法人会社の破産について弁護士が手順や判断基準を解説します
昨今の社会情勢の変化や景気悪化などの影響で事業経営が苦しくなってしまったら「破産」の2文字が頭をよぎるかもしれません。
ただし赤字や債務超過となっていても、必ずしも破産が必要とは限りません。
今回は業績が悪化したとき事業者が破産しなければならないケースと破産しなくて良いケースの判断基準、破産手続きの流れなどを弁護士が解説します。
1.個人の破産と法人の破産は手続きが異なる
事業者の破産は、個人の破産よりも手続きが複雑です。特に会社経営をしている場合、「会社の破産」と「経営者個人の破産」の手続きが別々になるので注意が必要です。
会社が破産しても経営者の借金はなくなりませんし、経営者が破産しても会社の負債は無くなりません。会社経営者が会社と個人両方の負債を消滅させるには、会社と個人それぞれについて破産手続きが必要となります。
もしも負債があるのは会社のみで経営者が個人的に借金をしていないなら、経営者は破産する必要がありません。ただし経営者が会社の負債を保証している場合には、やはり経営者個人も破産しなければなりません。
一方法人化していない個人事業主の場合には法人の破産を検討する必要はなく、ご本人である個人が破産するかどうかのみを決めれば足ります。
以上を前提に「事業者や会社が破産しなければならないかどうか」の判断基準をみていきましょう。
2.破産が必要か不要かの判断基準
経営状況が苦しくなっても、事業内容や資産の整理、縮小、事業譲渡、経営上の工夫、リストラやリスケジュールなどによって会社や事業を維持できるケースが多々あります。
また私的整理や民事再生により、会社を残す方法も検討可能です。
どうしても破産が必要なのは以下のような場合です。
2-1.採算状況が悪化しており事業に将来性がなく支払いが困難
法人の場合、業績が悪化して収益を得られなくなっており、その状況が今後も続く見込みが高いなら破産が必要です。事業に将来性がないなら、経営を継続しても増収が見込めず債務の支払が困難となるからです。
一方、債務超過であっても事業に将来性があり黒字転換できて支払が可能となる見込みがあるなら、破産を避けて民事再生などの手段を検討できます。
2-2.著しい債務超過で今後の継続した支払いが困難
企業の場合、資産に比べて負債が大幅に多額となっており著しい債務超過であれば一般的に破産を検討すべき状況です。もちろん事業に将来性があって一気に増収となれば負債を自力で完済することもできますが、そういった具体的な予定がないならいったん破産してすべてを清算するのが現実的な判断といえるでしょう。
2-3.経営者個人が法人の個人保証をしている
会社が破産するとしても経営者本人に負債がなければ経営者は破産する必要がありません。
経営者個人が破産しなければならないのは、会社の負債を個人保証しているケースです。金融機関や公庫からの借入の際、連帯保証人になっているなら、通常は会社とともに破産する必要があります。
2-4.経営者個人が会社のために個人的な借入をしている
経営者が会社の負債を保証していなくても、事業資金のためにカードローンや消費者金融などで個人的に借入をしているケースがあります。個人の借金をしてしまった場合、自力で返済できないなら破産するしかありません。
2-5.個人事業者の場合、収益が悪化しており生活費も出ない状況が続く見込み
個人事業者の場合には、株式会社よりも判断基準がシンプルです。基本的には事業の3か月単位や1年単位の収支状況をみて、収入から支出や負債の返済を引くと「生活費も出ない状況」になっていたら破産を検討した方が良いでしょう。ただし将来事業の業績が好転して各種の支払を継続していける見込みがあるなら破産する必要はありません。
また生活費が高すぎる場合や浪費している場合には、支出を抑えることによって破産を避けられる可能性もあります。
さらに現状のままでは支払が困難だとしても、負債の金額が小さい場合、ある程度の支払能力がある場合には任意整理や個人再生によって破産を避けられます。
2-6.破産を避けるために重要なこと
事業者が負債を支払えなくなると、各債権者が取り立てを行います。訴訟をされたり抵当権を実行されたり、ときには直接在庫商品を回収に来たりもするでしょう。このような状況が続くと重要な資産が失われて破産を避けがたくなってしまいます。
弁護士に私的整理や民事再生を含む「債務整理」手続きを依頼すると、債権者からの取り立てが止まって当面の支払いが不要となります。つまり資産のあるうちに早めに弁護士に債務整理を依頼すれば、破産を避けやすくなるのです。
今債権者からの取り立てに遭って追い詰められている状況でも復活できる可能性があるので諦める必要はありません。破産を防いで会社を残すため、早めに弁護士に対応を相談してください。
3.法人会社または個人事業者の破産が必要なケースの具体例
法人や事業者で破産が必要なケースは以下のような場合です。
3-1.具体例1~会社が破産すべきケース~
A社は近年業績が著しく悪化しており赤字続きです。業界全体が斜陽となっており世間一般における需要が低下しているため、今後も回復できる見込みがありません。すでに債務超過となっており、これ以上の融資は難しくなっています。金融機関への返済のみならず取引先への支払いも困難となりつつあり、めぼしい資産は抵当にとられて従業員への給料も払えなくなりそうな状態です。
この場合、A社は破産する必要があるでしょう。
3-2.具体例2~代表者が個人破産すべきケース~
B社は業績悪化により破産することが決まりました。B社の社長は会社が公庫から借入をするときに連帯保証しており、B社の破産と共に5,000万円の負債を背負わねばならない立場です。また資金繰りのため、個人的なカードローンの借入も800万円ほどになっています。
この場合、B社の社長は個人破産する必要があるでしょう。
3-3.具体例3~個人事業者が破産すべきケース~
Cさんは個人で飲食店を経営していますが、収支状況が悪化しています。最近ではほとんど収益が上がっておらず、個人的に1,000万円近い借金をしてしまいました。すでに住宅ローンも払えなくなっており生活費も出ない状況が続いています。そもそも店舗の立地が悪く他店との差別化も難しい状況で、今後客足が回復する見込みも立っていません。
この場合、Cさんは破産する必要があるでしょう。
4.法人破産が不要なケースの具体例
以下のような場合、破産する必要はないと考えられます。
4-1.具体例1~法人が破産する必要のないケース~
D社は近年の社会情勢の悪化の影響を受けて収益性が低下し、負債の支払いが困難になっています。ただ事業内容自体が悪いわけではないので、経営上の工夫をして負債を減額してもらえれば支払いを継続できる可能性もあります。また事業に将来性があるので事業を買い取ってくれる企業も見つかりそうです。
このような場合、D社は「私的整理」や「民事再生」「M&A(事業譲渡)」などによって会社を残せる可能性があります。いきなり破産する必要はありません。
4-2.具体例2~法人代表者が破産する必要のないケース~
E社は債務超過となって破産することになりました。E社社長は会社の負債を個人保証していませんし、会社の事業資金を工面するための個人的な借入もしていません。
このような場合、会社は破産するとしても社長本人は破産する必要がありません。
またE社の社長に借入や保証債務があっても、負債を減額すれば支払える状況であれば任意整理や個人再生によって解決できます。
4-3.具体例3~個人事業者が破産する必要のないケース~
Fさんは飲食店経営で負債があり支払いが苦しくなっていますが、店の立地や提供している料理自体に問題があるわけではないので、今の苦しい時期を脱すれば業績が回復する可能性があります。また負債を減額できれば自力での返済も可能です。
このような場合、Cさんは個人再生や任意整理で解決できる可能性が高いので、破産する必要はありません。個人再生や任意整理であれば事業用財産も個人財産もなくなりません。
事業を継続できますし、住宅ローン付きの家や車なども守れます。
4-4.個人事業者の場合、破産しても事業を続けられる可能性がある
法人の場合、破産すると法人自体が消滅するので事業の継続は不可能です。
一方、個人事業者の場合には、破産しても事業を継続できる可能性があります。破産しても事業経営を禁止されるわけではありませんし、パソコン、大工仕事、農業や漁業などに必要な最低限の仕事道具は手元に残せるからです。
大工業、左官業、IT関係の仕事など「必要な仕事道具が少なく自分の身1つでできる仕事」は破産しても事業を継続しやすいといえるでしょう。
一方「飲食店」など、店舗を借りて大々的に行っている事業の場合、いったん破産すると事業用財産などが清算されてしまうので、継続は困難となります。新たに資金を調達して事業を改めて開始する必要があるでしょう。
5.破産手続きの流れ
会社や事業者が破産する場合には、以下のような流れで手続きが進みます。法人が破産する場合と個人が破産する場合に分けてみていきましょう。
5-1.法人と代表者が破産する場合
会社が破産し、同時に代表者も破産する場合の流れは以下の通りです。
- 弁護士に相談する
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破産するときには、まずは弁護士に相談しましょう。経営者が自分一人で破産が適切かどうか判断するのは困難だからです。また破産するにしても、弁護士によるサポートが必要です。
ご相談時には、会社の決算書類や確定申告書類、帳簿や債権者、従業員に関する資料などをお持ちください。 - 会社と代表者それぞれの債務整理方法を決める
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弁護士に相談をしたら、会社と代表者それぞれについてどのような方法で債務整理をするか決定します。
会社が破産するとしても代表者は破産しなくて良いケースもありますし、その逆もあります。収益性や将来性、負債の状況や資産状況などを全体的に考慮して、弁護士が最適な方法をご提案します。 - 受任通知の発送、準備
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破産することに決めたら、弁護士が各債権者へ「受任通知」を発送します。これにより会社や経営者ご本人への債権者からの取り立てが止まり、返済が不要な状態となります。
その間に破産申立の準備を行います。破産には法人、個人ともにたくさんの資料が必要となり、すべて揃わないと裁判所に手続きを開始してもらえません。必要書類の内容については弁護士が1つ1つ指示しますので、なるべくスピーディに集めましょう。 - 破産申立をする
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準備ができたら裁判所へ破産の申立をします。申立の手続きは弁護士が行うので、ご本人には特に何もしていただく必要はありません。
- 破産手続き開始決定と破産管財人の選任
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申立内容に特に不備がなければ、裁判所で「破産手続き開始決定」がおります。これにより正式に破産手続きが始まります。また裁判所が「破産管財人」を選任します。破産管財人とは、破産者の財産を預かり現金化して債権者へ配当する人で、破産手続きにおいて非常に重要な役割を果たします。
- 破産管財人と面談
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破産管財人と面談をします。申立代理人の弁護士が日程を調整するので、決まった日時に申立代理人と一緒に管財人の事務所へ行きましょう。
- 債権者集会
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破産手続き中は、何度か裁判所で債権者集会が開かれます。債権者集会には経営者本人も出席しなければなりません。とはいえ実際に債権者が出席して積極的に発言するケースは少数です。申立代理人も一緒に出席するので、不安があるなら事前に相談してください。
- 配当と終結
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破産管財人がすべての資産を現金化したら、債権者へ平等に配当を行います。
配当が終わったら破産手続きが終結します。 - 法人消滅、代表者個人の免責決定
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すべての破産手続きが終了したら、法人は消滅します。法人が消滅したら、法人の負債はすべてなくなります。
破産手続き終了後、裁判所は引き続いて代表者本人の「免責」判断を行います。免責が下りたら個人の負債もなくなります。ただし個人の場合「税金」や「健康保険料」「養育費」「罰金」などの支払い義務は残ります(法人の場合には滞納税などの負債も残りません)。
5-2.個人事業者の破産の場合
個人事業者が破産する場合には、同時廃止と管財事件の2種類があります。同時廃止となるのはほとんど財産がなく特段の免責不許可事由のない方が破産するケース、管財事件となるのは一定以上の財産がある方や浪費・ギャンブルなどの問題行為がある方が破産するケースなどです。
管財事件の流れは、基本的に上記で紹介した法人の破産手続きと同じです。
個人事業者でも事業用資産や未回収の売掛金もなくその他にも財産がない場合などには「同時廃止」で破産できる可能性があります。以下で同時廃止となった場合の手続きの流れをご紹介します。
同時廃止の手続きの流れ
- 弁護士に相談する
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個人事業者が破産する場合にも、まずは弁護士に相談する必要があります。早期に相談すれば個人再生などで財産を守りやすくなるので、困ったときには早めに動きましょう。
- 受任通知の発送、準備
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破産することに決まったら、弁護士が債権者へと受任通知を発送します。これにより、各債権者からの取り立てが止まるので、カード会社や消費者金融、銀行などから電話や郵便が来なくなります。
こうして支払が不要となっている間に準備を進めます。弁護士が必要書類などの指示を行うので、できるだけ早めに集めましょう。 - 破産申立をする
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準備ができたら破産申立を行います。手続きは弁護士が行うので、ご本人には何もしていだく必要はありません。
- 破産手続き開始決定、廃止
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申立に不備がなければ裁判所で「破産手続き開始決定」がおります。同時廃止の場合には手続きが開始すると同時に手続きが終了(廃止)します。同時廃止の場合、財産は失われないので仕事道具や現金、保険などを手元に残せます(ただし残せるのは少額の財産のみです)。
- 免責審尋
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破産手続きが終わったら、裁判所で「免責審尋」が行われます。免責審尋とは「破産者を免責させて良いかどうか」を裁判所が判断するための手続きで、裁判官から破産者へといろいろな質問をされます。
今までどういった経緯で負債がかさんできたのか、事業の業績がどういった推移をたどってきたのか、今後どのように生活していくのかなどを聞かれます。申立代理人弁護士も一緒に出席するので、不安があれば事前に相談してアドバイスを受けましょう。 - 免責決定
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問題がなければ裁判所が「免責決定」をします。これにより、正式に負債の支払い義務がなくなります。
6.法人会社の破産を考えている事業者、経営者の方へ
債務超過、赤字になっていても事業を継続できる可能性があるので、辛い状況であってもあきらめる必要はありません。ただし苦しくなってから時間が経てば経つほど状況が悪化し、破産しか選択肢がなくなってしまうケースが多々あります。
また事業者の破産は会社員などの個人破産よりも複雑ですし、そもそも破産すべきかどうかの判断も難しくなります。有望な事業を継続するためにも、なるべく破産による不利益やリスクを小さくするためにも、早めに専門家に相談することが重要です。
当事務所では破産や再生を始めとして神戸だけではなく関西圏で中小企業や個人事業主への援助に積極的に取り組んでいます。お困りの事業者様、経営者様がおられましたら、お気軽に一度、ご相談下さい。