あるSNSのやり取りを見て
ボードゲーム界隈では、有名ゲームと基本的なゲームシステムを共通にしつつ別なテーマを題材にした(と思われる)ゲームが作られることがままあるように思います。特にカードゲームであれば厚紙に印刷するだけで自分でもオリジナルゲームが作れますし、少数ロットでパッケージングを含めて請け負ってくれる業者もあります。
先日、あるSNSで、某ボードゲームと似たゲームの開発元に対して、「(オリジナルの)許可は得たのか」的なコメントがされているのを見ました。これに限らず、SNSで知的財産権への意識が高まってきたことは大変素晴らしいと思う反面、法的には問題がない(つまり、誰も権利を主張できない)行為にまで、自己や第三者の権利を主張する声もしばしば見受けられて、残念に思うことがあります。
そこで、ボードゲームを題材にして、知的財産権は何を保護し、(敢えて)何を保護していないのかを、確認してみたいと思います。
ボードゲームが知的財産権で保護される範囲
ここでは、テラフォーミングマーズ(以下、「テラフォ」といいます)というボードゲームを題材にして、ボドゲ及びその派生物がどういった権利で保護されるのかを具体的に考えてみます。
(なお、テラフォのゲームデザインはFryxGames社によるものですが、特許のような公示制度がなく、一方で財産権の一種として契約で自由に譲渡可能な著作権では、テラフォの著作権者が誰か外からは正確なところは分かりません。これも著作権の特徴と言えます)。
テラフォは2017年のドイツゲーム大賞をとった人気のボードゲームで、日本語版は株式会社アークライトから発売されています。いわゆる「(中〜)重ゲー」に分類され、カードプレイや火星をモチーフにした盤面へのオブジェクト配置で得点を競うことになります。
このテラフォは大ヒットしており、基本セットのほか、
- 多数の拡張セット(カードや盤面その他の種類を増やすもの)
- カードゲーム版
- ダイスゲーム版
- アプリゲーム版
- STEAM版
- BGA版
- 2層式のプレイヤーボードや、盤面におくタイルを立体化した3Dタイルなどのサプライ類
など、多数の派生商品が公式に発売されています。
これらのうち、まず基本セットのパッケージデザインや、カードの裏面表面のイラスト、文字、ゲーム版のデザインなどに著作権が成立することはわかりやすいと思います。したがって、テラフォのカードやゲーム盤をコピーしたり(「複製」)、それをSNSに投稿したり(「公衆送信」)、イラストの一部を改変したり(「複製」)する行為は、原則としては、基本セットの著作権者の承諾なく行なってはいけないことになります。
一方で、ゲームのルールや、ゲームプレイヤーが企業として火星開拓を競うというコンセプトなどは、具体的な「表現」ではないため、著作権では保護されません。また、ゲームのルールのような取り決めは、自然法則を利用していないという理由で、特許権でも保護されません。では、ゲームのルールやコンセプトが全く法的に保護されないかと言えば、事案にもよりますが、不正競争防止法によって(あるいはそれ以外の不法行為として)保護される余地はあります。しかし、特許や著作権のような独占権が発生する訳ではないので、その保護は限定的となる傾向にあります。
さらに、「テラフォーミングマーズ」という商品名は商標登録することで、商標権により保護することが考えられます(ただし、現時点では日本において「テラフォーミングマーズ」の商標登録は確認できませんでした。かといって無関係な第三者がテラフォの商標登録をすることの問題点は別途あります)。
以上を整理すると、テラフォ基本セットについては、主に絵や文字といったゲーム上の具体的表現について著作権による保護が及ぶと考えられます。
ボードゲームの派生製品を第三者が作ることの可否
では次に、全く無関係な第三者がテラフォの新しい拡張(非公認版)を作ってネットで販売する場合を考えてみます。
拡張セットである以上、基本セットとルールやコンセプトは共通するはずですが、少なくとも著作権でこれらが直ちに保護されないのは前述のとおりです。一方で、例えば(ヘラス&エリシウムのような)新しいゲーム盤を作った場合であれば、具体的事案にはよりますが、おそらく基本セットのゲーム盤の「翻案」となる結果、基本セットのゲーム盤についての著作権(翻案権)侵害に該当する可能性があります。
また、2層式のプレイヤーボードについては、基本セットに含まれるプレイヤーボードを立体的に「翻案」した場合に該当し、基本セットの著作権者に無断で作成・販売することは著作権法上の問題が生じる可能性が高いと思われます。
これらのゲーム盤やプレイヤーボードに比べると判断が微妙になるのはカード類ではないでしょうか。テラフォのカードは色やアイコン、レイアウトによって統一的なデザインがされています。しかし、カードに書かれたイラストそのものではなく、(色分けを含む)カードのレイアウト自体については、著作物性が認められない可能性もあります。アイコン(タグ)についても同様です。(これらに著作物性が認められない可能性があることについては、一旦著作権が成立すると独占権という強い効果が生じることから逆算して、特定の人にそれを独占させても社会が混乱しないか?という視点で考えるとわかりやすいと思います。)したがって、イラストや文字部分が第三者のオリジナルであれば、カード類について著作権侵害が生じないケースも否定できないように思います。
もっとも、テラフォのような有名ゲームの公式カードと見間違うようなカードを販売することには、前述の不正競争防止法その他の不法行為に該当する余地が生じます。
以上のように、一口に拡張版の作成・販売といっても、その具体的な態様によって、保護の可能性や適用される法律が全く異なることになります。
冒頭のSNSでのコメントの件とまとめ
以上の説明を前提に、冒頭でのSNSにおいてコメントがついていたボードゲームについて振り返ってみると、確かにゲームのコンセプトは共通しているようでしたが、内容物のイラスト、タイトル、パッケージ等は全く別物に見えました。したがって、少なくとも著作権では保護されない範囲で「インスパイア」されたゲームであった可能性が高いように思います。
個人的には、(最近人口が増えてきたとは言え)色々な面で牧歌的なところが残るのがボードゲーム界隈だと感じています。今後も面白いボードゲームが増えてコミュニティが盛り上がっていくことを期待しつつ、ゲームデザイナーや制作元には正当に利益が還元され、より「儲かる」業界となっていくことを期待する次第です。