ウェブサービスと電気通信事業
以前、お客さまとウェブサービスの事業についてお話をさせていただく中で、電気通信事業の届出が必要だと指摘すると驚かれることが見受けられます。そのお客さまは、「電気通信事業」が大手通信キャリアやインターネットプロバイダといった大規模な通信事業者のサービスをイメージされている様子で、一般的なウェブサービスやアプリでも「電気通信事業法」の規制対象となる可能性があることをご存知なかったとのことです。
そこで、今回は、どのようなウェブサービスが電気通信事業法の規制対象となるのか、可能な限り簡単に説明できればと思います。
キーワードは「他人の通信の媒介」
複雑すぎる電気通信事業法
電気通信事業法は、1984年に成立した法律であり、当初はいわゆる電話や電報を念頭においた規制となっていました。インターネットの歴史的には、インターネット技術の日本での利用が始まった頃であり(こちらを参照)、インターネットの普及はまだまだ先だという時代の法律です。
これが、インターネットの普及につれて、電気通信事業法でも規制の対象となるよう、パッチワーク的に改正がされていくことになり、現時点でも頻繁に改正されています。そのため、非常に読みにくい法律となっています。
今回問題としたい届出義務に関連する条文を列挙してみようと思います(じっくり読んでいただく必要はありません!)。
- 16条1項:届出義務の根拠条文
- 2条4号:「電気通信事業」の定義
- 2条3号:「電気通信役務」の定義
- 2条2号:「電気通信設備」の定義
- 2条1号:「電気通信」の定義
- 164条1項1号~3号:電気通信事業法が適用されない電気通信事業(届出義務が発生しない電気通信事業)(原則に対する例外)
- 164条1項3号イ~ハ:上記の「原則に対する例外」に対して電気通信事業法が適用される電気通信事業(原則に対する例外の例外)
- 164条2項:上記の「原則に対する例外の例外」に関する定義
- 164条3項:(届出義務とは関係ないですが)上記の「原則に対する例外」の電気通信事業においてもなお適用がある電気通信事業法の定めの摘示
そもそも164条は届出義務の条文と定義規定からかなり離れていて分かりにくいですよね。そして、164条を見つけたとしても、164条についてじっくり考え始めると「もう読みたくない」と思ってしまいますよね。そこで、今回は、正確性を犠牲にして、思い切って「原則に対する例外の例外」つまり164条1項3号イ~ハは省略して説明することとします。これらの電気通信事業は大規模なものに限られ、適用されるお客さまも想定し難いためです。
さらに、「電気通信事業」の説明も細かい点は除いて重要なポイントのみに絞りたいと思います。
「電気通信事業」の定義を確認してみる
届出義務が必要となる者は、「電気通信事業を営もうとする者」です。そのため、「電気通信事業」が何かが大事です。
上記のとおり、「電気通信事業」の定義を理解するには、「電気通信」の定義まで遡って確認する必要があります。ただ、ざっくり説明すれば、「①インターネットを用いたサービスであり、②社内に閉じたりせずに他人のために提供されているもので、③事業としての反復・継続性が認められるもの」となります。
なお、届出義務が必要となる者は、正確には「登録を受けるべき者」が除かれます。ただ、登録義務は、「電気通信回線設備」(ややこしいですが、電気通信設備とは異なる概念です。)という、いわゆる通信キャリアが管理する基地局といった大規模な設備を想定しているため、単にAWS等のクラウド上で構築されただけのウェブサービスの提供においては無視して問題ありません。
この説明だけだと、世の中の数多くのウェブサービスが電気通信事業に該当し、届出が必要となってしまいます。「電気通信事業」非該当を理由に届出が不要なウェブサービスは、あくまで専ら自分の事業のためにサービスを提供する自社ECサイト等くらいでしょうか。
重大な例外としての「他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務」
上記に対して、重要な例外として、164条1項3号柱書があります。以下の電気通信事業については、電気通信事業法を適用しないこととなっています(上記のとおり、例外の例外は除きますが。)。
既に説明したとおり「電気通信回線設備」は無視でいいため、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務」を提供する電気通信事業は適用除外となります。
言い換えれば、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務」が届出対象となるのだという理解でいただければと思います。
奥が深い「他人の通信の媒介」
「他人の通信の媒介」の意味
それでは、「他人の通信の媒介」とは何でしょうか?総務省の解説などを読むと、次の説明があります。重要なので、長めに引用します。
分かったような分からないようなものですよね。ただ、典型例は、電話や電報です。このことを踏まえれば、他人である誰かと誰かのコミュニケーションを、内容そのままで送り届けることが、「他人の通信の媒介」であるといえるのではないかと思います。
したがって、電子メールやLINEはメッセージをユーザー同士で送受信するもので「他人の通信の媒介」を伴う典型的な電気通信事業といえます。同様に、ゲームやショッピングサービスでユーザー同士でメッセージを送受信する機能があれば、それは「他人の通信の媒介」を伴う典型的な電気通信事業となり、届出義務が生じます。
「他人の通信の媒介」にあたらない例
逆に「他人の通信の媒介」に該当しない例を考えると、分かりやすいかもしれません。
掲示板サービス・ECモール
5ちゃんねるなどの掲示板サービスは、「他人の通信の媒介」を行っていないと判断されます。掲示板の投稿者と閲覧者の通信を媒介していると見る余地がないわけではないです。しかしながら、総務省は、あくまで5ちゃんねるのサービスに投稿された情報を、閲覧者が見に行っていると判断しています。このような状況を捉えて、「情報をやり取りできる「場」を提供している」と表現することがあります。
ECモールも同様で、ECモールは、出店企業が商品情報を提供し、ユーザーが商品を購入するという「場」を提供していると評価されています。なお、個別の出店企業とユーザーとのメッセージ機能があれば「他人の通信の媒介」ありとなるのは、上記のとおりです。
メールマガジンの配信
顧客企業から提供を受けた製品PRやイベント開催案内を集め、一般消費者にメールを送信するメールマガジンのサービスはどうでしょうか。これは、他人のために提供されるインターネットサービスであり、「電気通信事業」には該当します。しかしながら、自らメールを作成し、自らメールを送信しているため、「他人である誰かと誰か」のコミュニケーションの媒介でなく「自己と他人である誰か」とのコミュニケーションをしていると評価されます。加えて、自らメールを作成している以上、「内容そのままで送り届ける」という要素からも「他人の通信の媒介」ではないと整理できると考えます。
まとめ
以上のとおりであり、届出が必要なサービスは、次のようなウェブサービスだと認識いただければまずは合格点だと思いますし、失敗も少ない印象です。
- 「電気通信事業」であること
ざっくりと、他人のために提供され、インターネットを用いたウェブサービスであること - 「他人の通信の媒介」をするものであること
ざっくりと、他人である誰かと誰かのコミュニケーションを実現するものであり、かつ、そのコミュニケーションの内容がそのまま送り届けられるものであること
なお、長々と解説していますが、総務省も「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」(こちらから)を作成し、図を用いて分かりやすく説明しているのでこちらもご参考にしてください。
最後に、そもそも届出事業に該当するかは奥が深い話です。さらに、今回は説明をしておりませんが、電気通信事業法の適用対象となった場合の各種規制も複雑なものとなっています。是非、ご不明点があれば、当事務所までご相談ください。