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権利侵害の警告状を受けたら最初に確認すること(特許編)

前提

ここでは、一般的な特許権者からの警告(ライセンスの提案を含む)を受けた場合を想定して、弁護士等に相談する前段階でご自身で確認しておく方が以後の対応がスムーズ(時間とお金の節約)になると思われることについて、ご説明したいと思います。

いわゆる標準必須特許(SEP)の権利者や、権利者から委託を受けたパテントプール等から受けた警告については、国内外の裁判所で多少の差異はあっても、対応のお作法が決まっていますので、ここでは「大至急、知財に詳しい弁護士に相談してください」とだけ述べさせていただきます。英語の怪しいレターが来たと、何ヶ月も放置するようなことは避けるべきです。

交渉戦術的に別対応を採用する場合もあり得ますが、ここでは、主に知的財産部がある大企業からの警告ではなく、比較的小規模な会社からの警告を想定しています。

形式面での確認

特許番号の確認

そもそもですが、警告状には対象となる「特許権」の番号(特許番号)が特定されているでしょうか?

もし、特許番号が書いてなければ(初回でどこまで情報を要求すべきかは難しい問題もありますが),特許番号を連絡するよう伝えましょう。特許番号がわからないと,弁護士等の専門家に相談しても、効果的な対応がとれない可能性があります。

ところで,特許権は国ごとに独立に成立しますので、日本での特許権侵害をいうためには、日本で有効に登録されている特許権が必要です。また,中国での特許権侵害をいうためには,日本とは別に,中国で有効に登録されている特許権が必要です。しかし,海外を含めると説明が複雑になりますので,ここでは日本における特許権侵害に関する警告状がきたことを前提にご説明します。

日本に特許出願をして特許が成立した場合、3つの番号が特許庁により付けられます。①特許出願番号(通称「ガンバン」)、②公開番号、③特許番号の3つなのですが、確認すべきは③の特許番号です。

特許庁が提供する検索サービスJ-PlatPatの番号照会で特許番号を入力すると、どんな権利なのかを無料で確認することができます。ただ、特許の書面(明細書や請求項)は独特ですので、専門家に相談する前は、書いてある内容がよく分からなくても気にする必要はありません。

権利が存続しているか

特許権は、原則として出願から20年で消滅します。この辺はインターネットで検索するとすぐ出てくると思いますが、では全ての特許権が出願から20年間存続しているかと言うと、全くそんなことはありません。

特許権を維持するのは有料なので、特許権者は設定登録後も「年金」を特許庁に収める必要があります。そして年金の納付を忘れたり、意図的に中止すると、特許権は消滅します。実際、かなりの数の特許権が年金未納により消滅しています。

さきほど触れたJ-PlatPatで特許番号を検索すると、画面の上の方に「経過情報」というリンクがあります。経過情報というのは、その特許出願がなされてから消滅するまでのイベント情報の履歴です。ここを見れば、まだ権利が存続しているのか否かがわかります。

つまり,もし年金未納や20年の経過により権利が消滅していることが確認できれば、安心して警告者にその点を指摘できます。

また、例えばあと半年で存続期間が満了することがわかれば、貴社の製品が本当にその特許権を侵害していたとしても、おそらく差止めを受ける可能性は低いと考えられますので、この点を踏まえて対応することができます。

自社の事情や、警告を受けた場合の初動対応がよく分からなければ、早めに知的財産権の取り扱いに詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

実質面での確認

その製品をどの期間、製造販売等しているか

特許権者が、自己の特許権を侵害する相手に請求できるのは、主に①侵害品の製造販売等の差止めと、②損害賠償請求です。①は将来の侵害行為からの救済、②は過去の侵害行為からの救済に対応します。

つまり、例えば,警告状に侵害品として書かれている自社製品が3年前に製造販売を中止しているなら、仮に本当に侵害していたとしても、①の差止めリスクはゼロなので怖くないですし、②の損害賠償の金額だけが問題になります。

そして、損害賠償の金額の目処をつけるためには、当該製品の過去の製造販売の実績データが有用です。弁護士等に相談する前に、こうしたデータを集めておくと、時間や費用の節約になるかと思います。

クレームチャートの検討

もし、さらに余力があるなら、ご自身でクレームチャート(対象特許の各請求項を分節したものと、被疑侵害品である自社製品の仕様とを対比した比較表)を作成してみると、それ以後の弁護士等とのやりとりが非常に円滑になると思います。

本来は、警告をする方がクレームチャートを作って送って欲しいところですが、初回の警告状の段階で添付されていない場合に自分でクレームチャートを作ってみると、明らかな言いがかりなのか、グレーならどの辺がグレーなのか、といった今後の争点を意識しやすくなると思います。

なお、仮に警告状にクレームチャートが添付されていない場合に、積極的にクレームチャートを送るように催促すべきか否かは状況によりますので、専門家に相談した方が良いと思います。これに限らず、相手方に詳細な返信をするのは、まずは一度専門家に相談してからにすることをお勧めします。

おわりに

この文章の目的は、突如、特許権侵害だと警告状が届いて慌ててしまっている方のために、まずは、弁護士等に相談する前に確認しておく方がよい(=時間とお金の節約になる)と思われる一般的な事項をいくつかお伝えすることでした。

ただ、こうした事項を確認する方法がよく分からないと言う場合は、これに拘らず、お早めに知財の経験がある弁護士等に相談されることをお勧めします。冒頭に述べましたSEPの問題もありますし、警告をした方/された方のそれぞれの事情によっても必要な対応は変わるためです。

なお、裁判所の統計によれば、実際に特許訴訟になって特許の有効性が審理された場合、およそ半分の特許が無効になっています。これを多いと感じるか少ないと感じるかは人それぞれですが、少なくとも警告を受けた段階で過剰に恐れる必要はない、と言うことは言えると思います。落ち着いて行動していただきたいと思います。

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