、経営幹部から独立した通報受付・調査是正の仕組みを整備すべきと定められています。

ただでさえ経営者自身が不正をはたらいていると発覚しにくいものですし、発覚したときのインパクトも大きくなってしまいます。内部通報制度を正常に機能させるため、経営陣が関与しないルートで通報できるように社外の通報窓口を活用しましょう。

通報しやすい環境

せっかく内部通報制度を作っても労働者にとって利用しにくければ活用されません。
可能な限り「通報しやすい環境」を整えましょう。たとえば以下のような対策が考えられます。

  • 法律事務所や専門機関等に委託し、社外に通報窓口を設置する
    社内窓口しかなければ「通報すると情報を知られて自分の身に不利益が及ぶかも」と心配して通報しない労働者が出てきます。内部通報制度を機能させたければ、外部機関を利用する必要があるといえるでしょう。
  • 労働組合を通報窓口として活用する
    労働組合は労働者の味方となって会社と対峙する立場です。従業員が全員労働組合に入っている企業も多々あります。身近な労働組合であれば、労働者としても気軽に通報しやすいでしょう。
  • グループ企業の場合、共通の通報窓口を設置する
    通報先がばらばらになっていると利用しにくく情報の一元化や再発防止等の活用も難しくなります。グループ企業なら共通の通報窓口を設置して情報共有しましょう。
  • 関係事業者間で共通の窓口を設置する
    事業者団体や同業者の組合等があるなら関係事業者間で共通の内部通報窓口を設置しておくと、自社のみの社内窓口に通報するのと違って「もみ消し」や「不利益取扱い」「情報漏えい」などの不安が低減し、労働者にとっては利用しやすくなります。

通報者の疑問や不安に応える

労働者は内部通報する際、不安な気持ちを抱えているものです。効果的に情報提供を受けるには、通報者の疑問や不安を解消する必要があります。
提供を受けた情報がどのように取り扱われるのか、きちんと秘密は守られるのか、今後どういった手順で調査が行われるのかなど、可能な範囲で通報者からの質問や不安に応えましょう。

公正な検討と調査の実施

通報を受けたからといって、すべての案件に調査が必要とは限りません。まずは公正な立場から客観的に調査が必要かを検討し、必要な状況であれば速やかに調査を開始しましょう。

ただし社内組織のみで「調査の必要性」を検討すると、どうしても「隠蔽」につながりやすくなります。公正に調査の必要性を判断するには、社外の通報窓口を活用する必要があるでしょう。

また調査実施時にも注意が必要です。公正な方法で進めなければならないので、充分に教育研修を行った上、必要な能力と適性を備えた人材を配置する必要があります。

なお情報提供を受けたにもかかわらず、きちんと検討をせず調査を怠ったり調査実施時期が遅れたりすると、通報者が失望して外部の行政機関やマスコミに通報する可能性があります。 そうなると「内部通報を受けたにもかかわらず、会社全体で不祥事を隠ぺいした」などといわれて社会での信用が失墜してしまうリスクが高くなるため、公正かつ迅速な対応が要求されます。

適切な是正措置と再発防止措置

調査を終えたら、結果に応じて適切な対応が必要です。 不正が発覚すれば、正さねばなりません。関係者への処分や公表、必要に応じて新たな人材の投入や制度の刷新等も必要となるでしょう。

また原因追及と再発防止措置も重要です。今回の不正を正してもまた同じような問題が発生しては意味がありません。何が原因で不正や不祥事が発生したのかを明らかにしてトラブルの要因を取り除きましょう。

社内に不祥事の内容と処分内容を知らしめて「今後はこういったことはしてはならない」と啓蒙する必要もあります。あらためて教育研修も行いながら再発防止に努めていきましょう。

内部通報窓口・公益通報窓口の設計パターン

内部通報窓口(公益通報窓口)の設計パターンとしては、以下の3種類があります。

社内通報窓口

社内に内部通報専用の窓口を設置する方法です。専門の内部通報部門が担当しても良いですし、そこまでの余裕がなければ総務部や人事部などの管理系部門が担当してもかまいません。
社内窓口の場合、労働者が日常的に気軽に利用できるメリットがあります。ただしきちんとルールを定めておかないと情報が外に漏れやすく、労働者の側が「通報したら不利益を受けるのでは?」と警戒して利用しにくくなる可能性もあります。

社外通報窓口

社外の弁護士事務所や専門業者に内部通報の窓口を委託する方法です。
提供された情報や提供者の個人情報を秘密にしやすく、通報者も安心して通報しやすいメリットがあります。
一方で、社外にまで情報を提供するのはハードルが高く、労働者によっては利用しない可能性もあります。

両者の併用

3つ目の方法は、社内通報窓口と社外通報窓口を併用する方法です。両方あれば、両方のメリットを活かすことができて効果的な制度設計が可能となります。 気軽に通報したい労働者は社内の窓口を選択できますし、絶対に情報を漏らしたくない、社内で不利益を受けるのが不安という警戒心の強い労働者は社外の窓口を利用できます。

社内窓口と社外窓口の一方しかなければ得られない内部情報も、両方を用意することで取りこぼさずに把握できるでしょう。

社内通報窓口と社外通報窓口を併用した方が良い

内部通報制度を構築する際には、社内通報窓口と社外通報窓口を併用するようお勧めします。理由は以下の通りです。

社内窓口のみとする場合の問題点

経営陣からの独立性を維持しにくい

社内通報窓口しかない場合、経営陣からの独立性を維持しにくくなる問題があります。
建前上は「経営陣から独立している」としていても、労働者からすれば「会社とつながっているかもしれない」「通報によって不利益を受けるかも知れない」という不安をぬぐいきれません。
不正に経営陣が関与していると通報されずに発覚が遅れがちになりますし、いきなり外部の労基署や警察、マスコミなどに通報されるリスクも高まります。

公正な検討が難しい

通報を受けた後、社内窓口だけでは公正に検討を行いにくい問題があります。
どんなに公正に客観的に判断しようとしても、自社内の機関であればどうしてもバイアスが入ります。
また検討の結果、調査が行われなかったとき、通報した労働者としては「結局会社の保身に走ったのだろう」と不信感を抱いてしまうでしょう。

調査の進め方のノウハウが不足

内部通報にもとづく調査を進める際には専門のノウハウが必要です。適正な方法で調査を進めないと社内で大きなトラブルを引き起こしてしまうリスクもあります。しかし社内のみの対応では専門ノウハウを駆使するのは困難です。
調査がもたつくと、労働者側が不信感を抱いて外部通報してしまうリスクも発生します。

秘密保持が万全ではない

社内の通報制度においても、個人情報の保護は可能です。ただ社内で情報を取得して管理する以上「100%漏えいしない」という確約はできないでしょう。
秘密保持を万全にはできないことも社内通報制度の限界といえます。

社外窓口のみの問題点

一方、社外窓口には以下のようなデメリットがあります。

アクセスが悪い

労働者によっては「気軽に通報できる社内の窓口なら利用するけれど、外部の弁護士事務所に連絡するのは気が引ける」と考えるものもいます。社外窓口しかない場合、そういった通報者からの情報を取りこぼしてしまいます。

通報内容によっては社内機関の方が適している

業界特有の不正や社内規定違反については、外部の弁護士より内部機関の方が状況を把握しやすく適切に対応できるケースがあります。
労働者としても「業界や社内の事情を知らない外部の弁護士に通報しても理解してもらえないのでは?」と不安を感じて通報しない可能性があるでしょう。

両方を併用するメリット

社内窓口と社外窓口を併用すると、以下のようなメリットがあります。

情報の取りこぼしがなくなる

両方の窓口があれば「気軽に社内窓口に通報したい」「絶対に情報が漏れないようにしてほしい」「経営陣の関与がない通報機関を利用したい」など、あらゆる通報者のニーズに応えられます。
情報の取りこぼしがなくなり、すべての不祥事を把握しやすくなるメリットがあります。

いきなり外部に通報されるリスクの低減

社内窓口しかなければ、会社へ強い不信感を持った労働者はいきなり労基署や警察、マスコミなどの外部に通報してしまう可能性が高くなります。
一方弁護士事務所などの社外窓口しかない場合「弁護士に業界内の不正を告げてもわかってもらえないかもしれない」などと考えてやはりマスコミなどに通報しようとする労働者がいるかもしれません。
両方の窓口があれば、どういった労働者も「まずは内部通報窓口を利用してみよう」と考えるでしょうから、いきなり外部に通報されて会社の評価が害されるリスクを避けられます。

連携して調査が可能となる

内部窓口と外部窓口の両方があれば、両方が連携して調査を進められます。
調査には専門のノウハウが必要なので、調査の進め方や設計については弁護士が状況に応じて検討する方法が効果的です。一方で実際に調査を行うのは社内の担当者の方が適しているケースが多いでしょう。たとえば調査対象者に対し聴き取りを行うとき、いきなり弁護士が出てきたら内部通報を推測させてしまいます。そういった場合、社内の担当者が聞き取りを行って弁護士に報告し、全体的な方針を決めていくと効果的に調査を進められます。

内部の担当者と外部の弁護士が連携して実効的な調査を進めるためには内部窓口と外部窓口の両方を用意しておく必要があります。

社外窓口と顧問弁護士

社外の通報窓口を用意するとき、顧問弁護士の活用はお勧めしません。

以下のような問題が発生するからです。

不正に経営陣が関与している場合、利益相反になる

顧問弁護士は経営陣から相談を受けてその利益を守る立場です。不正に経営陣が関与している場合、顧問弁護士が内部通報を受けると利益相反が生じてしまうおそれがあります。
労働者の立場としても顧問弁護士には経営陣の不正を通報しにくいため、内部通報制度を利用せず外部への通報に踏み切ってしまう可能性があります。

労働問題について利益相反になる

36協定違反、残業代不払い、安全配慮義務違反などの労働問題の通報時にも利益相反が発生します。労働問題が発生した場合、顧問弁護士は会社側に立つべき人だからです。 客観的に内部通報に対応するには外部の弁護士が関与する必要があります。

内部通報ガイドラインでも、中立性・公正性に疑義が生じるおそれや利益相反が生じるおそれがある法律事務所の利用は避けるべきとされています。

監査役の役割

内部通報制度を構築する際、監査役の役割についても理解しておきましょう。
監査役は会社経営が適切に行われているか監督する立場ですから内部通報制度の一環として、ぜひ活用したいところです。ただ監査役を直接の通報先とするのは現実的でないケースも多々あります。
そこで社内の管理系部門と社外の法律事務所を直接的な通報窓口としたうえで、通報内容を監査役に共有し、対応を進めていく方法がお勧めです。

内部通報ガイドラインの改正について

最後に、2016年に改正された内部通報ガイドラインの改正内容のポイントをご紹介してきます。

通報窓口をわかりやすくする

通報窓口や情報の受付方法を明確にする必要があります。
「どこに」「どうやって」通報すれば良いのか、わかりやすく従業員に周知しましょう。また内部通報制度の信頼性を高めるため、社外の法律事務所等の機関の活用も推奨されています。

通報者の範囲は広く確保する

通報窓口は全従業員が広く利用できるようにしましょう。
正社員だけではなくパートやアルバイト、退職者や取引先も含めて幅広い情報提供者から通報を受け付けるべきです。

経営陣の役割を明確に

内部通報に関する規程を作って経営陣の役割を明確にしましょう。
またトップが自ら従業員に内部通報が重要であることを訴え、継続的に情報発信すべきとされています。
また経営陣からの独立性を担保するため、経営陣から離れた通報ルートを整備するようにも推奨されます。

安心して通報できる環境の整備

内部通報制度の構築の際には従業員の意見も聞いて可能な限り反映し、その後も継続的に研修を行うなどして安心して制度を利用できる環境を整備すべきです。実際に通報を受けたら質問や相談にも対応し、従業員にとって使い勝手の良いシステムとしましょう。

通報者に対しては経営者から感謝の意を伝えるなど、会社への貢献を評価すべきです。間違っても解雇などの不利益な取扱いをしてはなりませんし、万一不利益取扱いがあれば速やかに救済・回復措置をとりましょう。不利益な取扱いをした者に対しては懲戒などの処分を講じるべきです。

実効性の高い対応

内部通報についての規定では、実効性の高い対応をとれるように従業員や関係者の「調査協力義務」を明記すべきです。検討や対応については必要な能力や適性をもった担当者の育成と設置が求められますし、運営状況に対する客観的な検証も要求されます。

秘密保持の徹底

以下のような方法で通報者の秘密保持を徹底しましょう。

  • 匿名の通報を受け付ける
  • 関係資料を閲覧できる人を最小限にする
  • 資料は施錠管理する
  • 関係者の固有名詞を仮称表記にする

アフターフォロー

通報への対応終了後も、以下のようなアフターフォローが求められます。

  • 通報者が不利益な取扱いを受けていないか確認する
  • 不正行為が再発していないか確認する
  • 内部通報制度の定期的な見直し・改善

当事務所では、内部通報制度の構築方法や通報を受けた際の調査方法についてのノウハウを蓄積しています。有効な内部通報制度を構築されたい企業様は、是非とも一度ご相談下さい。

相談はフリーダイアル0120-806-860

企業が守るべきコンプライアンスとは?

最近では、営利目的の企業であっても自社の利益追求だけではなく「コンプライアンス」の遵守が求められます。

そうはいっても「コンプライアンス」の概念は漠然としており「具体的に何をすれば良いのか、どこまでの対応が求められるのかわかりづらい」と感じている経営者の方も多いでしょう。

今回はコンプライアンスとは何か、具体的な対処方法を含めて弁護士がわかりやすく解説します。

コンプライアンスとは

コンプライアンスとは日本語に訳すと「法令遵守」となります。もともとは「法令をきちんと守って企業を運営すべき」という意味合いです。ただし現代企業に求められるコンプライアンスは「法令を遵守していればよい」というレベルにとどまりません。

以下のような規範も守るよう要求されます。

  • 社内ルール、業務マニュアルなどの社内規範
  • 社会内の倫理的な規範

法律や条令を守るのはもちろんのこと、社内で作った自主的なルールや社会内のモラル的な規範も遵守しながら営業活動を進めていく必要があります。

コンプライアンス違反の具体例

コンプライアンス違反の行為として、以下のようなものが挙げられます。

  • 安全性の確保できていない商品やサービスの販売
  • 商品やサービスについての虚偽説明、誇大広告
  • 粉飾決算など不正会計
  • 労働基準法違反の長時間労働、残業代不払い
  • セクハラやパワハラの放置
  • 労働者に対する安全配慮義務違反(労災事故の頻発など)
  • 個人情報のずさんな管理
  • 助成金の不正な受給

社内で上記のような問題が起こっていたら「コンプライアンス違反」の誹りを受ける可能性があり、要注意です。

コンプライアンスを遵守しないリスク

企業がコンプライアンスを無視するとどういったリスクがあるのか、みていきましょう。

行政処分と公表

法令を遵守していないと、勧告や業務停止などの行政処分を受ける可能性があります。処分内容が公表されるケースも多く、社会における信用も大きく低下してしまうでしょう。

刑事罰

法令違反の行為をすると、罰則が適用される可能性もあります。経営者や取締役などの個人に罰金刑や懲役刑を適用されると一生消えない前科がついてしまいます。

評判の低下

コンプライアンスを遵守していない企業であるして社会に知れ渡ると評判が低下します。現代のようなネット社会では、いったん評判が低下するとすぐに情報が拡散され、取り返しがつかないダメージを受ける可能性があります。

人材不足

労働基準法を守らずに長時間労働を課している、残業代を支払っていない、パワハラが横行しているなど労働関係でコンプライアンスが守られていないことが知られたら、優秀な人材は集められなくなります。社内の人材も流出して深刻な人材不足に陥ってしまうでしょう。
近年ではただでさえ各企業が人材の確保に苦慮する状況で、人材不足のダメージは計り知れません。

売上げ低下

社会内での信用が低下し企業イメージが悪化することによって、商品やサービスが売れにくくなる可能性があります。
法令を遵守していても消費者における評判低下はあり得ます。たとえば環境破壊している事実を世間に知られて「不買運動」が起こってしまうケースなどがあり、注意が必要です。

取引先との関係を構築できない、悪化する

新規に取引先を開拓しようとしても「コンプライアンスが守られていない企業」と思われると敬遠される可能性があります。
既存の取引先との関係が悪化したり、取引を停止されたり更新してもらえなかったりするリスクも発生します。

以上のようにコンプライアンスを遵守していないと、企業にとってはさまざまなリスクが発生します。たとえ非上場の中小企業であっても、コンプライアンス意識を高めていく必要があるといえるでしょう。

コンプライアンスを遵守する方法

コンプライアンスを遵守するため、以下のように対応してみてください。

経営陣がコンプライアンス意識を高める

まずは代表取締役を始めとして経営陣全員が高いコンプライアンス意識を持ちましょう。
単に営業利益を追い求めるだけではなく「法令を守らねばならない、社内や社会規範を守って運営しなければならない、社会からの信用を得なければならない」と考えながら経営に携わるべきです。
経営陣がコンプライアンス意識を持たないまま社員にのみ押しつけても、社内に浸透しません。

教育指導を行う

次に従業員に対してコンプライアンスについて教育指導を行います。入社時に研修を行い、その後も定期的にセミナーを開いたり資料を配付したりしましょう。
また各種のイベントや社長講話などの機会を使ってコンプライアンス関連の話題に触れるのも有効です。

ルール、マニュアルを作る

社内でコンプライアンスが守られるには、ルール作りが必須です。
労働関係、生産関係、会計関係などあらゆる部門においてきちんとコンプライアンスを遵守するためのシステムを構築し、規則化、マニュアル化しましょう。
自社でどういったシステムやルールを作って良いか判断しがたい場合には弁護士までご相談下さい。

監視体制を整える

ルールやマニュアルを作っても守られなければ意味がないので、しっかり監視体制を整えましょう。誰を監視者としてどのような方法でモニタリングするのかを決め、正常に機能しているか定期的に調査する必要もあります。
弁護士事務所などの社外の機関にモニタリングの一部を委託することも可能です。

内部通報窓口を設置

社内で不正を発見した社員が気軽に通報できるよう、内部通報窓口を設置するようお勧めします。通報者の個人情報が守られるようにして、通報者が不利益を受けないように配慮しましょう。
内部通報窓口は社内におくケースが多くなっていますが、弁護士などの社外に委託する方法を併用する方法が有効です。社内窓口と社外窓口の両方を設置することにより、充実した制度設計を行えて不正の見逃しを防ぎやすくなります。

顧問弁護士を活用

コンプライアンスを守るには、顧問弁護士の活用が有効です。
労働法令を始めとして会社に関係する法律は頻繁に改正されます。きちんと法改正を追いかけて適正な方法で経営をしていくには、法律の専門家によるサポートが必要となるでしょう。
「このようなとき、どう対応すれば良いのか」などと迷ったときにいつでも相談できますし、弁護士を社外監査役としてモニタリング機能を期待する活用方法もあります。
中小企業でも顧問弁護士がついていたら「あの企業はコンプライアンス意識が高い」と評価され、社会内での信用もアップするでしょう。

当事務所は神戸市東灘地域を拠点として中小企業の支援に積極的に取り組んでいます。コンプライアンスの遵守について不安やお悩みのある経営者の方は、是非ともお気軽にお問い合わせ下さい。

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会社の破産・清算

会社の資金繰りが悪化して経営継続が難しくなったら、破産や清算も視野に入ってくるでしょう。事業に将来性があるなら、民事再生手続きや私的整理を利用して会社を残す方法も選択できます。

今回は廃業を検討する経営者の方に知っておいて頂きたい破産や清算の手続きについて、弁護士が解説します。

事業を継続すべきか検討する

会社の財務状況や資金繰りが悪化し、経営者として「これ以上継続できないかもしれない」と考える状況に陥っても、必ずしも廃業の必要はありません。

まずは事業を継続すべきかどうか、見極めましょう。

その際ポイントとなるのは以下のような視点です。

業種や市場に将来性があるか

まずは会社が取り扱っている業務内容や業種が問題となります。今、世の中はものすごいスピードで移り変わっており、旧来のやり方が通用しなくなっている業種がたくさんあります。これまでは需要があったけれどAIなどの技術革新によって不要となる事業も出てくるでしょう。
自社の主要取扱い業務が斜陽であれば、継続しても将来はないかもしれません。そうであれば廃業を選択するのが良いでしょう。反対に将来伸びる可能性の高い業種であれば、今は苦しくても耐えて将来に期待をかける価値があります。

問題点を改善可能か

次に自社の抱える問題点を明らかにしましょう。ひと言で「経営が苦しい」といっても、さまざまな状況がありえます。

  • 販管費がかかりすぎている
  • 在庫が多くなりすぎている
  • 不良債権が多い
  • どんぶり勘定である
  • 投資資金を回収できていない
  • 不採算部門による影響が大きい
  • 後継者がいない
  • 反社会的勢力とのつながりがある

自社の問題点を洗い出し、解決可能な問題かどうかを検討しましょう。改善が可能であれば事業を残せますが、不可能であれば廃業に向けて進めるべきです。

債務を圧縮したら弁済していけるか

多額の負債が経営を圧迫している場合、私的整理や民事再生を利用すればある程度の圧縮は可能です。ただ、圧縮されてもそれさえ返済できなければ、これらの手続きでは解決できません。
自社の事業にどのくらいの収益性があるか、将来も収益力を保ち、あるいは高めていけるのかを検討しましょう。

後継者がいるか

経営者が高齢になって経営の継続が難しくなっている場合、後継者がいれば事業承継によって会社を残せます。子どもに承継させるのが難しければ、従業員や役員、M&Aを利用して他社へ事業承継させる方法もあります。
後継者不足で廃業を検討しているなら、別の方法での事業承継を視野に入れてみてください。

会社のたたみ方、廃業の方法

会社を廃業するときには、状況に応じて以下の3種類の方法から選択しましょう。

清算

清算は、会社が資産超過のときに適用する通常の廃業方法です。「清算人」を選任し、資産を換価して債権者へ配当し、株主総会の承認を経て解散結了登記をすれば、会社を閉鎖できます。
通常清算の場合、会社の代表取締役が自ら清算人として廃業の手続きを進められます。
裁判所への申立も不要で自分たちだけで解決できるので、負担も小さくなるでしょう。

特別清算

特別清算は、会社に債務超過の疑いがあるときに廃業する方法です。特別清算人を選任して手続きを進めますが、その際裁判所への申立が必要です。裁判所の監督のもと、特別清算人が財産の換価や債権者への協議、和解などの手続を進めます。最終的に和解や協定が成立して支払を行い、登記が完了すれば会社が閉鎖されます。
特別清算の場合、代表取締役自身が特別清算人となることも可能ですが、裁判所への申立が必要です。債権者の同意を得られない場合や資産の額が著しく少ない場合などには「破産」に移行する可能性もあります。そうなったら代表取締役の手から離れて「破産管財人」が手続きを進めます。
また裁判所への申立には大変な手間が発生するので、自分たちだけで進めるのは難しく、弁護士によるサポートが必須となるでしょう。

破産

破産は債務超過や支払不能となった企業が廃業するための手続きです。会社が破産すると、会社の資産と負債を清算して最終的に会社を消滅させます。
破産の手続きを進めるのは、裁判所から選任された「破産管財人」であり、会社の代表取締役ではありません。
裁判所への申立が必要で、予納金などの費用もかかります。
自分たちだけで破産手続きを進めるのは困難なので、弁護士に依頼しましょう。

事業を残す方法

経営状態が悪化しても、再生型の倒産手続きを利用すれば会社を残せます。

典型的な再生型の倒産手続きは、以下の2つです。

私的整理

私的整理は、債権者と個別に交渉をして支払額を減額してもらう方法です。
主な交渉先は金融機関となります。
あまり大幅な減額は難しいですが、裁判所への申し立ても不要で「倒産」というマイナスイメージもつきにくく、柔軟に対応しやすいメリットがあります。

民事再生

民事再生は、裁判所へ申し立てて再生計画を立案し、負債を大幅に圧縮してもらう手続きです。債務の減額率が高いので、負債額が大きく膨らんでいる場合でも再生できる可能性があります。裁判所が関与しますが、基本的には申し立て会社の経営者が自ら手続きを進められるのもメリットとなるでしょう。

ただし一定以上の債権者の同意がないと再生計画案が認可されません。また裁判所を利用するので手続が重厚となり、時間も労力も費用もかかります。

事業承継について

「後継者がいない」という理由で廃業を検討しているなら、M&Aを利用した事業承継(会社売却)を利用してみてください。債務超過の企業でも、状況によっては売却が可能です。

M&Aとは、他社に自社を買い取ってもらう企業再編の手続きです。株式譲渡や事業譲渡を行い、買い手企業に事業を引き継いでもらいます。 優良企業であれば、オーナーの予想以上に高額な価額で買い取ってくれる企業も現れるでしょう。黒字経営なのに後継者不足で廃業するのはもったいないので、ぜひ検討してみてください。

破産・清算の流れ

会社を清算・破産するときの流れをパターン別にご説明します。

通常清算の場合

資産超過の会社が廃業するときの通常清算の手続きは以下の通りです。

株主総会で解散決議を行う

まずは株主総会特別決議で会社の解散を決定しましょう。その際「清算人」を選任します。ただし、あらかじめ定款で清算人の選任方法が定められていたら、指定される人が清算人となります。

解散や清算人の登記

株主総会特別決議で解散が承認されたら、2週間以内に法務局で登記をします。

官報公告

次に官報公告を行います。官報公告とは、政府の発行する「官報」に会社の解散について掲載することです。会社の解散を債権者に知らせて一定期間内に債権届出を促すために行います。

財産目録、貸借対照表の承認

財産目録や貸借対照表を作成し、株主総会で承認を受けます。

資産売却や債権回収

不動産や在庫商品などの資産を売却し、現金化していきます。未回収の売掛金や貸付金などの債権も回収を進めましょう。個別に資産を売却するのではなく「事業譲渡」する方法もあります。

債務の弁済

資産売却等によって得られた資金で負債を弁済します。通常清算を終えるには、すべての負債を支払わねばなりません。弁済資金が足りない場合、特別清算か破産が必要となります。

残余財産の分配

債務を完済して資産が残ったら、株主へ分配します。

株主総会で決算報告の承認

残った財産、株主への配当額、経費などを記載した決算報告書を清算人が作成します。
株主総会決議で承認されたら、会社は消滅します。

清算結了登記

清算手続きが終了したら「清算結了登記」を行います。これにより、会社の商業登記簿が閉鎖され、会社が消滅した事実が世間的にも明らかになります。

特別清算の場合

株主総会で解散決議を行う

特別清算の場合も、まずは株主総会特別決議で「解散決議」をしなければなりません。このとき「特別清算人」も同時に選任するのが一般的です。

特別清算の申立てと開始決定

特別清算の場合、裁判所への申立が必要です。
裁判所が特別清算手続きの開始決定をすると、手続きが開始されます。

債権届出の公告・催告

会社の債権者に対し、債権届出を促すために官報公告をします。会社が把握している債権者には、個別に連絡して債権届出を促します。

財産調査、換価

特別清算人は財産調査を行い「財産目録」を作成して裁判所に提出します。また資産を売却したり債権回収したりして、弁済資金を集めていきます。

債務の弁済(和解・協定)

特別清算には和解型と清算型の2種類があります。
和解型の場合、すべての債権者と個別に合意して弁済をします。
協定型の場合、債権者集会を開いて承認を得た上で、裁判所の許可を得て債務を弁済します。

清算結了の登記

負債の弁済手続きが終了したら、裁判所の決定によって特別清算手続きが終了し、会社が消滅します。
法務局で清算結了登記が行われて、会社登記簿が閉鎖され、すべての手続きが終わります。

破産の場合

取締役会決議

取締役会が機能している場合、取締役会を開催して破産を決定します。取締役会を開けない場合には個々の取締役が破産を申し立てることが可能です。

弁護士に依頼

弁護士に破産申立を依頼しましょう。弁護士が債権者へ受任通知を発送すると、会社への直接の取り立てが止まります。

申立

準備ができたら、管轄の裁判所へ破産申立を行います。

破産手続き開始決定、破産管財人の選任

裁判所で「破産手続き開始決定」がおり、破産手続きがスタートします。同時に破産管財人が選任されます。

破産管財人との面談、財産換価

破産管財人と面談し、これまでの経過などを話して財産の資料を受け渡します。その後葉酸管財人が財産の換価を進めます。

債権者集会

破産手続きの進行中、1か月に1回程度債権者集会が開かれます。申立人や代表取締役も出頭しなければなりません。

配当

換価が終了すると、破産管財人が債権者へ平等に配当を行います。

終結

破産手続きが終結し、会社は消滅します。会社登記簿も閉鎖され、対外的にも会社の消滅が明らかになります。

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企業が意識すべき「コーポレートガバナンス」について弁護士が解説

「コーポレートガバナンス」(Corporate governance)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、各企業が組織体制を整えて適正に運営するためのシステムです。
上場会社の場合には「コーポレートガバナンス・コード」というガイドラインを守らねばならず、近年に改正も行われています。

「コーポレートガバナンス」という言葉は知っているけれど具体的に何なのか、どのように対策したら良いのかわからない経営者の方も多数おられるでしょう。

今回は各企業が構築すべき「コーポレートガバナンス」の基本とコーポレートガバナンス・コードや改正内容について、簡単に弁護士が解説します。

コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンス(Corporate governance)は、英語で「企業統治」を意味します。
もともとは「投資家(株主)に利益が還元されるように、企業が適正に経営されるためのシステム」が企業統治の考え方です。

会社で不正が行われると、株主に利益が還元されません。たとえば粉飾決算が行われたり、取締役の報酬を不当に高額にされたりずさんな経営が行われたりすると、会社の経営状況が悪化したり破綻したりして株主に不利益が及びます。
そこで会社の統治体制を適正に整えることにより、健全な経営を進めて株主に配当や株式価格の上昇などによる還元を行おうとするのがコーポレートガバナンスの考え方です。コーポレートガバナンスは「正しい企業統治のあり方」を実現するためのものです。

たとえば「会社法」において、重要事項については取締役会や株主総会における決議が求められますが、これもコーポレートガバナンスの1種です。会社規模に応じて取締役会、監査役会、各種の委員会などを設置して企業統治体制を整えることも可能となっており、こういった機能を駆使して、各社がコーポレートガバナンスを実施しています。

また近年の「コーポレートガバナンス」においては、株主だけではなく「従業員や取引先、顧客や金融機関などのすべてのステークホルダー(利害関係者)」への影響を考慮しながら企業を運営するためのシステムとしての役割も重視されています。特に上場企業では高いコンプライアンス意識と適正なコーポレートガバナンスの実施が求められます。

コーポレートガバナンスの目的

「コーポレートガバナンス(企業統治)を適正に行わねばならない」といわれても、具体的に何をすれば良いかわからない経営者の方もおられるでしょう。
そもそも「コーポレートガバナンス」の目的は何か、理解しておくと答えが見つかりやすくなります。

企業の不祥事防止

コーポレートガバナンスの目的の1つは、企業における「不祥事防止」です。経営陣が不正を働くことができないよう、内部統制や監査のシステムを整えて監視します。

収益力の向上

もう1つの目的は、会社の収益力の向上です。しっかりと利益を出して株主に利益還元を行うことはもちろん、従業員にもきちんと賃金を払ってワークライフバランスを実現させ、顧客や取引先にも良い商品やサービスを提供する、これらの集積によって社会における会社への信用を高めてさらに収益性を高めていく、こういった良循環を実現することがコーポレートガバナンスの目的といえます。

コンプライアンスとの違い

コーポレートガバナンスはコンプライアンスと似ているので混同されている方もいらっしゃいますが、両者は異なる概念です。

コンプライアンスとは

「コンプライアンス」は「法令遵守」です。会社におけるコンプライアンスは「法令を遵守しながら業績を向上させるための事業経営」を意味します。

コーポレートガバナンスとの違いと類似点

コーポレートガバナンスは株主や他のステークホルダーに利益をもたらすための「企業統治体制」であるのに対し、コンプライアンスは「法令をしっかりと守りながら業務運営すること」であり両者は異なる概念です。
またコンプライアンスは企業統治体制だけではなく「労働基準法の遵守」「消費者保護」「知的財産の適正な活用」「持続可能な開発へ配慮した企業活動」「社会貢献」など、他の要素も含みます。その意味でコンプライアンスはコーポレートガバナンスよりも広い概念といえるでしょう。

ただコーポレートガバナンスは「会社法」や「コーポレートガバナンス・コード」などの法令にもとづく要素が大きいので、コーポレートガバナンスを適正に実施しようとすればコンプライアンスを守ることにもつながります。この意味で両者は密接に関連します。また、株主や会社のステークホルダーへ利益を還元するという目的も重なる部分があります。

こういった類似点があるので、コーポレートガバナンスとコンプライアンスがときおり混同されています。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの関係

コーポレートガバナンスを適正に実施することはコンプライアンスの実現に必須です。その意味でコーポレートガバナンスはコンプライアンスを実現する「手段」の1つといえるでしょう。

コーポレートガバナンスの実施方法

コーポレートガバナンスは、「内部統制」と「監査」によって実施します。「内部統制」とは、企業が不正を行わずに適切な方法で業務目的を達成できるよう統治するためのシステムです。

内部統制を適切に行うためには経営者(代表取締役)や取締役、監査役、委員会などの企業内部の組織作りが重要です。会社法には企業の組織体制についての基本事項が定められていますが「必ずこのようにしなければならない」と決まっているわけではないので、自社の状況に応じて組織体制を編成する必要があります。 またコーポレートガバナンスで重要なのが「監査」です。監査役を置くことはもちろんのこと、監査役会を設置したり社外監査役を入れたりして、適正に監査が行われる体制を整えねばなりません。

具体的な取り組み方法

コーポレートガバナンスを実施するための具体的な取り組みとしては、以下のような方法が考えられます。

  • 適正に企業統治をしつつ経営を進めるための優秀な人材を確保
  • 法令に関する知識と理解
  • 取締役と執行役の分離
  • 取締役などの役員報酬の開示
  • 自社の規模や状況に応じた統治体制の整備
  • 社外取締役の設置

コーポレートガバナンスの注意点

企業がコーポレートガバナンスを構築する際、注意点があります。それはコーポレートガバナンスを重視するあまり、スピーディな経営判断や実施ができなくなって事業運営に支障が及ぶリスクです。コーポレートガバナンスやコンプライアンスを意識しすぎると、必要な企業改革を進めにくくなるケースも少なくありません。つまり企業の発展に重要な「身軽さ」が失われる可能性があります。 また株主や各種ステークホルダーの利益を追求する際、どうしても短期的な利益に目が行って長期的な利益を得にくくなる傾向もみられます。

適正なコーポレートガバナンスを構築するには、こういった注意点にも配慮していく必要があります。

コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンスに関連して「コーポレートガバナンス・コード」という言葉を聞いたことのある方も多いでしょう。
コーポレートガバナンス・コードとは「企業統治の指針」を意味します。金融庁と東京証券取引所が取りまとめた「上場企業に適用される企業統治のガイドライン」であり、2015年6月から適用されています。

コーポレートガバナンス・コードでは、会社が株主や顧客、従業員などのステークホルダーや地域社会をも見据えて透明、公正、迅速かつ適正な意思決定を行うための基本原則が示されています。基本的に、以下の5つの章によって構成されます。

株主の権利・平等性の確保

企業は株主利益の最大化を図るとともに、それぞれの株主を株式数等に応じて平等に取り扱わねばなりません。

株主以外のステークホルダーとの適切な協働

従業員や取引先、顧客などのステークホルダーとも良好な関係を築く必要があります。

適切な情報開示と透明性の確保

企業内部の情報を適切に開示し、経営の透明性を確保する必要があります。

取締役会等の責務

企業の適正な統治に欠かせない取締役会をはじめとした経営陣の責務についても定められています。

株主との対話

企業と株主がコミュニケーションをとりながら企業統治を進めていく必要があります。

コーポレートガバナンス・コードでは会社の適正な統治と持続的成長のために、独立した社外取締役を2人以上選任することが要求されています。これを受けて東証の上場企業では複数の社外取締役を選任する動きが強まり、コーポレートガバナンス・コード導入前は21.5%に過ぎなかったところ2018年には91.3%の上場企業が2名以上の社外取締役を選任する成果を発揮しています。

コーポレートガバナンス・コードの適用対象

コーポレートガバナンス・コードが適用されるのは「東証の1部または2部に上場している企業」です。上場していない企業はコーポレートガバナンスを遵守する必要はありません。
またコーポレートガバナンス・コードは法律ではなくあくまで「ガイドライン」です。遵守しなかったからといって「違法」になるわけではありません。
ただし上場会社の場合、コーポレートガバナンス・コードを守っていないと東証による評価が下がり、最悪の場合には上場廃止などの不利益を受ける可能性もあります。

またコーポレートガバナンス・コードだけではなく「会社法」にも規定のある内容については、非上場会社であってもきちんと守らねばなりません。

さらにコーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方は非上場の中小企業にとっても参考になるものです。非上場であってもその内容を知り自社の企業統治に役立てるのは経営の際に有用となるでしょう。

なお、上場企業の場合には証券取引所へと「コーポレートガバナンス報告書」を提出しなければなりません。報告内容は証券取引所のウェブサイト上に掲載されます。

コーポレートガバナンス・コードの改定

実は2018年、コーポレートガバナンス・コードが改定されています。改定内容を簡単にご紹介します。

経営戦略や経営方針の策定、公表に際しての規制

企業は経営戦略や経営方針の策定・公表を行う際、自社の資本コストについて的確に把握する必要があることが定められました。また事業ポートフォリオを見直し、設備投資や研究開発投資、人材投資などについても適切に説明をしなければならないとされました。

経営陣の適正な選解任について

各企業は、経営陣幹部や最高経営責任者の選解任の際、公正で透明性の高い手続きにより適切に行うべきと定められました。後継者計画についても適切に監督が行われるべきとされています。

経営陣の適正な報酬決定方法

経営者の報酬が適正に定められるよう、取締役会が「客観性、透明性の高い手続きによって報酬制度を設計し、具体的な金額を決定すべき」とされました。

諮問委員会の積極的な活用

会社の公正な運営のためには社外の諮問委員会の活用が役立ちます。そこで指名委員会や報酬委員会がより活用されやすくするため、一定の企業には指名・報酬に関する諮問委員会の設置を求めるとされました。

取締役の多様化

取締役を選任する際、国際化やジェンダー面をも配慮するよう求められるようになりました。つまり外国人や女性を積極的に登用すべきという意味です。

持合株式の規制

持合株式などの政策保有株式は規制されます。毎年取締役会において、保有目的や保有に伴う利益・リスクがコストに見合っているかなどを検討し、保有の是非を検証して公表しなければならないと定められました。

企業年金について

企業年金が適正に運営されるよう、各企業は資質を持った運営者を計画的に登用、配置すべきとされました。またそういった取り組み内容を公表すべきと定められました。

企業が適切にコーポレートガバナンスを実施するために

コーポレートガバナンスの理解は難解で、正しく把握するには専門的な知識が必須です。 また近年では時代や考え方の変化、移り変わりが特に激しくなっており、上述のコーポレートガバナンス・コードの改定からもわかるように各企業に求められる内容がめまぐるしく変化し続けています。中小企業経営者がコーポレートガバナンスを適正に理解し運営していくためには、法律の専門知識を持った弁護士によるサポートが不可欠といえるでしょう。

当事務所では弁護士が神戸市東灘区を拠点として各中小企業に対し、難しいことでもわかりやすくアドバイスを行っており、会社の状況に応じたコーポレートガバナンス(企業統治)体制をもご提案しております。今後上場を見据えておられる場合にも有用な助言をさせていただきます。

近年の企業に求められるコンプライアンスやコーポレートガバナンスの高い基準をクリアして適正に企業運営を行っていきたい経営者様は、ぜひとも顧問契約をご検討ください。まずはお気軽にご連絡いただけますと幸いです。

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契約書作成やチェック時にありがちなミスと注意すべきこと【企業担当者必見】

企業にとって契約書の作成やチェックは非常に重要な仕事です。従来は契約書を作成していなかった会社でも、近年のコンプライアンス意識の高まりにより、あらためて契約書を作成するケースが増えています。

ただ、契約書の作成やチェック作業は「ひな形」や「テンプレート」「書式」をあてはめれば良いというものではありません。機械的に契約書書式を使っていると、いざ問題が起こったときに何の役に立たないといった事態が起こり得ます。

今回は、契約書の作成やチェック時によくあるミスと注意すべき点について、日々の顧問先からのリクエスト、上場企業の法務部での実務経験を踏まえて、当事務所の弁護士が解説します。

契約書の作成・チェック時によくあるミス

契約書を作成したりチェックしたりする際、以下のようなミスが発生しがちです。

甲乙を反対にしてしまう

初歩的ですが非常に多いのが、「甲」と「乙」を反対にしてしまうパターンです。契約書の冒頭で「甲」と「乙」を特定しますが、途中で入れ替わってぐちゃぐちゃになったままの状態です。後から「一括変換」などで甲と乙を入れ替えようとしたときに、一部が上手く行かなかったのでしょう。特に、長年同じ契約書を使って、途中で何度も書き換えながら使っているような場合に、頻繁に起こるミスです。

甲乙が入れ替わると契約書の意味がまったく変わってしまいます。初歩的ですが生じがちです。無効な条文として扱われたり、不要な義務を負わされたりするので絶対に避けましょう。

法定記載事項が抜けている

一部の契約書には「法律により記載しなければならないこと」があります。たとえば特定商取引法や産業廃棄物処理の処理委託契約書、会社の合併契約書などには、必ず記載しなければならない事項があり、記載がないと契約は無効になります。このような法律上記載を要求される事項を「法定記載事項」といいます。

契約書を作成・チェックするときには法定記載事項を抜かさないように注意が必要です。とはいうものの、何が法定記載事項なのかを、十分に調べられることが大前提となります。

公正証書にしなければならない書面を公正証書にしない

契約書の中には「必ず公正証書にしなければならない」ものがあります。たとえば事業用の定期借地権契約書が該当します。事業用の定期借地権契約書を通常の書面で作成してしまった場合には「普通借地契約」の効果しか発生せず、期限が来ても強制的に契約を終了させることができません。

契約書の作成・チェック業務を行うときには法律上「公正証書化」が必要かどうか、しっかり確認すべきです。この問題も、そもそも公正証書にする必要があるかを、十分に調べられることが大前提です。

契約日付を勝手に遡らせる

契約書を作成したとき、日付を空欄にしたままにするケースがあります。

このような状態は、後に都合良く証拠にする目的などから、「実際の締結日より遡らせる」ケースが見られます。また故意がなくても「いつ契約締結したか分からなくなって、適当な日付を記入してしまう」ケースもあります。

しかし実際の日付とは異なる日付を記入すると、契約の実態とのズレが生じた場合、相手方から無効を主張されるリスクが高まるので、空欄の方が使い勝手がよいとの思い込みは改めましょう。

例えば、下手に日付を操作して、「契約締結の日付において、契約書の署名押印者に代表権限がなかった」などの状況が生じたら、契約書にもとづく請求や主張は認められません。

契約書を作成するときには、実態から離れて勝手に日付を遡らせたりせず、契約書を作成したらすぐに作成日付を書き入れるようにしましょう。事故の元にしかなりません。

取引の実態を反映しない

契約書には、取引の実態を反映する必要がありますが、書式やテンプレートを利用すると、実際の取引とは異なる内容になってしまうケースが起こりがちです。

また当事者間で話し合って実態とは異なる内容の契約書を合意して作成してしまうケースもありますが、そのようなものは「無効」と判断されるおそれもあります。

これらのようなズレが生じるのは、2つの理由が考えられます。1つは、実態を調査してそれに適合させた(カスタマイズした)契約書を準備する手間を惜しんだ場合です。限られた時間・コストで契約書を準備しようとすると、どうしてもやってしまいがちです。もう1つは、一方が契約書を自分に有利にしようとし過ぎていて、無理な内容で契約を形作ろうとしている場合です。これも結局はトラブルを誘発するので、中長期的には双方が損をします。

担当者が契約書をチェックする際には、「実際の取引がどうなっているか」まで確認する必要があります。実はこれが最も難しいことでもあるのですが。

虚偽の契約書を作成してしまう

現場の者同士の話し合いで、取引実態がないのに契約書を作成してしまうケースがあります。しかし虚偽の契約書であっても、いったん作成してしまったら、その内容に拘束される可能性があります。このような事態が生じるは、様々な場合が考えられますが、よくあるのは現場担当者がノルマ等を無理矢理に達成したい場合です。

虚偽の契約書であっても、事情を知らない第三者に対しては、虚偽であることを主張できません。もちろん、相手の気が変わって契約書にもとづいた請求をしてきたとにも、無効だと反論できる保証はありません。特に担当者が退職していたりすれば、残った証拠は契約書だけとなり、本当は空約束なのに代金や商品を渡さなければならない可能性は高まります。

法務担当者は、契約書のチェック依頼が上がってきたとき「虚偽ではないか」と気づける嗅覚が必要です。これは単に「法律に詳しい」だけでは足りず、自社の営業体制や業界の実態まで、深く知っておくことが重要となります。当事務所では、そのような顧問先の現実に即した助言・サポートを得意としています。

社内の決裁手続きを無視してしまう

契約の締結時には、社内で決裁ルールが決まっているはずです。まずは現場担当者が、法務部や上長に契約書のチェック等を依頼し了承を得て、役員や社長などが最終決裁をして代表取締役の印を押す、などの流れです。

そうした社内的な決済手続きを軽視していると、後に大きな問題が発生する可能性があります。もちろん、自社内の手続き不備を持ち出して、相手方には「無効です」「撤回します」などと主張することは通常は通りません。相手からは契約通りの義務の履行を求められるのが普通です。

自社内の手続きにせよ、相手方の社内手続きにせよ、いずれかが軽視されていると、あとから「いや実は・・・」と契約の無効を申し出られる可能性があり、トラブルを招きます。特に継続的な取引関係にある取引先については、定期的に社内決済の手順について質問し、それが守られていることを確認しましょう。

契約締結権限のない人が契約締結してしまう

契約書を作成・チェックする過程では「誰が契約を締結するか」という点にも注意が必要です。会社名を記載し代表取締役が記名押印すれば基本的に有効ですが、代表権のない一担当者などが署名押印したものは、会社同士の契約書とならない可能性が高くなります。自社側がきちんと契約締結の手続きを踏んで代表者が記名押印していても、相手側がきちんと代表者が代表者の実印を押していない可能性もあります。

相手を信頼しすぎてしまう

契約書の内容面でも問題は起こります。よくあるのが「相手を信頼しすぎて、きっとこちらの立場にも配慮してくれるだろう」との期待に基づく契約です。

契約書作成の際、相手に配慮しすぎたり、きっと大丈夫だろうと信頼しすぎるのは危険です。契約の直前直後なら、お互いに「仲良くやっていきましょう」という雰囲気が支配的であることが、むしろ普通かもしれません。しかし、それは担当者がいつまでも変わらないとか、相手の社内情勢が不変であるとか、市況に変化が起こらないとか、中長期的には現実的ではない前提に依存しています。しばらくして事情が変われば、「そこまで求めてくるか!」というような、自社に不利な要求を突きつけられることでしょう。それは、契約書で相手を信頼しすぎたことが原因です。目指すべきは、契約書の内容はキッチリ作り込むが、取引先との人的関係は穏やかに付き合えることです。契約締結の交渉で多少の緊張やストレスを受けてでも、条項だけはキッチリ詰めましょう。そのような負担やストレスを軽減し、利益を守るために、顧問弁護士を利用するのです。当事務所では、単に契約書の条文をいじるだけではなく、取引先との関係をより強化することが可能な施策も準備しています。

リスクを見落としてしまう

契約書を作成・チェックするときには「リスクが潜んでいないか」しっかり見極める必要があります。書式やテンプレートをそのまま用いると、自社の現状にとってはリスクとなる要素があっても、形式が整っているので素人目には発見しにくいでしょう。結局、トラブルが生じてから大きなリスクが潜んでいたことに気づくことになります。そのときになって「きちんと専門家に確認してもらうべきだった」「もう少し調べておけば良かった」と後悔しても、すでに契約書ができてしまっている以上やり直しはできません。

契約書はお互いを拘束する強い効果を持つ書面なので、チェックや作成業務を進める方は、重い責任を負っています。自社の現状におけるリスクについて知悉し、慎重に対応すべき責任があります。とはいうものの、「リスク」について、自社と相手方の関係、取引内容、将来の市況予測、今後望むつきあい方、本契約の真意や経済的利益を超えた狙い、等々について全体的に把握しないと、自社の現状におけるリスクは計算できません。正直、このようなリスク計算をした上での助言は、一発的な契約書チェックの場合に行うことは限界がります。顧問契約を締結させていただき、御社(従業員・経営理念・事業実績・将来展望等々)はもちろん、取引先、業界、利害関係者まで含めて全体を把握して、その上で、当該契約のリスクを計算させて欲しいのです。基幹的な契約書については特にそう感じています。

契約書作成、チェック時にトラブルやリスクを避けるための注意点

契約書を作成・チェックするとき、ミスを防いで将来のトラブルやリスクを予防するには、以下のようなことに注意しましょう。

1日おいてしっかり表記を読み返す

契約書のチェックや作成の業務を終えたら、必ず時間を置いて何度も見返しましょう。同じ日に何度も読み直しても、ミスは見つけにくいものです。社内的な風土としても、契約書等のチェックは、一呼吸あけて再チェックをする文化へと変えていきましょう。

1日おいてはじめから終わりまで見返したら、甲乙の表記が反対になっているなどの初歩的なミスはすぐに見つかります。1日おくだけで、「ここは自社に不利だ」「実態と異なっている条文だ」などと気づける可能性は上がります。

作成直後に見返してもミスを発見しにくく、時間を置いて見返すことをお勧めします。

甲乙の表現を使わない

契約書において「甲」や「乙」の表現を使わないのもミスを防ぐ方法としてあり得ます。「当社」「お客様」「〇〇社」「△△社」などと表現しても契約書としては有効なので、そういった表記にすると甲乙が混乱するリスクを避けられます。特に、何ページもあるような契約書ではなく、1ページの簡単な契約書ならば、無理に格好良くするために甲や乙にする必要はありません。当事者が誤解しない表現として固有名詞ではっきり記載すれば十分です。甲や乙を使って混乱するのならば本末転倒です。

法律による規制内容をチェックする

法律上必ず記載しなければならない「法定記載事項」や、法律上必ず公正証書で作成しなければならない種類の契約書など、「法律によって作成方法や内容にルールがあるもの」についてはきちんと法律に従いましょう。法務担当者がいれば、その方がリサーチするのは当然です。しかし、中小企業は、そのような部署がないのが通常だと思います。そのときは思い切って顧問弁護士を見つけて依頼しましょう。特に事業を拡大している事業者は、法律の専門家である弁護士にリサーチだけでも依頼して、その上で、契約書を照らし合わせて「有効と言えるのか」チェックするべきです。多分こうだろうという感覚だけで続けず、自社が事業を拡大するタイミングや、新規事業に手を出すとき、あるいは人を増員する計画がある場合など、できるだけ顧問弁護士を雇って厳密に調べてみることをおすすめします。

目的を理解して契約書を作成する

契約書にはそれぞれ「目的」があります。売買、請負、フランチャイズ、雇用、リース、合併、コンサルティング、秘密保持などなど、いずれの場合も目的があります。

また、それぞれにおいて、当事者が「実現したい意図」があるはずです。たとえば「できるだけ途中解約を防ぎたい」「代金不払いを防止したい」「損害賠償を制限したい」「最低限〇〇についての損害賠償を受けられるようにしたい」「〇〇の情報が漏れない形で事業を進めたい」「自社に独占的に取り扱いさせて欲しい」「料金をあとからある程度は変更できるようにしたい」などなど。

このような個々の契約における「目的」や「意図」をはっきり自覚していないと、実情に沿った契約書を作成できません。単にテンプレートをあてはめるのではなく、「契約によって何を実現したいのか」という目的意識をもって契約書の作成やチェック業務を進めるべきです。

とはいうものの、この問題は、実は非常に奥が深く、かつ、単に法律に詳しいというだけでは、効果的に達成することはできないテーマです。正直、いちおうのヒアリングを行って、それに沿って、目的を設定するだけでは十分とは言えない場合があります。少なくとも、自社の基幹的な契約や、新規事業の契約等については、自社とその取り巻く状況を深く理解してもらった上で、目的をクリアにした契約書を準備するべきです。

その効果は2つあります。1つは、当然ですが契約書の内容が自社の利益を守ってくれる(有利である・不履行になりにくい)ものになることです。もう1つは、むしろ、こちらの方が中長期的には重要だと感じているのですが、自社が何をしているか、どのように利益をあげているか、などについて非常にクリアになるということです。

会社の個々のメンバーは、契約書を作ることが専門ではない場合がほとんどでしょう。目の前の実務で忙殺される毎日のはずです。当該契約のビジネスモデルが明確に分かっていないことは、いくらでも起こります。誰もが多忙であり仕方ないことです。しかし、自社の重要な契約書くらいは、目的にこだわって作成してみることをおすすめしています。時々立ち止まって、「この契約の目的は何なのか」を突き詰めてみることは、契約後の実務においてかならず役に立ちます。そのため当事務所では、法律の知識・情報の提供に留まらず、トータルに生産性が向上するような様々なサポートを提供しています。

現場担当者に実態を確認

契約書作成やチェックをしても、取引実態と違っているものであったり虚偽であったりすると、後に大きなトラブルにつながります。

このリスクを防ぐため、極力、現場担当者に取引実態を確認しましょう。不明点があれば具体的にただした上で、実態に沿った契約書に手直しすることが重要です。実態に沿っていない可能性がある場合、上位の決裁権者などに相談して適切な対応を検討しましょう。しかし、このような作業を内部者だけで行うことは面倒です。そこで、顧問弁護士に介入してもらって、社内的な調査を行ったり、社内的な調整を行ったりするのはどうでしょうか。顧問弁護士は、良い意味で身内です。遠慮せずに時には社内にも入ってもらい、実態に合った契約書に手直ししてもらうべきです。内部でかかえすぎず、リサーチや調整役としても顧問弁護士を使っていきましょう。

過去の取引実態や経緯を確認

近年では、新たに契約関係に入る場合だけではなく、既存の契約において権利義務関係を明確にするために契約書を作成するケースが増えています。特に、古くからつきあいがある取引先とは、信頼関係でずるずると何十年も契約書なしという場合も、よくある事例です。さすがにそろそろ改善したいという希望をお持ちの会社も多いでしょう。

その場合、過去の取引実態やこれまでの経緯等をしっかり確認して契約書に反映する必要があります。契約書以外の覚書等の簡単な文書が交わされている場合や、相手から書面が差し入れられている場合などもあるので、見落とさないように確認しましょう。そうすると、1つの契約であっても、書類が3つも4つも出てくることはざらです。契約書は1つにまとめた方が良いとは必ずしも言えませんが、1種類か2種類くらいにまとめられるなら、読みやすく管理もしやすいはずです。

古くからの取引先に切り出すまえに、どのような契約書にまとめればよいか、「次回は契約書をつくりましょう」と切り出すときに、何に注意すればよいか。あなたの会社の実態と取引先との関係を十分に理解した弁護士からアドバイスを受けるべきです。

社内の決裁手続きに従う

契約書を作成するときには、必ず社内の決裁ルールに従う必要があります。契約内容のチェックや作成だけにとどまらず、必要な手続きを経て権限のある人が署名(記名)押印しているかなど、細部まで確認しましょう。

相手とのバランスを意識する

契約書を作成するときには、「相手方とのバランス」が重要です。どちらから有利になりすぎていたり、どちらかが一方的に不利になっていたりする契約書は作成すべきではありません。

契約の目的は、基本的にお互いが取引から利益を得てウィンウィンの関係になることです。相手(多くの場合は契約当時の直接の担当者)を信頼しすぎていないか、それぞれの担当者が変わっても問題が起こらない内容か、言いたいことを遠慮しすぎていないか、逆に相手に不当な条件を突きつけることになっていないか、結局は守られなくなるような無理な要求になっていないか、内容面をしっかりチェックしましょう。

内容が法律違反になっていないか確認

契約書の内容面において一方的にどちらかが有利になっていると「独占禁止法違反」「下請法違反」「消費者契約法違反」「宅地建物取引業法違反」などの違法なものとみなされるリスクが発生します。法務担当者はこうした法律についても理解し、意識する必要があります。現実的には、中小企業では法務担当者がいない場合が多いと思います。事実上、法律的な質問を受けたりする立場の人、会社に拠りますが、総務担当だったり、営業部長だったりが多いでしょう。そのような専門にしていない方々が対応しなければならない場合は、個人の負担が大きくなります。この負担を下げるには、理想は顧問弁護士を見つけることです。

いきなり顧問を頼むのが重い場合は、当事務所では、研修を一般の社員向けに行ってコンプライアンス意識高めるサービスを提供しています。業界に関係の深い法律の基礎的知識を説明し、現場レベルで違法な内容の契約が生じにくいようにします。そのような研修を受講するうちに、事実上の担当者(総務や営業部長など)の負担を下げ、本来の業務に専念してもらうことができるようになります。

リスクの見落としがないかさまざまな観点から確認

契約書のチェックや作成の際には「リスクの回避」が極めて重要です。そもそも契約書を締結する目的は「お互いのリスクやトラブル予防のため」であるのが一般的です。

チェック担当者のミスでリスクを見落としてしまったら、契約書を作成する意味がありません。

契約解除の条項、損害賠償に関する条項、代金支払い義務の発生時期、お互いの基本的な義務内容や違約金条項、反社会的勢力の排除条項など、重大なリスクに絡む重要な点がいろいろあります。できるだけ幅広くリスク可能性を予測し、排除するのが契約書チェック・作成担当者に求められる資質です。また、現実的な話しとして、自社にとってリスクになる条項が、必ずしも相手方にとって得になる訳ではないという発想も重要です。

自社にとってはリスクであり、相手にも利益とならない内容のままでは、契約書の意味がありません。そのような条項を発見するには、法的な文言としての意味はもちろん、契約内容が実際にどのように履行されるかまで含めて理解し、双方の損害を小さくし、ウィンウィンの関係を築こうという視点が大切です。

取引開始前に契約書を作成する

契約書は、取引開始後、つまり事後的に作成しても有効です。急いでいるケースでは、先に取引がスタートし、後に追随する形で契約書を作成する事例も多いでしょう。

しかし、できる限り契約書は事前に作成すべきです。実際に取引が走り出してしまうと、「とにかく形を整えなければならない」「とりあえずうまくいっているから契約書は後回しで良い(作らなくて良い)」などの考えになりがちで、契約書の審査が適当になってしまうためです。

取引を開始する前に慎重に吟味した契約書を作成し、リスクを排除しておきましょう。それだけで思い通りに上手く行くほど仕事は甘いものではありませんが、スタートした取引がダレたりすることを防げますし、何より、目の前の取引が法的にどう説明されるかについてクリアにしておくことは、取引先・顧客・従業員等に対してサービスの説明をする際に、説明する内容についての自信が全く異なってきます。

顧問弁護士の活用

契約書を作成・チェックする際には、法定記載事項の確認、内容が法律違反にならないかどうか、お互いのバランス、取引実態との整合性、契約目的を達成できるかの検討などなど、多面的な知識と配慮が必要です。そのためには法律の深い素養がないと、杓子定規なアドバイスに終始しがちになります。他方で、そのビジネスミスについての全体像を把握していなければ、現場の隠れたたリスクを予防するのは無理でしょう。さらに、自社内の限られたスタッフのみで、リーガルチェックを行うのは質・量の両面で難しいケースもあるでしょう。

そのような場合、顧問弁護士を活用してはいかがでしょうか?顧問弁護士がいれば、契約書のリーガルチェックや作成を外注できるという分かりやすい利益はもちろん、自分達だけで進めていると全く意識できなかった問題点・改善点を教えてもらえます。特に、当事務所では、単なる社内リソースの節約という意味に留まらず、顧問弁護士を入れることで、人材獲得・育成、営業、マーケティング、財務、経営についてまで、テコ入れを行うサービスを準備しております。

まずは、契約書チェック・作成から始めてはいかがでしょうか。現在、当事務所は企業法務に重点を置いており、今後はより一層専門的なサービスを提供できるようにする所存です。特に、人員を増やしている会社、新しい事業展開を検討している会社などは、業種を問わず、顧問弁護士を入れる利益が大きいと思います。ぜひ一度お問い合わせください。

問題社員対応

社内に問題社員を抱えていると、経営者としては頭を痛めるものです。
  • 遅刻や早退、無断欠勤を繰り返す
  • まじめにはたらかない
  • 注意しても聞く耳を持たない
  • 協調性がない、上司に反抗的な態度をとる

ただ労働者は法律によって強く保護されるので、問題行動があるからといって簡単には解雇できません。

今回は問題社員を円満に退社させる方法について、弁護士が解説します。

1.解雇は簡単に認められない

1-1.労働関係法令による解雇規制

会社が従業員をいったん雇い入れると、解雇は非常に難しくなります。労働契約法上、以下の2つの要件を満たさねば解雇が認められないためです(労働契約法16条)。

  • 客観的に合理的な理由がある
  • 社会的に相当な方法で解雇が行われている

労働者の地位を安定させるため、この2つの要件は非常に厳しく判定されます。

また以下のような場合、そもそも解雇が認められません。

  • 労働者の国籍や信条、性別や社会的な身分による解雇
  • 産前産後休業中や業務上災害による休業中の解雇
  • 労働者が労働基準監督署へ申告したことを理由とする解雇
  • 労働組合員であることや組合活動をしたことを理由にする解雇
  • 結婚や妊娠、出産、産前産後休業を取得したことを理由とする解雇
  • 育児休業や介護休業の申出や適用を理由にする解雇

解雇できるケースでも、30日前に解雇予告が必要です。30日に不足する場合、不足日数分の解雇予告手当を払わねばなりません。

なお解雇予告や解雇予告手当の措置を行ったとしても、解雇理由が認められなければ解雇は無効となるので注意してください。

1-2.従業員を解雇するなら法律上の要件を検討すべき

解雇したい従業員がいる場合、法律上の解雇要件を満たすかしっかり検討しなければなりません。「問題社員がいる」「他の社員より生産性が低い、能力が低い」というだけの理由では、解雇できない可能性が高いといえます。

2.パターン別、解雇できるケースとできないケース

具体的にどういったケースで解雇が有効となり、どういったケースでは解雇が認められないのかみていきましょう。

2-1.無断欠勤、遅刻早退を繰り返す

使用者の指示に従うのは労働者の基本的な義務なので、無断欠勤や遅刻早退は契約違反です。ただ、これらの問題行為があるからといって当然に解雇できるものではありません。

おおむね2週間以上連続して無断欠勤が続き、連絡がとれなければ解雇が認められる可能性が高くなります。裁判例では6か月の間に合計32日間無断欠勤した従業員の解雇が認められた事例があります(横浜地裁昭和56年6月26日)。

また無断欠勤によって会社に与える影響が大きい場合にも解雇が認められやすくなります。たとえばタクシー会社で無断欠勤が多かったために配車に重大な悪影響が及び、解雇が認められた事例があります(東京地裁昭和59年1月26日)。

一方、数回無断欠勤をしたというだけでは解雇できません。また使用者が暴行を振るったために従業員が出勤を拒んだなど、使用者側に問題があった場合に解雇が認められなかった事例もあります(福岡高裁昭和50年5月12日)。

2-2.服装に問題がある

制服を着用しない、茶髪や口ひげ、派手な服装など従業員の扮装に問題がある場合に解雇できるのでしょうか?

服装や髪型については、業種によって求められる内容が大きく異なります。工場の作業員なのか事務員なのか営業マンなのか。アパレルの店員なのか金融機関の職員なのか教師なのか。

お客さんと会う機会がなく黙々と作業をこなすだけの仕事なら、服装の規律は重要ではないはずです。一方「固い」業種でお客様との折衝のある仕事では服装の規律が必要になるでしょう。

裁判例では、「ハイヤーの運転手」が口ひげを生やしていたケースにおいて、「無精ひげ」や「異様、奇異なひげ」はそるべきと判断されています(東京地裁昭和55年12月15日)。

一方で中学校、高校の教師がネクタイを着用する義務は無いと判断された事例があります(東京地裁昭和46年8月23日)。

2-3.傷病休職と復職を繰り返す

傷病休職と復職を繰り返すローパフォーマー社員がいると、会社は非常に迷惑します。

ただ傷病休職と復職を繰り返しているだけで解雇はできません。

従業員が「復職可能」の診断書を提出したなら基本的に復職を認める必要があり、拒絶するなら合理的な理由の明示が必要です。何の理由も示さずに一方的に復職を拒絶すると違法と判断された裁判例もあるので注意しましょう(仙台地裁昭和61年10月17日)。

合理的な理由が認められるには、別の医師による診断を受けさせて「復職不可能」と診断してもらうか、復職を認めた医師と面談して詳細な話を伺い、実際には復職が難しい状態であると明らかにしなければなりません。

2-4.協調性がない

協調性がなく、周囲の従業員とのチームワークに障害となる従業員がいると会社の生産性が大きく低下します。

ただ「協調性がない」というだけでは解雇理由になりません。協調性の欠如が非常識で上司の指示に従わなかったり人間関係のこじれが限界に達したり他の社員に嫌がらせをしたりしている場合に限り、解雇できる可能性もあります。解雇が認められた事例として、以下のような裁判例があります。

繁忙期で事務局全員が忙しくしているのに手伝おうとせず、依頼されても断ったり同僚を大声でなじったりした従業員の解雇が有効とされた事例(東京地裁昭和40年4月28日)

ミスが多いだけではなく、同僚を軽蔑したり無視したり、上司の指示に従わなかったりした従業員の解雇を認めた事例(東京地裁昭和57年7月28日)

2-5.上司を誹謗中傷する

上司に対する態度があまりに悪い場合にも解雇できる可能性があります。たとえばメールで上司を直接攻撃した従業員の解雇が有効とされたケースがあります(大阪地裁平成14年11月29日)。

ただ、正当な理由のある「批判」まで禁止することはできません。特に社内で内紛が起こっている場合にはどうしても表現が過激になりがちです。また誹謗中傷されると上司の側は感情的になりがちですが、表現が不当かどうかはあくまで客観的に判断されます。言われた側が不快に感じて解雇しても無効になる可能性があるので注意しましょう。

2-6.借金トラブル

従業員が借金トラブルを抱えていると、会社としては自社の評判が気になるものです。会社へも取り立ての連絡が来る可能性がありますし、同僚や部下など別の社員が動揺する懸念もあるでしょう

ただ借金トラブルを抱えていても仕事をきちんとできているなら解雇理由にはなりません。

給与を差し押さえられても自己破産しても、それだけでは解雇できません。

借金トラブルで解雇できる可能性があるのは、以下のようなケースです。

「借金問題で本人の精神状態が不安定となり仕事が手につかなくなってミスばかりするようになり、同僚からも借金をしてトラブルを起こしている。」

ただ上記のような場合でも、いきなり解雇するのではなくまずは本人から事情を聞いて相談に乗り、改善指導を行ってもどうしても解決できない場合に退職勧奨や解雇を検討する流れになります。いきなりの解雇は認められないので注意してください。

2-7.職歴、学歴詐称

従業員による職歴・学歴詐称のトラブルも頻繁に起こっています。

ただ職歴や学歴を詐称したからといって解雇できるとは限りません。解雇が有効になるのは、詐称された経歴がその従業員を雇用する際の決定的な要因となったケースです。

  • 特殊な技術や資格を持っていることを前提に採用したのに、実は虚偽であった場合
  • 以前勤務していた同業会社で問題を起こして解雇された事実を隠して応募した場合

これらのケースでは解雇が認められる可能性が高いといえます。

2-8.スカウトしたのに能力がない

能力を見込んでヘッドハンティングしたのに思ったほどのパフォーマンスを発揮しない従業員を解雇できるのでしょうか?

まず「期待していたほどの能力が無い」というだけでは解雇の合理的理由が認められません。会社の期待値と実態が合致しないのはよくあることだからです。

ただし能力面だけではなく周囲になじめずにトラブルを起こすなど別要因がある場合には解雇できる可能性があります。裁判例でも、学習塾の教務部長に採用されたものが周囲とトラブルを起こすので解雇が有効とされたものがあります(大阪地裁平成6年9月22日)。

3.解雇の手順

解雇が認められる事案であるとしても、きちんと手順を追って手続きを進めないと無効になってしまいます。以下で解雇の正しい手順をご説明します。

3-1.就業規則に解雇事由を定める

解雇するには「就業規則」に「解雇事由」を定める必要があります。

一般的には「2週間以上無断欠勤したとき」「刑事事件で有罪判決を受け確定したとき」「心身の疾患により勤務できないとき」「能力不足等により、会社の指示通りに業務遂行できないとき」「会社との信頼関係に背き重大な損害を与えたとき」などを解雇事由と定めるケースが多数です。

解雇事由に「その他従業員としての適格性がないとき」という項目を入れておくと、個別の項目に直接該当しなくても解雇できて、柔軟に対応しやすくなるでしょう。

3-2.教育指導を行う

解雇したい従業員がいても、いきなり解雇通知を送ってはなりません。

まずは教育や改善のため指導を行い、問題解決をはかりましょう。従業員にも何らかの事情があるかもしれません。面談を行ったり報告書を提出させたりして、なぜローパフォーマンスとなっているのか、人間関係のトラブルを起こしてしまうのかなど明らかにし、状況に応じた対応を進めてください。

3-3.配置転換や仕事内容の変更を検討する

問題が明らかになっても、いきなり解雇するのはお勧めしません。そうではなく、配置転換や異動、仕事内容の変更、降格や場合によっては減給などの別の方法で対応を試みましょう。

3-4.退職勧奨する

教育指導や配置転換、異動、減給などの別の方法ではどうしても解決できないなら、やむなく退社の方向へ進めます。

その場合もいきなり解雇せず「退職勧奨」を行いましょう。退職勧奨とは、従業員に「自らやめるように勧める」ことです。解雇すると、法律上の解雇要件を満たさない限り解雇が無効になってしまう可能性がありますが、退職勧奨によって自主的に退職させれば基本的に「無効」と主張される心配がありません。

ただし退職を「強要」すると、退職手続自体が無効になってしまう可能性があり、退職勧奨の方法にも配慮が必要です。

3-5.解雇予告をする

退職勧奨をしても拒絶されたら、いよいよ解雇するしかありません。30日前の解雇予告が必要なので、まずは解雇予告通知を送りましょう。

もしも30日を待たずに解雇したいなら、不足日数分の解雇予告手当を計算して支給しましょう。

3-6.解雇通知を送る

解雇予告をしたら、その後に解雇通知を送ります。従業員が争ってこなければ退社させることができます。なお解雇後に「解雇理由証明書」の発行を求められたら解雇理由を明らかにした書面を交付しなければなりません。請求に備えて、解雇理由証明書にどういった内容を記載すべきか事前に検討しておくようお勧めします。解雇理由として不適切な事柄を記入すると、後に労働審判などになったときに不利になってしまうからです。

4.減給できるケースと方法

問題社員がいる場合、解雇までは考えていないけれども「減給処分」にしたいケースもあるでしょう。減給も労働者へ大きな影響を与えるので、合理的な理由がないと認められません。解雇ほど重大な事由は必要ありませんが、相応の事情がないと減給処分も違法となってしまうので注意が必要です。

4-1.減給の上限額について

また会社の規律違反によって減給を行うとしても、労働基準法により「上限額」が定められています。

1回の減給は、1日の給与額の半額が限度とされます(労働基準法91条)。たとえば1日分の給与額が8,000円の労働者の場合、4,000円までしか減給できません。

就業規則に別途の規定があり上記より少ない額が限度となっていれば、その規定が有効となるのでさらに少額の減給しかできません。

また1か月に減給できる限度は「月給額の10分の1」です。1か月内に問題行動を繰り返したとしても、10分の1の金額を超える減額はできないので注意しましょう。

4-2.減給計算の具体例

たとえば以下のような事例を考えてみましょう。

1日の給料が8,000円、月給18万円。問題行動が10回あって10回分の減給を行いたい。

この場合、1回の減給額の上限は4,000円(8,000円の半額)で、10回分減給するので計算上は40,000円を減額できそうです。しかし「月給の10分の1」という制限があるので、上限額は18,000円となり、18,000円分の減額までしか認められません。

5.ローパフォーマー対策

社内にローパフォーマーがいる場合には、以下のように対応しましょう。

5-1.適切な目標設定

まずは個々の従業員に適切な目標設定をしましょう。目標値が低すぎると従業員のモチベーションが上がらずに怠業につながります。一方高すぎると達成不可能なので「あきらめ」の感情が強くなりやる気が失われます。

社内全体に「目標を設定する制度」を適用し、成果のでていない従業員については設定された目標が適切になっているかチェックしましょう。

5-2.スキルアップの機会をもうける

定期的に研修や勉強会などを行い、社員のスキルアップをはかりましょう。

5-3.適切な人事評価方法の設定

従業員は「努力が適切に評価されている」と感じるとモチベーションを維持しやすくなるものです。人事評価制度は公正で客観的な方法を定めましょう。あいまいで上司の主観によって評価される制度では、社員のモチベーションが低下する可能性が高くなります。ローパフォーマーが多い場合には人事評価制度を見直してみてください。

5-4.個別の指導や研修などフォローアップを実施

特に問題のある従業員がいたら、状況を聞いて個別指導・研修を行ったり指導・注意したりして、フォローアップしていきましょう。

6.従業員と話し合うときの注意点

最後に、従業員から事情を聞いたり退職勧奨したりする際の面談の注意点をご紹介します。

6-1.高圧的な対応をしない

「身の程をわきまえろ!」「やめないと首だぞ!」などと声高に怒鳴ったり罵ったり暴行を振るったりすると、使用者側が違法と評価されます。パワハラと受け止められるような対応をしてはなりません。

6-2.複数で対応

使用者側は複数で面談に対応するようお勧めします。1人ではどういった流れで話し合いが行われたか証拠が残りにくいためです。

6-3.しつこく退職勧奨しない

退職勧奨をしつこく行うと「強要された」と言われる可能性があります。従業員側が退職を拒んでいるならしつこい呼出や面談強要をしてはなりません。

6-4.退職勧奨を断られたことによる不利益な取扱いはしない

退職勧奨を断られたからといって、減給や降格などの不利益取扱いをしてはなりません。

6-5.記録を残す

面談の経過については、音声録音、画像の録画などの方法で記録を残しましょう。

従業員に改善を約束させる場合には「今後は無断欠勤しません」などの書類(始末書)に署名押印をさせて、「対応改善を約束した証拠」を残しましょう。

7.平穏な退職を実現するために

問題社員がいる場合、できるだけ平穏なかたちで自主退社させるのがベストな方策です。

退職勧奨をするときには、上記の注意点を守りながら以下のようなことも伝えて、従業員が前向きになれる環境を準備してあげましょう。

  • 会社都合退職にする
    会社都合退職であれば失業保険をすぐに受け取れますし金額も上がります。
  • 退職金を支給する、場合によっては上乗せする
    状況により退職金の上乗せを打診すると、従業員は退職を受け入れやすくなります。
  • 書面を提出させる
    従業員が退職を受け入れたら、必ず「退職届」などの書面を提出させましょう。

問題社員対応でお困りの場合、弁護士がサポートいたしますので、是非とも一度ご相談ください。

同一労働同一賃金について

2020年4月から「同一労働同一賃金」に関する新しい法律が施行されます。 従来の「労働契約法」と「パートタイム労働法」が改正されて「パートタイム・有期雇用労働法」が新たに制定され、これによってパートや契約社員と正社員との間の不合理な区別的取扱いが禁止されるようになります。

中小企業に適用されるのは2021年4月からの予定ですが、法律自体はすでに施行されているので今のうちから対応を進めておきましょう。

今回は「同一労働同一賃金」とは具体的にどういったことなのか、企業経営者としてどのような準備をすれば良いのかなど、弁護士がわかりやすく解説します。

1.そもそも同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をしている労働者には同じ給料を支給すべき」という考え方です。 いわゆる「正社員(正規雇用の従業員)」と「パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用の従業員」との不合理な格差をなくすためにもうけられました。

従来、多くの企業では「正社員」と「パートやアルバイト、有期契約社員」などとの採用ルートや賃金体系を分け、正社員と非正規雇用の従業員との区別的な取扱いが行われてきました。 正社員については途中解雇をしないことを前提に一定水準の給与を維持し、昇給の機会や賞与、諸手当なども与えて保護しますが、パートやアルバイト、有期契約社員には低賃金かつ昇給や手当などの特典も与えずに働かせるケースが多々ありました。パートやアルバイトの従業員が正社員と同じ仕事をしているにもかかわらず、受け取っている給与額は大幅に低い、という状況も発生して問題になりました。

こうした不合理な状況を是正するため、畑ら方改革の一環として法改正が行われ「同じ仕事をするなら同じ待遇をしなければならない」という同一労働同一賃金の原則が明確にされたのです。

実際には従来も「労働契約法20条」が無期契約の従業員と有期雇用の従業員との不合理な区別的取扱いを禁じていましたし、差別的な取扱いがあった場合には違法とする裁判例も出ていました。今回の法改正ではそれらの内容がよりはっきりし、具体化されています。

2.同一労働同一賃金の2つの原則

同一労働同一賃金という場合、以下の2つの原則が重要です。

2-1.業務内容が同じ場合の均等待遇

正社員と非正規雇用従業員とで業務内容や配置転換などの範囲が同じであれば、賃金を始めとした待遇を同じにしなければなりません。「同じ仕事をしている人には同じだけの報酬を与えなければならない」という均等待遇の原則です。

2-2.業務内容が異なる場合の均衡待遇

同一労働同一賃金の規定が施行されても「正社員」と「非正規雇用の従業員」に異なる仕事を与えることは可能です。異なる仕事をする場合には、当然給与などの待遇も異なってきます。ただしその場合であっても、両者の間に不合理な差をもうけてはならないとするのが「均衡待遇」の原則です。

3.待遇を同一にすべき範囲について

「同一労働同一賃金」というとき、基本給や賞与だけを同じにすれば良いというものではありません。以下のような待遇をすべて均等・均衡にする必要があります。

  • 基本給
  • 賞与
  • 通勤手当
  • 住宅手当
  • 単身赴任手当
  • 家族手当
  • 食事手当
  • 皆勤手当
  • 無事故手当
  • 特殊作業手当
  • 資格手当
  • 休暇、病気休職
  • 教育訓練制度
  • 福利厚生施設の利用

「個人の能力に差がある場合」に合理的な差をもうけることは許されますが「正社員だから」「契約社員だから」という理由による区別は認められません。「契約社員には賞与がない(正社員にはある)」という不合理な区別もできません。

また通勤手当や住宅手当などの諸手当も同一にする必要があります。これまで非正規雇用の従業員に手当を支給していなかった企業の場合、今後はきちんと支給しなければなりません。

福利厚生施設の利用や各種の休暇制度、教育訓練制度の適用についても均等均衡な待遇を要求されます。正社員が利用できる各種設備やなどの制度があるなら、今後はパート従業員などにも利用させる必要があるでしょう。

4.法改正によって明らかにされ、導入されたこと

今回導入された同一労働同一賃金の法改正によって、以下のような原則が明らかにされ、制度が導入されました。

4-1.差別的取扱いの禁止

まずは正規雇用の従業員と非正規雇用従業員との間における不合理な差別的取扱いが明確に禁止されました。同じ仕事をさせるなら同じ待遇をする必要がありますし、異なる仕事をさせるとしても待遇差が不合理であってはなりません。

4-2.福利厚生施設の利用

今回施行された「パートタイム・有期雇用労働法」では、健康保持や業務遂行を目的とした「福利厚生施設」の利用についても「同一」にするよう求められています。たとえば給食施設や休憩室、更衣室などの利用などで不合理な差をもうけてはなりません。正社員に適用している福利厚生施設があれば、パートタイムや有期雇用の労働者へも利用を認める必要があります。

4-3.待遇の説明義務

各企業は、パートの従業員や契約社員を受け入れる際、予定されている待遇について説明をしなければなりません。業務内容や配置転換や業務変更の範囲、賃金や諸手当、福利厚生施設の利用などについての事項です。正社員との待遇の違いがある場合、それが何によるものなのか(業務の違いなのか配置転換などの範囲の違いによるものなのかなど)の説明も必要です。

またパートや有期雇用の従業員から正社員との待遇の違いなどの理由について説明を求められた場合、企業側は速やかに応じなければなりません。

4-4.行政勧告や行政処分

同一労働同一賃金の規定が施行された後に規定を守らず不合理な差別的取扱いをしている企業があれば、厚生労働大臣から指導勧告を受ける可能性があります。 勧告に従わなければ企業名が公表され、全国的に「違反企業」として知られるリスクも発生するので注意が必要です。

4-5.紛争解決手段の整備

新しいパートタイム・有期雇用労働法では、労働者と企業側とで争いが発生した場合にそなえて紛争解決手段を整備することが定められています。 都道府県労働局の管轄下に行政ADR(裁判害の紛争解決機関)がもうけられ、そこで労働者と企業が話し合いによって解決を目指せるようになります。

ADRを利用すると、専門の機関が労働者と会社側との間に入って仲介するので、お互いが直接対峙するよりも建設的な話し合いができて解決可能性が高まります。

今後は裁判ではなく行政ADRを利用して正社員とパート・有期雇用従業員との待遇差の問題が解決される事例も増えてくるでしょう。

5.同一労働同一賃金が適用される時期や対象企業

同一労働同一賃金を規定する「パートタイム・有期雇用労働法」が適用される時期は、企業規模によって異なります。

  • 大企業…2020年4月1日から
  • 中小企業…2021年4月1日から

大企業についてはすでに適用対象となっていますが、中小企業の場合には1年の猶予を持たせて2021年4月から適用されます。 現在対応が不完全な企業があれば、これから急ぎ対応を進める必要があります。不安がある場合には弁護士にご相談下さい。

中小企業とは

中小企業に該当するのは以下の企業です。

資本金の額または出資額 常時雇用する労働者の人数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他(製造業、建設業、運送業など) 3億円以下 300人以下

資本金・出資額の基準または労働者の人数のどちらか1つが上記の要件を満たしていれば中小企業となります。ただし事業所単位ではなく「企業単位」で判断されるので注意が必要です。

6.同一労働同一賃金で違法となる場合・適法となる場合

同一労働同一賃金のもとでも「正社員とパート・有期契約従業員に同じ賃金を与えなければならない」わけではありません。待遇が違っても合理的であれば区別が認められます。

以下では同一労働同一賃金に反して違法になる例と適法になる例の具体的なケースをいくつかご紹介します。

6-1.違法になる場合

以下のような区別的取扱いは不合理なものとして違法になります。

基本給について

ケース1

正社員の労働者であるAは有期雇用労働者であるBより経験豊富なために基本給が高いが、Aのこれまでの経験はAの現在の業務に関連性がない。

ケース2

勤続年数に応じて給与を支給している会社で、有期雇用労働者に対しては、当初の労働契約時から通算せずに「現在の契約期間」のみを考慮して勤続年数を評価し、低い給与を支給している。

賞与について

ケース1

労働者の貢献に応じて賞与を支給している会社において、正社員と同程度の貢献がある有期雇用労働者に対し、正社員と同じだけの賞与を支給しない。

ケース2

正社員には職務内容や会社の業績等への貢献にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、パートタイムや有期雇用労働者には賞与を支給していない。

役職手当について

正社員と同一の役職名を持ち同一の業務を行っているにもかかわらず、有期雇用労働者には低い役職手当を支給している。

深夜労働、休日労働手当について

パートタイマーの従業員が深夜労働や休日労働を行ったとき、その労働者の深夜労働や休日労働以外の労働時間が短いことを理由に深夜労働手当や休日労働手当を正社員より低くしている。

食事手当について

正社員にはパートタイマーや有期雇用労働者に比べて高額な食事手当を支給する。

地域手当について

正社員と有期契約社員に一律の基本給体系を適用していて、いずれも転勤があるにもかかわらず、有期契約社員には地域手当を支給していない。

6-2.区別的取扱いが適法になる場合

以下のようなケースでは区別的な取扱いがあっても適法です。

基本給について

ケース1

従業員の能力向上のためのキャリアコースを設定している会社において、コースの履修を終えて能力を習得した正社員に対しては、コースを受講しておらず能力を得ていないパートタイマーや有期契約社員よりも高めの基本給を支給している。

ケース2

正社員と契約社員とでは職務の内容や勤務地に変更があることを理由に、正社員に対して高めの基本給を設定している。

ケース3

労働者の勤続年数に応じて基本給を支給している会社において、有期契約社員Aには「当初の労働契約締結時から通算して」勤続年数を計算し、それに応じた給料を支給している。同じ仕事をしている正社員Bはそれよりさらに勤続年数が長いため、Aより多くの給与を受け取っている。

賞与について

正社員Aは、生産効率や品質の目標値に対する責任を負っており、目標を達成できなければ待遇が下がる。一方、有期契約社員であるBは生産効率や品質の目標値に対する責任を負わず、目標を達成できなくても待遇は変わらない。こういった職務範囲や職責の違いを理由として、Aには賞与が支給されるがBには支給されない。

食事手当について

正社員には食事手当を支給しているが、労働時間が14時から17時までと短いために昼食のための休憩時間がないパートタイマーには食事手当を支給していない。

7.同一労働同一賃金で押さえておくべき代表的な裁判例

同一労働同一賃金については、最近になって2つの最高裁判例が出ているので押さえておきましょう。

7-1.ハマキョウレックス事件(最高裁平成30年6月1日判決)

有期契約のトラック運転手が、正社員にのみ諸手当が支給されるなどの待遇格差が「労働契約法20条に違反する(かつて同一労働同一賃金を定めていた規定)」として差額の支払などを求めたケースです。是正を求められた手当は「無事故手当、作業手当、休職手当、通勤手当、皆勤手当、住居手当」などでした。

裁判所は「住宅手当」を除く「無事故手当、作業手当、休職手当、通勤手当、皆勤手当」についての待遇差を不合理とし、労働基準法20条違反と判断しました。

住宅手当については、正社員は転居を伴う配転が予定されているのに対し、契約社員は転勤が予定されていないことを理由に支払に差があっても不合理ではないと判断されました。

7-2.長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)

定年後に嘱託社員として再雇用となり、同じ仕事をしているにもかかわらず給与を20%程度減額されたドライバーが「労働契約法20条違反」として争った事案です。

裁判所は、以下のように述べて正社員と再雇用社員との間の格差について、一部を適法、一部を違法と判断しました。

適法とされた格差

基本給や歩合給、賞与、住宅手当、家族手当、役付手当の格差

理由

  • 日本における雇用制度は、「定年までの長期間雇用」を前提としている
  • 定年後の再雇用の場合、長期間雇用が予定されていない
  • 再雇用後は、老齢厚生年金の受給が予定されている

違法とされた格差

精勤手当、時間外手当、超過勤務手当の格差

理由

  • 再雇用であっても正社員であっても区別的な取扱いをする合理的な理由がない

控訴審は諸手当の待遇差の違法性を認めていなかったため、最高裁は判断に誤りがあるとして原審に審理を差し戻しました。

以上のように、裁判所は「給与や手当の性質ごとに」差異をもうける必要性や意味、合理性を判断しています。今後、社内に同一労働同一賃金についての規定を設ける場合、こうした裁判所の考え方を考慮する必要があるといえるでしょう。

8.同一労働同一賃金を導入・運用する際の注意点

同一労働同一賃金を導入・運用する際、以下のような点に注意しましょう。

8-1.異なる仕事をする場合、待遇が違ってもかまわない

同一労働同一賃金は、「正社員と有期契約社員に同じ給料を支給しなければならない」ものではありません。職務内容や職責、スキルなどに違いがあれば異なる待遇も許されます。

また複数の手当がある場合、手当ごとに待遇差が合理的かどうか、判断されます。一部の手当は区別が適法、一部の手当は区別が違法、という状況もあり得ます。

8-2.給料だけではなく諸手当や福利厚生施設の利用、教育訓練なども対象

同一労働同一賃金というと「賃金や賞与を同じにすれば良い」と思うかも知れませんが、そうではありません。諸手当や福利厚生施設、教育訓練の実施などについても不合理な差別的取扱いが認められないので注意が必要です。

8-3.罰則はなくても行政勧告を受けるリスクがある

同一労働同一賃金の規定に違反しても「罰則」が用意されていないため、罰金や懲役による処罰を受ける可能性はありません。

しかし行政勧告を受けたり企業名を公表されたりするリスクがあります。レピュテーションが低下し、社会におけるイメージが低下して売上げが減少したり優秀な人材を集めにくくなったりするおそれが高まるので注意が必要です。

8-4.改善計画を立てて取り組む

現時点では同一労働同一賃金に適応できていない中小企業も2021年4月までにはきちんと対応する必要があるので、今から改善計画を立てて取り組みましょう。

就業規則の改定、労働契約書や労働条件通知書の見直し、新たな退職金規程の創設、またパート従業員や有期契約従業員を雇い入れるときには「説明義務」が課されるので、適正に説明できるように待遇についての条件を整えて説明の手順も用意しておくべきです。

改善計画の作成や実行、各種の書面作成、説明義務の果たし方などについては自社のみで対応しにくいこともあるでしょう。お気軽に法律の専門家としての弁護士を頼って下さい。

8-5.正社員のモチベーションを保つ工夫

同一労働同一賃金を導入するときに忘れてはならないのが「正社員のモチベーション」です。今正社員の間では「同一労働同一賃金が導入されることによって自分たちの地位が低下する」「今後は正社員である意味がなくなる」という考えが広まりつつあります。

同一労働同一賃金が導入されても正社員の待遇が悪くなるわけではないこと、合理的な理由のある区別は従来の通り継続することなどを説明し、モチベーションの低下や離職の防止に努める必要があるでしょう。

9.就業規則等の整備について

同一労働同一賃金を導入するときには、最低限、以下の書類の整備が必要です。

  • 就業規則
  • 労働契約書、雇用条件通知書
  • 雇用条件の説明書

作成や改定は弁護士がサポートしますので、お気軽にご相談下さい。

10.社労士と弁護士の違い

社労士は労務管理の専門家ですが、弁護士は「トラブル解決」も視野に入れて対処します。今後同一労働同一賃金が導入されると、従業員から争われる事例も増えてくると予想されますが、そういったとき対応できるのは弁護士のみです。特に、裁判になった場合を想定して、普段からどのような準備をしておくかを助言できるのが強みです。

当事務所では三田市、芦屋市、神戸市、姫路市などを中心として、各種の中小企業への支援を積極的に行って参りました。今後同一労働同一賃金について不安がある企業がありましたら、お気軽にご相談下さい。

企業に求められるパワハラ対応について

働き方改革が進められる中、各企業に求められる「パワハラ対策」のレベルも上がってきています。最近では「パワハラ防止法」も制定され、きちんと対応しないと「法律違反」となってしまう可能性もあります。

今回は「パワハラ」の定義や具体例としてどのようなケースがあるのか、パワハラ対策の必要性やパワハラ防止法のポイント、今後の対策方法について弁護士が解説します。

1.パワハラとは

パワハラとは、「パワーハラスメント」の略で「力による嫌がらせ」という意味合いです。

厚生労働省は「職場におけるパワハラ」を、以下のように定義しています。
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

ポイントになるのは以下の点です。

1-1.優位性を背景にしている

上司が部下にハラスメント行為を行う場合など、何らかの「優位性」を背景にしているものがパワハラです。「人間関係」など職務上以外の優位性でもパワハラとなる可能性があります。

1-2.業務として適正な範囲を超えている

業務の適正な範囲を超えているものがパワハラです。業務上必要として認められるなら、何らかの優位性を背景としている行為でもパワハラになりません。

1-3.精神的身体的苦痛を与える

ハラスメント行為となるのは、相手に精神的・身体的苦痛を与えるものです。プライバシー権や名誉権などの権利侵害、殴ったり胸ぐらをつかんだりする場合などにパワハラとなる可能性があります。

1-4.職場環境を悪化させる

直接的に攻撃しなくても、職場環境を悪化させるだけでパワハラとなる可能性があります。

2.6類型のパワハラと代表的・典型的な事例

厚生労働省によると、パワハラは6つの類型に分類されます。それぞれの内容と典型的な事例を見ていきましょう。

2-1.身体的な攻撃

相手の身体に危害を加える行為です。

典型例

胸ぐらをつかむ
相手の身体を揺する
椅子を蹴り倒す、大きな物音を立てる
書類を投げつける
殴る、蹴る

2-2.精神的な攻撃

名誉権やプライバシー権の侵害、暴言などにより相手に精神的な苦痛を与える行為です。

典型例

「給料泥棒!」「お前みたいな無能なやつは見たことがない」「辞めてしまえ!」などとなじる
他の社員がいる前でプライベートな情報を公開する
他の社員がいる前で大声を出して叱責し、見せしめ行為をする

2-3.人間関係からの切り離し

無視したり仲間はずれにしたりして、人間関係から切り離す嫌がらせです。

典型例

チームの1人にだけ業務に必要な情報を知らせない
資料を1人にだけ配らない
1人だけ業務上のグループチャットなどに参加させない

2-4.過大な要求

とてもできそうにない量や質の業務を強制したり、業務を妨害したりする行為です。

典型例

「明日までにこれを全部やっておくように」などと告げて終わるはずのない業務を押しつける
対象従業員のスキルからしてできるはずのない業務を強制する

2-5.過小な要求

本人のスキルや意欲とかけ離れたレベルの低い業務しか与えない行為です。ただし本人が低いレベルの業務を行うことに納得していればパワハラにはなりません。

典型例

専門資格を持っていて資格を持った仕事をすることを前提に採用されているものに対し、コピーのみをさせる
知識も経験もあって重要な仕事ができるにもかかわらず、本人の希望に反して資料作りなどの単純作業のみをさせる

2-6.個の侵害

業務上の必要もないのに、プライベートに踏み込む行為です。

典型例

個人的なSNSで業務と無関係な連絡をする
私物のスマホの中身を知ろうとする
夫婦関係、親子関係を探る
結婚や出産の予定をしつこく聞く

3.パワハラが違法となるかどうかのメルクマール

従業員から「パワハラを受けています」と相談を受けたら、実際にパワハラが発生しているのか調査して判断しなければなりません。その際には以下のような点が判断のメルクマールとなります。

3-1.優位性を背景にしているか

パワーハラスメントの定義に該当するには「職務上や人間関係などの優位性」を背景としている必要があります。まずはパワハラの加害者が被害者に対し、何らかの優位性を持っているかどうかを確認しましょう。特にどちらにも優位性や劣位性がなければ、基本的にパワハラになりません。

ただし優位性は「職務上の優位性」に限られません。一般的にパワハラというと「上司から部下へ向けてのもの」と思われがちですが、それ以外のケースでも「優位性」が認められます。たとえば人間関係や親の地位(部下の親の社会的地位が高い、親会社の社長であるケース)など、何らかの要素があって優位性が保たれていれば、部下から上司へのパワハラや同僚間のパワハラが成立する可能性もあります。

3-2.業務として適正と言えるか

パワハラとなるのは「業務として適正な範囲」を超える場合のみです。一見すると過大な要求、過小な要求、個の侵害のように見える行為であっても、「業務に関連していて適正な範囲内」であればパワハラになりません。

パワハラの相談を受け付けたときには、加害者と被害者の双方、周囲の関係者などから話を聞いて「業務として適正な範囲であったといえるか」を検討する必要があります。

3-3.6つの類型の1つに当てはまっているか

パワハラには上記で紹介した6つの類型があるので、パワハラに該当するかどうか検討するときには、当てはまっているかどうかを検討しましょう。1つに限らず同時に2つ以上にあてはまるケースもあります。

3-4.違法となる場合の具体例

上司が部下に対し、日常的に声を荒げて他の社員のいる前で叱責している
人間関係で優位となる同僚が同じチームのメンバーを仲間はずれにしている
上司が部下へ、明日までに終える必要がないのに「必ず明日までに終えておくように」と多量の課題を与える
スキルも意欲もある従業員に対し、意に反して簡単な単純作業しかさせない

3-5.適法となる場合

特に優位性のない同僚間で、仲間はずれなどの嫌がらせが行われる
部下が上司へ反抗的な態度をとる
明日までに必ず終える必要のある課題について、対応能力のある部下へ「明日までに終えるように」と課題を与える
スキルを持っているが本人が単純作業を希望しているので単純作業をさせている

4.パワハラ防止法について

近年、政府主導で働き方改革が進められ、パワハラを抑制するための法律が整備されました。いわゆる「パワハラ防止法」です。 パワハラ防止法は通称で、実際には「労働施策の総合的な推進並びに従業員の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称は労働施策総合推進法)」が改正されてパワハラ防止規定がもうけられました。

パワハラ防止法の概要は以下の通りです。

4-1.事業者へパワハラ対策を義務化

パワハラ防止法は、各事業者へパワハラ対策の整備を義務づけています。具体的には以下のような措置や対応をとらねばなりません。

適切な相談、対応するための体制を整備

各企業は、社内でパワハラが発生した場合にそなえて従業員から相談を受けられる体制を整備しなければなりません。また相談を受けたときに適切に調査を進めて問題解決するためのプロセスなどもあらかじめ定めておく必要があります。

不利益な取扱いの禁止

従業員からパワハラ被害の相談を受けたとき、企業がその従業員や調査に協力した他の従業員に対し、解雇や異動、減給などの不利益な取扱いをしてはなりません。

パワハラを防止するための研修などの啓蒙措置

各企業は、自社内でパワハラが発生しないように従業員や役員に注意喚起する必要があります。パワハラに対して理解を深めるべく研修を行ったり日常的に「パワハラを許さない」という呼びかけを行ったりして、意識づけをしましょう。

経営陣が自覚を持って対処する

社長や役員などの経営陣が、自らパワハラに対する理解を深めて「パワハラを許さない」という高い意識を持つ必要があります。日常的に従業員に対してそういった態度を表明しましょう。

4-2.企業がパワハラ防止法に従わなかった場合のペナルティ

パワハラ防止法に従わなかった場合には、行政勧告を受ける可能性があります。調査を行った上、改善の必要があれば指導や助言が行われます。
それでも企業が勧告に従わない場合には「違反企業」として世間に公表されます。

ただしパワハラ防止法に刑事罰は用意されていないので、罰金や懲役などの刑罰が適用されることはありません。

4-3.パワハラ防止法の施行時期

パワハラ防止法が施行される時期は、大企業と中小企業とで異なります。
大企業に関しては「2020年6月1日」から適用されます。

中小企業については2年間猶予され「2022年4月1日」から義務化される予定です。ただし2022年3月までは何もしなくて良いという意味ではありません。現在においてもパワハラを放置すると以下のように高いリスクが発生しますし、将来の義務化に備えて今から体制を整える必要があります。

5.企業がパワハラを放置した場合のリスク

自社内でパワハラが発生しているのに適切に対処せずに放置すると、以下のようなリスクが発生する可能性があります。

5-1.損害賠償責任

雇用主は、従業員との雇用契約にもとづいて各従業員の職場環境に配慮すべき義務を負います(職場環境配慮義務)。パワハラ防止法によっても、企業がパワハラを防止するための具体的な措置が義務化されています。

パワハラ被害を放置すると、職場環境配慮義務に違反することになるので企業が被害を受けた従業員へ「損害賠償」しなければなりません。 被害を受けた従業員がうつ病となって自殺すると、遺族から慰謝料や逸失利益などの莫大な損害賠償を求められる可能性もあります。

5-2.従業員のモチベーション低下

職場内でパワハラが横行していると、当然従業員のモチベーションが大きく低下します。昨今ではコロナウイルスの蔓延によってただでさえ社会全体の気分が落ち込んでいる中、さらに企業の収益力、生産性が落ち込んでしまう要因になるでしょう。

5-3.離職、新卒採用が困難となる

社内でパワハラが行われると、嫌気のさした従業員が離職する可能性が高まります。特に最近の20代、30代の労働者は転職を当然の権利と考えており、昔と違って簡単に退職してしまうので注意が必要です。

またパワハラが行われていることが世間に知れると新卒採用も困難となり、人材確保に困難をきたすでしょう。

5-4.評判低下

パワハラを放置していると、元従業員や現従業員がネットの口コミサイトやSNS、ブログなどに書き込んだりyoutubeで配信したりする可能性があります。すると企業イメージが低下して、商品やサービスが売れにくくなるリスクが発生します。レピュテーション被害を軽く考えてはなりません。

6.経営者、管理職が気をつけるべきこと

パワハラを防止するため、経営者・管理職としては以下のようなことに注意しましょう。

6-1.高い意識を持つ

まずは自らが「パワハラを許さない」という高い意識を持つことが何より重要です。管理職専門の研修などを行って全員が「パワハラとは何か」を理解し「パワハラ行為をしてはならない」という共通認識を持ちましょう。

6-2.パワハラ行為をしない

実際にパワハラとなる行為をしてはならないのは当然です。パワハラになりうるのがどういった行為かをしっかり理解して、日頃から注意しながら部下に接する必要があります。

6-3.従業員へパワハラを行わないよう日常的に意識付けを行う

部下や一般従業員に対しては、経営者や管理職が率先して意識付けを行いましょう。常日頃から部下に気になる言動があれば「パワハラとはどういったことか」「それはパワハラになる可能性がある」などと指摘して日常業務内でパワハラを防止していきましょう。

7.会社としての事前対応・事後対応~パワハラ防止法への対応~

会社全体としてパワハラ対策のため以下のような対応をとるべきです。以下はパワハラ防止法への対応を含んだものとなりますので、これから法改正に対応しようと考えている企業も参考にしてください。

7-1.事前対応

パワハラが起こらないように、事前措置として以下のような対応をしましょう。

広報活動による周知の徹底

社内全体に「パワハラを行ってはならない」と啓蒙します。パワハラ防止法が制定されたことなどを含めて説明し「なぜパワハラを行ってはならないか」「パワハラの典型例」などを広報誌やメールなどで周知させましょう。

研修を実施する

次に一般従業員、管理職に分けてパワハラ防止のための社内研修を実施するようお勧めします。

一般従業員への研修
一般従業員の中には「上司から怒鳴られるだけでパワハラになる」と誤解している人も多いので「パワハラになるケース」と「ならないケース」について適正に理解させることが大切です。

管理職偏見集
古参の管理職の中には、パワハラ防止に抵抗感を持っている人が多く存在します。そういった人に向けて、パワハラのリスクや対応の必要性についてしっかりと理解させ受け入れてもらわねばなりません。

たとえば「パワハラが横行すると、部下が怖がって必要な情報を上司に伝えなくなってしまう。それではかえって業務が滞るリスクがある」などと説明することで、納得してもらえるケースもあります。

相談体制を整える

パワハラが発生したとき、従業員が気軽に相談できる体制を整えましょう。社内の相談窓口だけではなく、弁護士事務所などの社外の相談窓口ももうけておくと、従業員が柔軟に利用しやすくなります。

相談を受けたときの対処方法のプロセスを明確化する

相談を受けたとき、どのように調査や処分を進めていくかプロセスを明確化しておきましょう。「対応マニュアル」の整備が必要です。自社のみで対応が困難なら弁護士に依頼するようお勧めします。

情報管理体制を整える

パワハラの相談や対応の際に取り扱う情報にはプライバシー情報が多く含まれます。情報漏えいがあると問題が大きくなるので、情報を適切に管理する体制を整えましょう。

7-2.事後対応

パワハラが発生した場合には、以下のように対応を進めましょう。

適切な方法で調査を実施

まずはパワハラがあったのか、あったとすればどういった内容か、適切に調査を進める必要があります。被害者のプライバシーが守られるように注意しながら、加害者や被害者、関係者からの聞き取り調査や検討を進めましょう。

加害者への処分

パワハラがあったことが明らかになれば、加害者への処分を行います。戒告や異動、降格など、状況に応じた対処を行いましょう。加重な処分を行うと加害者側から「違法処分」と主張されてしまうので、注意が必要です。

被害者の保護

被害者の保護措置も必要です。配置転換などが考えられますが、場合によっては休業を認めるべきケースもあるでしょう。

再発防止措置

今回の問題の反省を含め、再発防止措置をとるべきです。たとえパワハラに該当しなかったとしても「なぜそういった相談が寄せられたのか」という視点から改善が必要です。

パワハラ防止法が制定された今、企業が適切にパワハラ対策を行うには法律の知識を持った弁護士によるサポートが必須といえます。当事務所では神戸の中小企業を中心にさまざまな法律問題についての助言や規定作成などを行っております。パワハラ対策に関心をお持ちの経営者の方がおられましたら、お気軽にご相談下さい。

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