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  3. Author: ItoHideaki

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契約の電子化(オンライン化)についてよくある質問

「電子契約」という言葉の意味するところ

ビジネス上も人と直接会うことが減り、商談等もオンラインで行うことが増えてくると、契約を紙ではなく電子データの交換で終わらせたいというニーズが高まっています。また、紙を使わなければ印紙が不要になるメリットもあります。

当所でも、電子契約についてのご相談を頂くことがありますが、その際に最初に確認しているのは、コストとの兼ね合いでどの程度のレベルを目指しているのか、ということです。

一部の例外を除けば「契約書」を作成しなくても契約は成立します。それでも敢えて「契約書」を作成する理由は、いざ揉めた時に、「そういう契約が当事者間で成立していた」という事実を証明するための証拠として使うためです。

これは媒体が紙でも電子ファイルでも同じことです。そして、紙の契約書でも常に実印を押すわけではなく、重要な契約書には実印を、それ以外には認印やスタンプ印を押す、といったように、契約の重要性に応じて使用する印鑑も変えているのではないでしょうか?

電子契約という言葉は多義的に使われており、なんとなくモヤモヤした話にもなりがちですが、事業の継続性を図るための投資として考えるならば、従来の紙の場合と同じように、その契約の目的や重要性に応じてどの程度(実印レベルなのか、認印レベルなのか、シャチハタレベルでいいのか)の仕組みを準備するかを考えることが、過剰なコストを避けることにつながります。

その際には、紙の契約書に印鑑を押すことの法的な意味を知っておくことが大切です。

紙の契約書に印鑑を押す法的な意味

契約書に印鑑を押すことの法的な意味として特に大きいのは、民事訴訟法228条に規定があり、理想的には①ある文章に署名又は押印されている場合、それは本人の意思によることが推定され、②本人の意思で文章に署名又は押印した場合、その文章の内容についても本人の意思で作成したことが推定されることが期待できるためです。

つまり、通常は印鑑というのは大事なものなので他人に渡したりせず、本人が大事に保管しているはずだ、という経験則があって、だから、本人しか押せないはずの印鑑が押された契約書があれば、本人はその契約書の内容に同意していたはずだ、と推定していけることになります(実際にはそこまで一本道な訳でもありませんが)。

そうすると、印鑑の印影(模様)が一つ一つ違うことが上記の法的意味を持たせる最低限必要な条件となります。よく書類に「シャチハタ以外でお願いします」と書いてあるのは、そういう理由によります。

紙との類似性で考える「よくある質問」

以上を前提に、契約書でよく使用されるフォーマットであるPDFファイルに関してよく頂く質問について考えてみます。

PDFの署名・捺印欄に、署名や印影の画像ファイルを貼り付けたらダメなのか?

この質問に対する回答としては、「ダメではない(契約の有効性に影響はない)のですが、証拠としての価値は低いと思います」ということになります。

理由は、上記の紙の場合を考えると、「署名や印影の画像」は、例えば過去に別な契約をしていれば簡単に入手可能な情報ですので、そうした場合には本人以外であっても簡単に偽造できてしまいます。紙の世界におけるシャチハタよりはマシかもしれませんが、紛争が生じた場合のリスクが一定程度ある取引の場合には、お勧めできません。

iPadに表示したPDFファイルにAppleペンシルで署名したらダメなのか?

理屈上は署名は本人しかできないはずなので証拠として一定の意味があるように思うのですが、実際問題として、加工されたPDFファイルを見て、先のように署名の画像を貼り付けた場合とタブレットでPDFファイルに直接署名した場合とを区別することが難しい場合も想定されます。

また、紙に署名した場合と違って「目で見てわかる原本」が存在しないので、これを裁判所がどのように判断するのかも、まだ未知数の部分が多いように思います(そもそも同じ人の筆跡であってもタイミング等でかなり変動が生じ得ますし、筆跡自体が一般に思われているほど積極的な証拠とはなりにくいように思います)。

そこで、こうした場合はリスクを具体的にご説明した上で、そこまで重要度が高くない場合に限って使用される場面を考えていくようにしています。

Adobe Signではダメなのか?

PDFを作成する際に使用されることが多い(というか本家の)Acrobatには、Adobe Signという電子サイン機能があります。

これは、契約当事者のうち一方がAcrobat DC等を使用していれば、他方のメールアドレスに向けて署名用のURLを発行するだけで、PDFファイルに対して電子サインをしてもらうことができるため、最近見かけることが増えています。

この仕組みで担保されるのは、あくまで「そのメールアドレスを受信可能だった誰かが電子サインした」ということですので、少なくとも、当該契約の当事者であるAさんと、そのメールアドレスとの紐付けは、別途どこかで担保する必要があります。

したがって、フリーメールより会社やプロバイダー等のメールアドレスの方が当然好ましいように思いますし、会社でも多数で共有しているようなメールアドレスであれば、いざ争われると困ったことになるかもしれません。

そのため、当該メールアドレスと契約者当人との紐付けに困難がないのであれば、証拠としての価値は一定程度あるように思います。

その他

実印に相当する電子署名を実現する手段として、公開鍵暗号方式を応用した仕組みが昔から使われています。簡単に言えば、個人ごとにプログラムを使って組になる2つの電子データ(公開鍵と秘密鍵)を生成します。そして秘密鍵(実印に相当)は自分だけが保存し、公開鍵は自分自身と紐づけた形で公開します。ある計算式に入力データと秘密鍵を投入して得られる出力データは、ペアとなる公開鍵でのみ元に戻せるという性質があるため、入力データとして契約書ファイルを使用すると、秘密鍵にアクセスできる人物が署名(に対応する計算処理)をおこなったことが、あとから誰でも確認することができます。

なお、電子署名法という法律の3条には、「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と、紙の場合の法律(民訴228条4項)に対応する条文がありますが、その意図するところは、先ほどご説明した実印の場合との類似性を考えるとわかりやすいと思います。

また、クラウドサービスを使って、こうした電子署名を自らが、または第三者によって行うための有料サービスも複数展開されていますが、これらについての説明は省略いたします。

いずれにしろ、電子契約は本格的に始まって間がないため、十分な裁判例等の蓄積もありません。したがって、紙の場合の法的な議論と、電子契約を実現するシステム面の仕組みとを理解した上で、リスクやコストの観点も踏まえて演繹的に検討していく必要があるテーマだと考えます。

疑問点等ありましたら、初回無料相談をお受けしておりますのでお気軽にご連絡ください。

SNSにおける民事/刑事の名誉毀損と、侮辱罪の厳罰化について

インターネット上の掲示板やSNSへの書き込みトラブルでは、「名誉毀損」にあたるか、という点がしばしば問題になります。

この「名誉毀損」という言葉は報道等でもよく出てくる有名な言葉ですが、法律の成立要件上は民事と刑事で似通っており、そのせいか、相談をお受けしていても混乱が生じやすいように感じます。


そこで、①刑事上の名誉毀損、②民事上の名誉毀損の違いについてご説明します。さらに、まさに今ネットでの(に限りませんが)誹謗中傷対策のため厳罰化が法制審議会で諮問中である、③「侮辱罪」(刑事上の名誉毀損が成立しない場合でも、滑り止め的に成立することがある)についても、あわせて比較します。

なお、仮に犯罪の根拠となる条文上の要件(構成要件といいます)を満たしても、すぐにその犯罪が成立する訳ではありません。たとえば、傷害事件でも正当防衛が認められれば、犯罪は成立しない場合がありえます。しかし、ここでは主に構成要件に絞って検討します(民事でも同様です)。

事実の適時の有無

まず最初に、さほど長くないので条文を抜き出します。

・(名誉毀損)刑法第230条第1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を棄損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

・(侮辱)刑法第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

・(不法行為)民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


このように、名誉毀損と侮辱の両罪の文言を比べると、名誉毀損罪は事実の摘示が必要であり、侮辱罪がこれが不要であることがわかります。

また、民事上の名誉毀損については、「名誉権」という「権利」(民法709条)が侵害されることは必要ですが、事実の摘示までは要求されておらず、意見・論評等でも良いことになります。

意見・論評の摘示

事実の摘示はなくとも、例えば「A弁護士は、頭が悪い。大馬鹿だ。」などとBがインターネットの匿名掲示板に書いたとすると、「 」内は事実(いわゆる「真実」とは意味が異なる)ではなく、意見・論評の類と考えられます。しかし、そうであっても、「頭が悪い」と書かれたA弁護士の社会的評価は低下しますので、程度にもよりますが、刑事であれば侮辱罪が成立するおそれがあり、また民事の名誉毀損にも該当する可能性があると言えるでしょう。

摘示内容の特定

ところで、どこまでが事実の摘示でどこからが違うのか、また事実の摘示の場合であっても摘示された事実は何なのか、といった摘示内容の特定は、裁判例等も見ながら慎重に検討しなければ判断が難しいことが多いです。

たとえば明確に、「Aは、2021年9月1日、JR神戸駅前路上で、殺意をもって、Bの左胸を長さ13センチの包丁で力一杯刺して殺した」などとCがSNSに投稿したのであれば、「 」の中が事実の摘示だと特定できるでしょう。しかし、『「Aが、Bを殺した」とCが言っていた』などとDがSNSに投稿した場合、Dが摘示した事実は、「 」の中のことなのか、それとも「 」の中の事実をCが言ったことなのかは、個別の事情をもとに判断せざるを得ません(仮に後者であれば、この事実はAの名誉を毀損する事実とは必ずしも言い切れない可能性が出てきます)。

特に、インターネットの掲示板やSNSでは、前後の流れで主語が省略された短文が投稿される傾向があることからも、摘示内容の特定は具体的事案ごとの検討が重要になってきます。

主観

刑法38条第1項本文には、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」とあるため、刑法は基本的には故意が無ければ犯罪は成立しません。故意とは、「敢えてやってやろう」までいかなくても、「もしかすると、ある犯罪にあたるかもしれないけど、まぁいいか」ぐらいでも認められます。

(なお、他人の内心なんか分かる訳ないだろう、という意見もあるでしょうが、裁判では客観的な事実を積み上げて淡々と判断されることになります。)

名誉毀損罪も侮辱罪も、いずれも刑法犯なので、上記の原則通り、故意の立証が必要になります。一方、民事上の名誉毀損は、条文上も「故意又は過失によって」とある通り、過失(うっかり。注意義務違反)によっても成立します。

社会的評価の低下

民事・刑事を問わず、「名誉毀損」とは、その人の社会的評価を低下させることとされています。

ただし、少しでも社会的評価を低下させるとこの要件に該当する、という訳ではなく、不法行為による賠償や名誉毀損罪を成立させるほど、大きく低下させた場合にのみ、この要件に該当すると考えられています。

なお、社会的評価の低下の程度が小さくても、本人の内心として名誉感情(プライドなど)が一定程度害された場合には、侮辱罪が成立する余地はあります。

まとめ

以上をまとめたのが、冒頭の表です。

一番下の侮辱罪は、摘示された「事実」の特定が困難な場合であっても犯罪として成立する可能性があるため、ある意味ネット上での悪質な誹謗中傷を刑罰権をもって抑制するのに使いやすい犯罪と言えます。

しかし、現在の法定刑は、「拘留又は科料」とされています。

拘留とは、1日以上30日未満、刑事施設に拘束される刑です。よく聞く「懲役・禁錮」は1ヶ月以上なので、拘留は最も軽い自由(を奪う)刑です。

また科料は、千円以上一万円未満の財産刑です。よく聞く「罰金」は原則一万円以上ですので、科料は最も軽い財産刑です。

このように、侮辱罪の法定刑は非常に軽いものとなっており、これでは、社会問題となっているネット上での誹謗中傷等に十分な対応が出来ないのではないか?というのが、最近になって侮辱罪の厳罰化が提案されている問題意識になります。

誤解しているかもしれない著作権の基本クイズ(1)

著作権者は誰でしょうか?

以下では、当事者間に特別な契約がなかいことが前提です。

(問い)絵の売買

画家Aが,自分の作品を,Bさんに100万円で売りました。

BさんがAさんに100万円を支払って絵を手に入れた場合、この絵の著作権者は画家のAさん?それとも買主のBさん?


(答え)

著作権者は画家のAさんのままです。つまり、絵の売買によって「所有権」がA→Bに移転しても、その絵の「著作権」は所有権にくっついていかない、ということです。

これは絵に限らず、著作権の対象になっている表現「物」を買った場合、通常は「所有権」が移転するだけですので、誤解していると大きなトラブルに発展する可能性があります。

もちろん契約で、著作権も売買の対象に含めることは可能です。ただし、著作権の譲渡契約は複雑になりがちですので、慎重に検討することが必要です。


じゃあ絵を買った人は何ができるの?

ところで、絵の所有権だけを買ったBさんはどうなるのか気になりませんか?

絵を買ったBさんがやりたい事の典型例は、

といったあたりかと思います。そこで、もしBさんがAさんの許諾なく、こうした行為をした場合に違法とならないのか、突っ込んで検討していきます。

絵を自分の家に飾る行為

まず自分の家には家族や親しい友人など特定少数の人しか来ないのが通常ですので、この場合は著作権者の許諾は不要です。


絵を会社の玄関等に飾る行為

会社の玄関等であれば、不特定または多数の人の目に入る場所かと思いますので、著作権者がもつ「展示権」という権利が問題になります。

しかし、著作権法の45条には、

『美術の著作物・・・の 原作品の所有者・・・は、これらの著作物を その原作品により公に展示することができる。』

とあります。

また、著作者であるAさんは「公表権」と言う権利も持っています。公表権とは、まだ未公表の著作物について、自分の許諾なく公表するなと言える権利です。よって、仮に今回の絵画が描きたてで未公表の絵画で会った場合、これを会社の玄関に飾るには、公表権も問題になります。

しかしこの点も、著作権法18条2項に

『著作者は、次の各号に掲げる場合には、 当該各号に掲げる行為について同意したものと推定する。

二 その美術の著作物又は写真の著作物で まだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合 これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること。』

とあるので、Bさんは、Aさんの許諾を得ずに、買った絵を会社の玄関に飾ることができると考えられます。

絵を美術館等に貸し出す

著作権者は「貸与権」という、いかにも問題になりそうな名前の権利をもちますが、貸与権は

『その著作物(映画の著作物を除く。)を その複製物 ・・・の貸与により公衆に提供する権利』(著作権法26条の3)

ですので、絵の原作品を貸し出す行為には、貸与権は及びません。

絵を第三者に譲渡する

先程の貸与権と似ていますが、著作権者は「譲渡権」という気になる名前の権利をもっています。しかし、譲渡権の内容は、

『著作者は、その著作物・・・をその原作品又は複製物・・・の譲渡により 公衆に 提供する権利』(著作権法26条の2第1項)

とされています。

絵の譲渡は、通常は特定少数に対してするものですから、絵の所有権者であるBさんは、Aさんの許諾なく、絵を第三者に売ることができます。

絵を写真にとってSNSに投稿する

この場合は、著作権者がもつ「複製権」が問題になります。

そして、「複製」には、絵画を写真にとったり、写真を絵にしたりといった、表現手段が異なる場合もふくまれます。どういった写真の撮り方をするかにも依ますが、絵を大きく詳細に撮影する時点で、これをAさんの許諾なく行うと、複製権又は翻案権の侵害となり、違法となるおそれが高いです。

第1問まとめ

知的財産権の取引には、通常私たちが行う取引の直感とは合わない部分が含まれますので、時間とお金をかけででも、一度しっかりしたものを作っておくことがトラブルの未然防止に役立つかと思います。

著作権の話と契約の話を区別することの重要性〜オープンソースソフトウェア(OSS)を例に〜

オープンソースソフトウェア(OSS)の法的な(自社ソースコードの提供が必要なのか?ダイナミックリンクなら大丈夫なのか?といった)問題が日本で注目されるようになってから相当の年月が経っています。

当初は情報が少なく、GPLやLGPLの原文を読んだり、数少ない雑誌の記事をコピーして回っていました。今では検索エンジンで検索すると,色々な立場の方が色々な解説しておられるので便利になったなと感じます。

私が見た中では、一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)の「IoT時代におけるOSSの利用と法的諸問題Q&A集(平成30年3月)」が、準拠法など細かい点についても検討されておりバランスよくまとまっていて分かりやすかったです。

ただ、日々の法律相談では、著作権と契約の区別があいまいなために大きな誤解をされている方がたくさん居られるのを感じていますので、OSSを題材に著作権と契約の区別にフォーカスを当てて、私なりの理解をまとめたいと思います。

OSS利用者が、当該OSSのライセンスを無視すると何が起きるのか?

まず前提として、OSSの利用者が、当該OSSのライセンスを無視すると、法的にはどういう状態になるのかを考えてみます。なお、話をシンプルにするため、以下では当該OSSについて著作物性は争う余地がなく、OSS作成者が当該OSSの著作権者だとします。

すると、OSSはプログラムの著作物として、(北朝鮮で作成されたとか特殊なものでなければ)日本の著作権法でも保護されますので、著作権者の許諾なく、これを私的な範囲を超えて複製したり、改変したり、ネットで配ったりすることは、著作権法に違反します。その結果、著作権者から 差止や損害賠償請求を受ける可能性があります。

多くの人はそれが問題だと感じるため、 当該OSSのライセンスを尊重しよう、ということになります。

OSSのライセンスを尊重することの意味

では、上記の「当該OSSのライセンスを尊重しよう」とはどういう意味でしょうか?心持ちの問題を議論してもあまり意味がないので、法的な意味について考える必要があります。

これについて、有名な(?)以下の2つの立場があります。

「契約」と考える立場

この立場では、上記の「当該OSSのライセンスを尊重しよう」の意味について、OSSのライセンスを尊重すること= OSS作成者とライセンス契約を締結し、以後そのライセンス契約を守ること、だと考えます。

すると、契約の当事者は契約内容に合意した結果、通常はその合意に縛られますので、たとえばOSSのライセンスに「OSS利用者は、ソースコードを提供する」と書かれていたとすると、これに合意したOSSの利用者は「ソースコードを提供する義務」を負います。

ここは大事な部分なのですが、OSSの利用者が「ソースコードを提供する義務」を負ったのは、「著作権法」のせいではなく、「自分でそういう内容の契約をしたから」です。(くどいですが、たとえ世の中に著作権法が存在しなかったとしても、ある内容のライセンス契約を結べば、これを履行すべき義務が生じます。)

著作権法には、ソースコードの提供義務は定められておらず、法律に書かれていないことを「法律」が強制してくることはありません。ただ、いったん契約をした以上は、契約を守らせるためのルールが書かれた(著作権法とは別の)法律があるので、その法律に従って、義務を負い、履行が強制されることになるだけです。

なお、契約と考える立場でも、契約を守らなかったことを理由にライセンス契約が解除される結果、著作権法違反の問題が生じます。

ソースコードの提供をどの程度強制できるのか

ところで、仮に上記の場合に、OSSの利用者がソースコードの提供を拒んだ場合はどうなるのでしょうか?

この義務は、債務者(OSSの利用者)本人にしか履行できない義務(不代替的作為義務)と思われますので、裁判所の判決等を経て、OSS作成者が間接強制(民事執行法172条)の申し立てを裁判所に行い、裁判所からOSSの利用者に対して「債務者が義務の履行をしないときは、債権者に対し、1日につき金●万円の割合による金員を支払え」といった内容の決定(支払予告命令)を出してもらいます。

以後は、このお金を取り立てることで、心理的に義務の履行を促すことになるかと思います。逆に言えば、相手にお金が潤沢にあれば、強制的に提供させるのは難しいように思います。

少なくとも、裁判官が企業に立ち入って、強制的にパソコンを操作したうえでソースコードをUSBメモリーにコピーして相手方に「はい」って渡す、ようなことはあり得ません。

「契約ではない」と考える立場

一方、OSSを利用する際には、通常の契約に見られるような要素が認められないとの見解から、OSSライセンスが「契約ではない」と考える立場があります。

この立場では、OSSのライセンスを尊重すること= OSSの利用許諾(権利不行使)の恩恵を受け続けるための条件として、OSSライセンスに書かれている内容を守ること、だと考えることになります。

この場合、仮にOSSライセンスに「ソースコードを提供すること」と書かれていたら、OSSの利用者は、条件通りにソースコードを提供している間は、著作権侵害にあたりませんが、提供を渋ったらOSS作成者の著作権を侵害することになり、差止や損害賠償請求の対象となります。

ここで大事なのは、OSSの利用者が、OSSの権利者と「ソースコードを提供する」といった契約をしていないならば、著作権侵害になったとしても、「ソースコードを提供する」といった契約上の義務は生じない、ということです。

契約か契約じゃないのか

これについては、裁判例の蓄積を待ちたいところではありますが、それではいつになるのか分からないので、以下実務面での私見です。

OSSの利用者の立場では、やはり慎重サイドに考えて、ライセンス契約の成立が認められたとしたらどうか?という観点でリスク管理をすべきでしょう。著作権侵害の問題はいずれにしろ発生するでしょうから、企業としては、契約上の義務を付加した形でリスクを見積もり、準備をしておくことをお勧めします。

OSSの作成者の立場では、もし契約として成立させたいのであれば、例えばクリックオン契約を応用するような形で、独自のライセンス内容や配布手法を用いれば、(使用している他のOSSのライセンスとの両立性などの問題もあって簡単ではないかもしれませんが)多少なりとも契約と認められやすくすることは可能なように思います。

一口にOSSといっても、例えば、気軽にpip installしてimportするモジュールレベルのものから、配布サイトからダウンロードしてreadmeを読みながら気合を入れて設定するものまで、対象は様々です。したがって、本筋としては、そのソフトウェアをどういう経緯で入手し利用するに至っているのか、個別具体的な事例のなかで、契約の成否を論じるのが良いように思います(「OSS」では主語が大き過ぎの傾向があると思っています)。

なお、契約の成否について、どの国の法律をもとに判断するかという準拠法の問題もあり、そのための通則法というルールも決められているのですが、通則法だけで全て解決するとは考えにくいため、ここでは深入りはしません。

まとめ

著作権上の問題(●●するな、という縛り)と、契約上の問題(●●するな、あるいは、●●しろ、という縛り)とを明確に区別する、ということをテーマに、「OSSライセンスが契約なのか問題」について、問題の所在を整理し、私見を述べました。

私自身、OSSの恩恵を日々受け続けていますので、OSSに関するトラブルや偏見?に、少しでもお役に立てれば幸いです。

著作権問題の全体像(後編:侵害)

前回分(著作権問題の全体像(前編:権利の帰属))はこちら


前回に引き続き、著作権問題が成立する場合の全体像をもとに、留意すべき各ポイントについてご説明していきます。

ちなみに前回は、権利の「帰属」と、権利の帰属状態が変更される「4個」の著作権取得原因についてご説明しました。今回は、「2個」の残り1個である「侵害」と、侵害が成立するための「3個」の要件についてご説明します。

法的に著作権侵害が成立しているのか(侵害)

著作権は、出願手続きも必要なく、創作行為時にパッと発生し、著作者の死後70年間も存続する(しかも、差止請求ができる)権利です。これは他の知的財産権、例えば特許権が、出願・審査・登録の手続きが必要で、各手続きで安くない費用がかかり、出願から20年で消滅するのと比べると、いかに強い保護が与えられているかがわかります。

その分、権利侵害の場面ではバランスをとっており、後述するように①特定の著作物に依拠して、②これと類似する著作物に関して、③法定の利用行為をした場合にのみ、著作権侵害が成立します。

侵害が成立するための3要件

依拠性

依拠するとは、たとえ無意識であっても既存の著作物をもとにすることを意味します。

とはいえ、内心に関することなので、訴訟になった場合には依拠性を推認させる間接事実(類似性の程度、無意味な部分の共通性等)を積み重ねていくことで立証することになるでしょう(東京高判平成13年6月21日、東京高判平成7年5月16日など)。

類似性

「類似」と言っていますが、もちろん同一の場合も含みます。

なにをもって類似しているというかは、一応裁判所の基準のようなものがあり、「表現上の本質的特徴を直接感得させる」(最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁)か?という検討になります。

この点については、基準になっているのかよく分からないレベルの抽象度なのですが、特にソフトウェアの著作権紛争時の合理性等も踏まえると、私としては、以下の整理(島並 良他, 著作権法入門 第3版 pp.32-26, pp.310-314, 有斐閣 参照)がわかりやすく、かつ妥当だと考えています。

①著作物の類似性は、創作性のある表現が共通するか、を基準に判断する

②創作性が高い場合は、類似性が肯定されやすく、低い場合はほぼデッドコピーの場合に限り類似性が肯定される

③創作性は、(少なくとも検討時には)選択の幅(当該表現に著作権の保護を認めたとすると、他者が同種の表現行為を行う際にどの程度、実質的な選択肢が残されているか?)を基準に考える

法定行為

以前、「権利侵害の警告状を受けたら最初に確認すること(著作権編)」でも少し触れましたが、他人の著作物と類似するからといって、何をするにも著作権者の許諾が必要になるわけではありません。当然ですが、法律で制限されないかぎり我々は自由に行動できるのが原則です。

著作権法は、著作物が著作権者の許諾なく、不特定または多数の人に対し提示・提供されること、及び、その準備的な行為としての複製を制限する目的で、個別にこういう行為は許諾なくしてはダメですよ(でも例外もありますよ)、のような形の規定を多数置いています。

複雑な場合もありますが、客観的に決められる部分ではありますので、トラブルの際は内部の事実関係の確認を含め、十分な対応が必要になります。

まとめ

(前編)とあわせて、著作権でトラブルが生じる場合の全体像を権利の帰属と権利の侵害の「2つ」の場面に分け、権利帰属の場面で注意すべき「4つ」の場合と、侵害場面で確認すべき「3つ」の要件についてご説明しました。

さらに、どういう行為が侵害となるかという点についても、全体像をご説明しました。

細かいことを言い出すとキリがないかも知れませんが、自社/ご自身が大きなトラブルに巻き込まれないために最低限どの点に注意したら良いか、あるいは、既に巻き込まれたトラブルで争点となりそうなのはどこか、を把握することで、効率よく著作権問題に対応できるのではないかと思います。


参考文献

島並 良, 上野 達弘, 横山 久芳. 著作権法入門〔第3版〕. 有斐閣, 2021-3-31.

著作権問題の全体像(前編:権利の帰属)

著作権問題はなにが「問題」なのかと言えば、多くの場合は、著作権者等の許諾なく無断で著作物を利用することで著作権侵害が成立すると、著作権者等からの差止や損害賠償請求の対象となることが「問題」なわけです。

したがって、上記の「著作権問題」が生じる場合の全体像を権利の帰属と権利の侵害の2つの場面に分け、権利帰属の場面で注意すべき4つの場合と、侵害場面で確認すべき3つの要件(2個−4個−3個)の各ポイントがクリアーになるよう、自社/自分はどういう契約や体制を整備しているのか/いないのかを把握することが、著作権でトラブらないための第一歩といえるでしょう。

以下では、この点についてご説明します。

いま、誰が、どんな権利をもっているのか(帰属)

「著作権」は有名な権利ですが、著作権が存在する場面では、「著作者人格権」という別な権利も(著作者が生きている間)問題になります。

また、著作権や著作者人格権は、表現者に対して生じる権利ですが、表現を伝達する者に対しては、著作隣接権という権利が生じます(著作隣接権についてはここで軽く触れるだけに留めます)。

そして、著作権や、著作隣接権の一部は、後述するように他人に譲れるので、現にいま、誰が著作権等をもっているか(=著作権侵害事件の原告になれるか)は、創作の記録や契約書等の証拠類から判断するしかありません。

一方、著作者人格権や著作隣接権の一部は、他人に譲渡等はできず、真の著作者本人にしか帰属しません(一身専属権などといいます)。たとえ、ゴーストライターAが合意のもとでBとして作曲したとしても、著作者人格権者はAです。

このように、当初、著作者に生じた著作権と著作人格権という2つの権利が、のちに著作者と著作権者でバラバラに帰属している状態はしばしば起こりえます。

権利の帰属先が決まる4つの場合

著作権の帰属先が決まる(権利を取得する原因となる)のは、以下の4つのいずれかの場合です。したがって、この4つ全ての場合に権利の帰属先がクリアーになるよう、契約書や規定の整備をすすめれば良いことになります。

①じぶんで創作した

著作権は、出願等の手続き不要で、創作時に、創作者に対して帰属するのが原則ですので、これが一番オーソドックスなケースと言えます。

②著作権者から承継した(譲渡・相続)

著作権は、著作物の財産的価値を代表するものですので、他人にあげたり、相続することができます。

③仕事で作成した(職務著作)

会社の従業員が職務上(給料の対価として)、著作物を作成した場合、公表名義等の所定の条件を満たせば、会社が「著作者」となるルールが法定されています(著15条1項、2項)。

デザイン会社に勤めるデザイナーが仕事でイラストを書く場合や、IT企業に勤めるプログラマーが仕事でコードを書く場合などが典型例です。

なお、職務著作の場合は、会社が「著作権者」ではなく「著作者」そのものになってしまうので、著作権だけでなく、著作者人格権も会社のものになる点で特殊な規定です。

また、「会社」と書きましたが、条文条は「法人等(法人その他使用者)の業務に従事する者」とされており、例えば個人事業主が雇ったアルバイト等が著作物を作成した場合も、該当すると考えられます。

④映画の著作物の特則

映画の著作物については、多額の投資がされ、また多数の著作者が絡んでくるため、著作権者を定める特別な規定が定められており、所定の条件を満たすときに著作権は「映画制作者に帰属する」(著29条1項)とされています。

映画制作者とは、映画制作に「発意」と「責任」を有する者とされ(著2条1項10号)、「責任を有する者」とは、映画制作に関する「法律上の権利義務が帰属する主体であって、経済的な収入・支出の主体となる者」とされています(平15(ネ)第1107号)。

つまり、映画制作を企画し、そのための資金を出したり借り入れをしたり契約上の最終責任を負ったりなど、特別な経済的リスクを負う人が著作権者になるルールと考えられます。

なお、「映画の著作物」には、劇場公開されるいわゆる「映画」以外にも、YouTube等に投稿されるような動画や、ゲーム中のムービー等も「映画の著作物」に該当します。

この場合、「映画の著作物」としてのYouTube動画の著作者は、上記のルールに則って考えるなら、法的・経済的なリスク負担を誰が負っているのかによって、YouTube動画の製作会社になったり、企業CMならその企業になったり(平24(ネ)第10008号)、あるいはYouTuber自身になる場合もあるかと思います。

また、著29条1項が働くのは「映画の著作物」に対してのみですので、その動画の中で他人の音楽や写真、シナリオ等を使っていた場合に、音楽等の著作権までが移動する訳ではありません。別途、各著作権者の許諾が必要になります。

このように、動画制作の場面でなにも決めないと、著作権者が誰になるのか紛争のもとになりますので、しっかり契約内容を確認しておくことが大切です。


(後編へつづく)

商社様の新人営業職の方向けに、契約セミナーを実施させていただきました

かつて自身が不動産の営業マンであった経験を活かし、単に法律の解説をするのではなく、「営業とは何か」を各自が深く考えるところから始まり、企業活動としてのゴールに契約がどう関係するのかという点を常に意識していただけるような、独自の内容となっております。

研修後のフィードバックまで全力で行い、企業様からは大変好評をいただきました。

2021年9月 商社様 新人営業職向け契約セミナーの様子01 20210901 商社様 新人営業職向け契約セミナーの様子02

企業視点で見た産学連携の注意点<後編>

本文章では、前編に引き続き、企業が産学連携に取り組む際の注意点について、ご説明します。

大学のひな形を使う際の留意点

不実施補償について

前編でも触れましたが、特許権が共有にかかる場合、それぞれの特許権者は自由に自己実施できるのが特許法上の原則(※1)です。

(※1)ちなみに、共有された特許権についての各特許権者による実施の可否は主要国の間でもかなり異なっており、大事な発明は高い割合で外国出願する近年の傾向も踏まえると、共有特許権が使いにくい原因になっていることがしばしば指摘されます。

一方、大学から送られてくる共同研究等の契約書ひな形には、「大学と企業で共有する特許権についても、企業が自己実施した際は、大学に実施料を支払う」という内容の「別段の定」(特許法73条2項)が規定されている場合があります。これが、いわゆる「不実施補償」と呼ばれる規定です。


理不尽なようにも思えますが、大学は、一般的には特許発明を自己実施する能力がないため、原則通りだと、実質的には企業だけが特許から収入を得ることになってしまうため、その公平を図るため、と説明できるかと思います。

この点、以前は双方が譲らずに揉めることもあったようですが、最近では、

(A)大学が独自に第三者へ実施許諾することを認めないなら企業が不実施補償を支払うが、
(B)大学が独自に第三者へ実施許諾することを認めるなら不実施補償は支払わない、

という整理を基本軸に、(業界にもよるでしょうが)比較的合意が得やすくなっているように感じます

なぜなら、(A)であれば、確かに大学は特許を共有する企業からしか特許収入を得られませんが、(B)であれば、大学は第三者に実施許諾をすることで独自にライセンス収入を得る道があるため、不公平とは言えないためです。

さくらツールについて

さくらツールは、11類型の契約書ひな形等を含む、国が作った産学連携の枠組み作りのためのガイドラインです。


さきほど(※1)として書きましたが、グローバルでは非常に使い勝手が悪いにもかかわらず、従来、産学連携(にも限りませんが)の成果の多くは、硬直的に「とりあえず共有」とされてきました。

しかし、せっかく費用と時間をかけて取得した特許権をいざ実施しようとすると、共有者の合意が取れずに身動きが取れない、となると非常に勿体無いです。

そこで、成果活用を第一に柔軟な枠組み作りができるよう策定されたのが、さくらツールです。そのため、産学連携の成果の活用を熱心に検討したい、という場合には参考になる部分が多いかと思います。

「公表」の時期に注意

ひな形では、共同研究の成果を公表する者は、公表の所定日前までに相手方に通知するよう定められている場合があります。

<前編>でご説明したように、産学連携の契約では、共同研究の成果が秘密保持の対象に含まれていない場合があります。この場合、大概は、上記の事前通知を受けてから所定日数以内に相手方に非公開を希望した場合だけ、公開しない、というような建て付けになっているかと思います。

しかし、大きな学術会議では、会議当日よりかなり前に概要や予稿集がオンラインで入手可能になる場合が多々ありますので、大学の研究者が考える「公表」より前に、大切な営業秘密が不特定多数に知られてしまっている事態があり得ます。秘密が公表されてしまってからでは取り返しがつきませんので、研究発表等の申し込み時には通知し合うよう定めておくことが好ましいです。

最近の産学連携で必要な他の留意点

以上述べたことに加え、最近の社会動向などからは以下の点にも留意しておく必要があるように思います。

米中対立の影響

米中対立による経済安全保障の観点から、今後は米中両国が相互に、技術情報の再輸出について厳しい対応をしてくることが予想されます。

<前編>でも触れた留学生比率の高さに加え、もともと大学の研究室は海外と人や情報の交流が頻繁にある場所ですので、例えば先端的な素材や通信技術等が絡むテーマを大学に出す際には、輸出管理の面からもしっかりとリスク評価や、必要に応じた情報管理体制の確立を大学側に求めていくことが大切です。

贈賄とされるリスク

「大学の口座」に正規の奨学寄付として200万円を振り込んだ製薬大手企業の従業員が、自社製品の積極使用を働きかけたとして、元大学教授への贈賄の被疑事実で逮捕され、その後に起訴されたという報道がありました。

社内で正規の決裁手続きを経て、しかも、教員個人の口座ではなく、大学の口座宛に振り込んだ場合であっても、状況によっては贈賄の疑いをもたれうるわけです。今後は、従来以上に注意が必要なポイントかと思われます。

契約でデータの利用権限を確保する

ビジネスにおけるデータの重要性が指摘されるようになって久しく、多くの企業で、自前のデータを使って利益を上げたいと考えておられることと思います。

しかし、産学連携で得られたデータの取扱については、一般的な知財条項だけではそうしてもグレーゾーンが出てきます。できれば、データのどんな態様でのどういう利用について、誰が利用権限を持っているのかと言う点について、実際のデータの利活用処理を想定して具体的に契約で定めておくことが好ましいです。

この点は、ひな形からは抜けがちな点ですので、データが重要な成果の一つと期待されている場合には、慎重に検討すべきかと思います。その際は経産省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」等を参考にしても良いですし、産学連携に詳しい弁護士等に相談されるのも良いと思います。

おわりに

一口に産学連携といっても、企業と研究室とのお付き合い的なものから、多数の企業や大学がコンソーシアムを作って行う大規模なものまで様々ですが、本文章では、将来の揉め事を避けるために比較的どんなケースでも共通して注意が必要となる点についてご説明しました。

企業視点で見た産学連携の注意点<前編>

はじめに ~産学連携の契約上の特殊性~

大学の契約書ひな形に感じる違和感

企業が大学と共同研究等をする際、多くの場合は大学から契約書のひな形が送られてくると思います。この契約書は、しばしば文科省の受託研究契約書がベースになっているようで、その結果、企業側視点では首をひねりたくなる条項が含まれていることがあります。


例えば、企業が費用を支出した委託/共同研究の成果を当該企業が使うのに大学へ実施料を支払う必要があるとされている契約書が珍しくありません。

企業同士であれば、研究委託費を出している側は、少なくとも成果の無償実施権ぐらいは欲しいと感じますし、知財権は委託者側に譲渡される契約も、さほど珍しくはないと思います。また、共同研究であれば通常は企業側にも発明者がいるため、生まれた発明は、企業と大学との共同出願とすることが多く(このことの是非は別にして)、特許法の原則では特許権者である両者は自由に自己実施できるはずです(特許法73条2項)。

それにも関わらず、「権利を使いたいなら金を出せ」と言われると、「うちが委託費出してるのに?」「うちの技術者も発明者なのに?」と、違和感を感じる場合もあるかと思います。


また、委託研究の成果が秘密保持の対象に含まれておらず、成果は原則公表し、例外的に非公開とできる、というような建て付けになっている場合もあります。

企業としては、自社がお金を出して得られた研究成果は重要な営業秘密となり得ますので、原則として非公開としたいため、原則と例外が逆になっているように感じるかと思います。


大学の契約書ひな形が、一見理不尽に見える理由

しかし、大学の契約書のひな形が、上記のように一見理不尽とも思える内容になっているのには、それなりの理由があります。


一般に、企業が大学へ支払う委託費や共同研究費の内訳は「直接経費+間接経費」となっており「報酬」は含まれていません。つまり、産学連携の枠組みを活用することで、企業側は大学の「知」を実質的には無料で利用できていることになります。

そのため、「間接的には国費が投入されている研究から生まれた成果を広く社会に還元させるのは大学の存在意義である」と言われると、先の契約書ひな形にも一定の合理性があるように思えてきます。


WIN-WINな関係構築を目指す

特にリソースの限られた中小企業であれば、産学連携の枠組みによって得られうる、大学の知(と、学生の人手)は貴重なはずです。一方、大学にとっても、企業と関わりを持つことでテーマ設定や実証的な研究の場が得られるなど、メリットは大きいでしょう。


そのため、企業としては、仮に大学側から一見不可解な契約案が示されたとしても、なぜそうした内容にしているのか、その趣旨を確認し、WIN-WINな合意となるよう、大学側としっかり話し合うことが、産学連携を成功させる基本的な思考方法ではないかと思います。


その際に想定される失敗は、研究室の教授は企業が提示した契約条件に合意していたのに、実はそのことを大学のTLO(Technology License Organization:技術移転機関)は知らず、最終的な契約の直前になってTLOと揉める、というパターンです。

契約交渉では、常にTLOの担当者が入っていることを確認しながら進めることが大切です。


契約審査に入る前にチェックすべきこと

先程軽く触れましたが、多くの研究室では、企業からの委託/共同研究のテーマが、学生の卒論/修論のネタとなっている場合が珍しくありません。しかし、産学連携に学生が参加することには、企業としては、次の2つの点で慎重であるべきです。


営業秘密管理

理系の学生の多くは、学部最後の1年間と修士課程2年間の合計3年間しか研究室に所属せず、その後は、競合他社へ就職する可能性が高いと言えます(もちろん、産学連携が縁で自社に入社するケースもありますが)。

また、研究室における学生の研究指導は、博士課程の学生が中心となって行う場合も珍しくありませんが、新聞記事でも見かけるように、博士課程に進学する日本の学生は少なく、他のアジア諸国からの留学生の比率が高いのが実情です。

そうすると、営業秘密管理(さらには、後述する輸出管理)の観点から、学生が参加する場合は、産学連携のテーマ設定自体を営業秘密管理や輸出管理の視点で慎重に判断しなければなりません。さもないと、思いもよらない形で外国政府からペナルティが課せられる可能性があり、今後は特に要注意かと思います。


発明の帰属

次に、従来からある問題点ですが、学生は大学教員と違って大学の職務発明規程に縛られないため、学生がした発明を企業が取得したい場合、当該企業は学生と個別の契約をする必要が生じます。

学生は、数年後にはほぼ必ずその所属が変わるという、非常に流動的な身分と言えますので、企業としては、産学連携の事案毎に、参加予定の学生と事前の譲渡契約を締結しておくことが好ましいです。


小活

本文章では、企業視点で見た産学連携の注意点<前編> として、①大学のひな形が一見特殊に見える理由や、企業側の望ましい対応、②大学との共同研究等に関する契約内容に踏み込む前に注意すべき、学生の参加リスク の2点についてご説明しました。

次回は、契約時に注意すべき具体的内容や、特に近年になってリスクが増加していると感じる点について、ご説明予定です。



大学との共同研究や委託研究等を検討しておられる企業様で、ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

権利侵害の警告状を受けたら最初に確認すること(著作権編)

はじめに

ここでは、著作権者を名乗る第三者から、著作権侵害の警告(ライセンスの提案を含む)を受けた場合を想定し、弁護士等に相談する前段階で、ご自身で確認しておく方が以後の対応がスムーズ(時間とお金の節約)になると思われる形式面について、ご説明したいと思います。


もちろん、事案によって別対応を採用する場合もあり得ます。一つの考え方としてご理解ください。


誰の、どんな行為が侵害だと言われているのか?

本の代金は、著作権の対価?

著作物であれば何をしても著作権侵害になる、というものではありません。例えば、著作物である小説を「読む」行為のために著作権者の承諾は不要ですし、美術館で絵を「見る」行為にも著作権者の承諾は不要です。


つまり、本屋で本を買う代金は、本という「物」の売買の対価(所有権を得るための対価)であって、本に書かれている著作物について著作権が得られるわけではない、ということになります。


くどいようですが、本屋で「本」という物は買えますが、著作権は買えません。


法定利用行為

では、著作物について何をしたら著作権侵害になるのかということが、著作権法に書いてあります。

いわゆる法定利用行為というやつで、沢山あるので細かく見ていくと大変なのですが、ざっくりとは、


(1)著作物の、①有形的再製、②提示、③提供と、(2)二次的著作物の④作成、⑤利用、という5類型の行為です。


そして、各行為ごとに、著作家侵害とならない場合の規定もあり、複雑です。


「著作権侵害」というと、似ている・似ていない/真似した・真似していないの議論になりがちかもしれませんが、そもそも法定利用行為等をしていなければ侵害が成立しません。

そのため、警告をしてきた著作権者(と思われる第三者)は、どんな行為を著作権侵害だと特定しているのか、警告状で確認することは大切です。その内容によって、今後の方針が変わるためです。


著作権者は、誰か?

著作権者が問題になる背景

特許のような産業財産権と、著作権の大きな違いは、著作権は、権利者の名前を書かなくても成立するということです。

つまり、産業財産権は特許庁への「出願」行為がないと存在せず、出願時には願書に出願人の名前を書かされます。また、例えば特許権を譲渡する場合は、特許原簿(不動産でいう、登記簿みたいなものです)への登録が効力発生要件となっているため、現在誰が権利者か?で問題になることは、多くはありません。


しかし、著作権は出願手続きなく発生するため、自称著作権者が本当に権利者なのかを判断するのは簡単ではありません。悪気はなく、本当は著作権者じゃない方が、自分は著作権者だと思い込んでいる場合もあります。


逆に、自分は著作権者じゃないと思っていたら、共同著作物だったという場合もありえます(なお、著作権を共有した場合、その行使には全員の合意が必要(著65条2項)であることにも注意が必要です)。


著作者と著作権者を区別することも大事です

著作権とは別に、著作者人格権という、著作者本人に帰属して他人に譲渡できない権利もあります。


著作者は、現実に著作物を作成した人です。著作権者は、著作権をもっている人です。

著作物の作成時、著作者は、著作権と著作者人格権という2種類の権利をもつことになります。そこで、著作者Aさんが著作権をBさんに譲れば、Bさんが著作権者になります。しかし、著作者人格権の方は譲渡できません。
なお、法律の規定で、著作物を作成した人と別な人が著作者になる(職務著作)場合もありますが、ここでは触れません。


著作者人格権については、著作権とはまた別な侵害行為が成立しうるため、警告者は、自身を著作者本人だと主張しているのか、著作者ではないけど著作権者だと主張しているのか、も区別することが大切です。


警告状が届いた段階では、細かい点まで確認することは難しい場合も多いと思いますが、これらの点について書面になんと書かれているか/書かれていないかは、注意深く読んでおく必要があるかと思います。


おわりに

ここでは、著作権侵害の警告状が届いた場合を想定し、一般的に、確認しておくほうが良いと思われることを記載しました。

突然、警告状が来たら驚くのが普通だと思います。しかし、上記の点を含め、著作権侵害が本当に成立するかは、色々な検討が必要な場合が多いです。

したがって、単に警告が来ただけで過剰に恐れる必要はありませんが、著作権の紛争は、著作権以外の法律が問題になる場合も多々ありますので、なるべく早めに、著作権等について詳しい弁護士に相談することをお勧めします。


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