他社に権利侵害の警告をする際の留意点(特許編)その1
はじめに
せっかく苦労して取得した自社の特許権を侵害している相手を見つけた場合,その相手に侵害行為を止めるよう強く警告したくなるのは当然です。しかし,後になって実は相手が自社の特許権を侵害していないことが分かったり,自社の特許権にキズあって無効になったりすると,法的な問題が生じる場合があります。
ここでは,以下の想定事例を通じて,特許権侵害の警告をする際の留意点についてご説明します。
想定事例
電機部品メーカーのA社は、環境負荷が従来のおよそ半分になるある部品の製造方法について特許を取得していました。
ある日、A社の従業員が展示会を見て回っていると、A社の競合メーカーであるB社が、A社の特許権の技術的範囲に属する製造方法と同じ(に思える)方法で製造された部品を出品し、「SDGs時代の要望に応えた画期的な製品」であると宣伝して複数の大手製品メーカーから好評を博しているのを見つけました。
A社は、B社をこのまま野放しにしていては自社の売り上げが大きな損害を被ると考え、B社に対する差し止めを求めて訴訟することを視野に入れています。
しかし、訴訟で結論が出るまでには数年がかかると聞いたことがあったため、A社は、
- ① B社に対して部品の製造販売を今すぐ止めるように警告すること、及び、
- ② A社やB社の顧客にあたる大手製品メーカーC社に対して、「B社の当該部品はA社の特許権を侵害しており、B社との取引をすぐ止めるように」警告すること
を考えています。
A社の①や②の警告行為には、問題がないのでしょうか?
権利者が特許権侵害の警告をする際に注意すべきこと
警告されたB社側の視点
A社から「うちの特許権を侵害している」と言われたB社が、素直にこれを認めた場合は別ですが、もし、「A社の特許と我が社(B社)の製品とは全く関係がない。A社の警告はうちの社会的評価を害するための卑劣な行為だ!」などと考えた場合、B社からは、非侵害や特許無効の主張とともに、不正競争防止法2条1項21号の主張が予想されます。
不正競争防止法2条1項21号について
この条文には、
『競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為』は、『不正競争』にあたり、その場合は他の要件を満たせば、差止(3条)や損害賠償請求(4条)が認められる旨が規定されています。
上記事例であれば、仮にB社の部品がA社の特許権を侵害していなかった場合、A社の警告内容(=「B社の部品がA社の特許権を侵害している」)は真実ではなかった、ということになるため、A社の行為が上記の不正競争行為に該当する可能性が出てきます。
そこで、以下では事例における①や②の行為は、不正競争行為に該当するのかご説明します。
A社による①の行為について
まず、特許権を侵害した(とされる)相手方(B社)に対してA社が警告をしても、その事実は通常はB社の中に留まります。つまり、B社以外にその事実が知られることがなければ、B社の社会的評価が害されることもありません。そのため、①の警告行為が不正競争防止法2条1項21号に該当することは通常はないとされています。
ただし、A社が、実は非侵害であることを十分認識していたにも関わらず、公序良俗に反するような激しい態度でB社を恫喝したような場合であれば、別途、B社に対する損害賠償義務がA社に発生する余地はあります。
A社による②の行為について
一方、A社やB社の顧客である製品メーカーC社に対して、B社の部品がA社の特許権を侵害していると警告する行為は、C社から見たB社の社会的評価を害する可能性があります。
最近の裁判例では、
『競業者の取引先に対する警告が、特許権の権利行使の一環としてされたものか、それとも特許権者の 権利行使の一環としての外形を取りながらも社会通念上必要と認められる範囲を超えた内容・態様となっているかどうかについては、
当該警告文章などの形式・文面のみならず、当該警告に至るまでの競業者との交渉の経緯、警告文章などの配布時期・期間・配布先の数・範囲、警告文章などの配布先である取引先の業種・事業内容・事業規模、競業者との関係・取引態様、当該被疑侵害品への関与の態様、特許侵害訴訟への対応能力、警告文書などの配布への当該取引先の対応、その後の特許権者及び当該取引先の行動などの、諸般の事情
を総合して判断するのが相当である』
としているものがあります。
長いですが、つまり、警告後に特許権侵害が無かったことが明らかになったとしても、それだけで直ちに上記不正競争行為になるとは判断しませんが、下線のような様々な事実を総合判断してシロクロ付けますよ、ということになります。
そのため、上記②の場合は事実関係が不足しており結論は出せませんが、A社としては、B社の取引先であるC社にまで警告状を出すことにはリスクがあります。
とはいえ、取引先への警告はB社がもっとも嫌がることですし、A社の交渉を有利に運ぶための有力な選択肢ともなり得ます。A社としては、悩むようであれば、知財に詳しい弁護士に一度相談してみるのが良いように思います。
まとめ
本文章では、自社の特許権が侵害された(と考えている)場合に、警告状を出す際の留意点についてご説明しました。
結論としては、侵害している相手方にだけ常識的な範囲で警告する分には、そう心配する必要はありません。しかし、相手方の取引先にまで警告する際には難しい問題が生じえますので、知財に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
なお、直接警告するのではなく、例えば自社のWEBページ等において侵害者(と思っている相手)を厳しく非難する場合に発生する法的問題については、別な機会にご説明しようと思います。