はじめに
システム開発においては、特にソースコードや、当該システム中で使用される画像類(アイコン画像、WEBページで使用する写真、動画など)に関する著作権の帰属が問題となります。具体的には、①著作権の帰属、②ライセンス範囲、③著作者人格権の不行使、④対価性、等について当事者間で争点となりやすく、これらの点の合意内容が、後々重要となることがあります。
こうした争点を理解する際には、「著作権は所有権とは別の財産権(無体財産権)である」という視点が重要になります。SaaSの開発が増えるにつれて、こうした感覚は普通のものになりつつあるのかも知れませんが、オンプレミスのシステム開発を行う際には、なんとなくCD-Rやサーバー本体といった「開発成果=納品物」に著作権がセットで移転するようなイメージを持たれている場合が、今でも見受けられます。しかし、著作権は形のない無体財産として独立した権利ですので、有体物の所有権を譲渡したとしても、必ずしもセットで著作権が移転するわけではありません。
そのため、著作権自体の帰属先、及び、当該帰属を前提として「誰が、どの範囲で何ができる/できないか」について、その対価も含めた合意が重要となります (極端に思えるかもしれませんが、権利者であっても期間内は一切権利行使できない旨を定めた独占的なライセンスも、知的財産権の分野では珍しくありません)。
仮にシステム開発の契約書で何も決めなかったら?
システム開発における契約上の注意点を考える上では、仮に、成果物の著作権に関して契約で何も取り決めがなされなければどうなるかを考えるのが有効です。
まず、システム開発の業務委託の場面では、多くの場合には職務著作(著作権法15条)として、受託会社/ベンダーが成果物の著作権者となり、著作(財産)権及び著作者人格権はすべて当該法人に帰属することになると考えられます。 そして契約上の特則を設けない場合には、上記権利がそのまま受託会社/ベンダーに残ることになります。
その結果、ユーザー企業はベンダーの許諾なく、著作権が成立している納品物の法定利用行為(複製、翻案等)を行うことができないこととなります。ユーザー企業がお金を出していたとしても、それは開発行為という役務提供(のみ)の対価であるため、契約に定めがない限り、原則として上記の通りとなります。
ユーザー企業の立場から見た著作権の取決めに関する検討ポイント
例えばWEBシステムが納品物となる場合を考えても、(A)クライアント(WEBブラウザ)側で実行されるプログラムのソースコード、(B)WEBページのデザインとして使用されている画像や動画、(C)サーバー側で実行されるプログラムのソースコード、など様々な著作物が含まれることが想定されます。そして、(著作権が成果物とは別個の財産権であることの帰結として)これらすべての著作権の譲渡を主張すると、その分、委託費用が高騰する可能性が生じます。また、当該著作物の中には、受託者が元々作成しており、受託時の共通部品として使用しているプログラムや、第三者が著作権をもつライブラリなども多数含まれていることが考えられ、こうしたケースでは、そもそも「全ての著作権」をユーザが譲り受けることは困難です。
したがって、ユーザー企業としては、常に「全ての著作権」の譲渡に拘るのではなく、場合によっては自社にとって本当に必要となる著作権の利用シーンを特定したうえで、過不足なくこれを行える権利を確保することや、将来の追加ライセンスに応じてもらえるような合意内容としておくことも必要となります。
典型的には、①委託料の支払いにより合理的な範囲でユーザへ著作権を移転させるとともに、②ベンダがもつ人格権の不行使を規定することがよくあります。また、当該システムにおいて著作権が移転しない部分についても、ユーザでの使用に不都合が生じない内容としておく必要があります。また、業務用システムは個々の法人の枠を超え、グループ会社間で共通的に使用することを希望されるケースが多いですが、こうした際は、許諾範囲を別紙や個別契約で限定することを前提に、これを許諾する内容とすることが多いです。
ベンダーの立場から見た著作権の取決めに関する検討ポイント
ベンダー視点は、上記ユーザー視点の裏返しになるのですが、受託した「システムそのもの」と「その著作権」とは別の財産権であるという意識をもち、著作権をシステムのおまけ的に譲渡してしまわないように交渉することが大切となります。
また、当該システムが第三者の著作物の利用を前提とする場合(例えば、オープンソースソフトウェアや、いわゆる「フリー素材」を使っている場合など)に、不用意に当該第三者の著作権まで譲渡してしまう契約を締結することは避けなければなりません。一方で、当該システムの特殊な仕様に応じて実装した汎用性の低いソースコードや、他に流用が効かないブランドロゴなどに関する著作権は、積極的に対価を主張したうえで譲渡する(商品として買ってもらう)ことで売上アップにつなげることも検討できます。
まとめ
ユーザーの立場、ベンダーの立場のいずれにしても、「なんとなく権利を確保しておく」のはコストの観点で無駄が生じたり、将来思いがけない不利益が生じる可能性があります。そのため、当該開発対象の個別具体的な活用方法を前提として、具体的な契約内容に落とし込むことが好ましいと言えます。