誤解しているかもしれない著作権の基本クイズ(1)
著作権者は誰でしょうか?
以下では、当事者間に特別な契約がないことが前提です。
(問い)絵の売買
画家Aが,自分の作品を,Bさんに100万円で売りました。
BさんがAさんに100万円を支払って絵を手に入れた場合、この絵の著作権者は画家のAさん?それとも買主のBさん?
(答え)
著作権者は画家のAさんのままです。つまり、絵の売買によって「所有権」がA→Bに移転しても、その絵の「著作権」は所有権にくっついていかない、ということです。
これは絵に限らず、著作権の対象になっている表現「物」を買った場合、通常は「所有権」が移転するだけですので、誤解していると大きなトラブルに発展する可能性があります。
もちろん契約で、著作権も売買の対象に含めることは可能です。ただし、著作権の譲渡契約は複雑になりがちですので、慎重に検討することが必要です。
じゃあ絵を買った人は何ができるの?
ところで、絵の所有権だけを買ったBさんはどうなるのか気になりませんか?
絵を買ったBさんがやりたい事の典型例は、
- 絵を自分の家に飾る
- 絵を会社の玄関等に飾る
- 絵を美術館等に貸し出す
- 絵を第三者に譲渡する
- 絵を写真にとってSNSに投稿する
といったあたりかと思います。そこで、もしBさんがAさんの許諾なく、こうした行為をした場合に違法とならないのか、突っ込んで検討していきます。
絵を自分の家に飾る行為
まず自分の家には家族や親しい友人など特定少数の人しか来ないのが通常ですので、この場合は著作権者の許諾は不要です。
絵を会社の玄関等に飾る行為
会社の玄関等であれば、不特定または多数の人の目に入る場所かと思いますので、著作権者がもつ「展示権」という権利が問題になります。
しかし、著作権法の45条には、
『美術の著作物・・・の 原作品の所有者・・・は、これらの著作物を その原作品により公に展示することができる。』
とあります。
また、著作者であるAさんは「公表権」と言う権利も持っています。公表権とは、まだ未公表の著作物について、自分の許諾なく公表するなと言える権利です。よって、仮に今回の絵画が描きたてで未公表の絵画で会った場合、これを会社の玄関に飾るには、公表権も問題になります。
しかしこの点も、著作権法18条2項に
『著作者は、次の各号に掲げる場合には、 当該各号に掲げる行為について同意したものと推定する。
二 その美術の著作物又は写真の著作物で まだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合 これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること。』
とあるので、Bさんは、Aさんの許諾を得ずに、買った絵を会社の玄関に飾ることができると考えられます。
絵を美術館等に貸し出す
著作権者は「貸与権」という、いかにも問題になりそうな名前の権利をもちますが、貸与権は
『その著作物(映画の著作物を除く。)を その複製物 ・・・の貸与により公衆に提供する権利』(著作権法26条の3)
ですので、絵の原作品を貸し出す行為には、貸与権は及びません。
絵を第三者に譲渡する
先程の貸与権と似ていますが、著作権者は「譲渡権」という気になる名前の権利をもっています。しかし、譲渡権の内容は、
『著作者は、その著作物・・・をその原作品又は複製物・・・の譲渡により 公衆に 提供する権利』(著作権法26条の2第1項)
とされています。
絵の譲渡は、通常は特定少数に対してするものですから、絵の所有権者であるBさんは、Aさんの許諾なく、絵を第三者に売ることができます。
絵を写真にとってSNSに投稿する
この場合は、著作権者がもつ「複製権」が問題になります。
そして、「複製」には、絵画を写真にとったり、写真を絵にしたりといった、表現手段が異なる場合もふくまれます。どういった写真の撮り方をするかにも依ますが、絵を大きく詳細に撮影する時点で、これをAさんの許諾なく行うと、複製権又は翻案権の侵害となり、違法となるおそれが高いです。
第1問まとめ
知的財産権の取引には、通常私たちが行う取引の直感とは合わない部分が含まれますので、時間とお金をかけででも、一度しっかりした契約書や取引の仕組みを作っておくことがトラブルの未然防止に役立つかと思います。