前回は、ECサイトの規約における簡単なチェックリストを紹介しました。今回からは、チェックリストで挙げた条項の解説をしたいと思います。法務担当者向けに、若干細かい点にも入り込んでいます。必要に応じて読んでいただく程度で結構です。
売買契約の成立時期に関する定め
条項例
たとえば、Amazon.co.jp利用規約では、次のような定めとしています。
説明
商品発送をもって売買契約の成立としているものとなります。以下の理由から、契約成立時期を遅くすることが、リスク低減に繋がります。
このような定めがない場合、ECサイトの商品の購入に関する契約は、お客様が注文を行い、この注文に対して承諾する(注文を受け付ける)旨のメールがお客様に届いた時点で、契約が成立します。通常、注文の受付メールは、システム上、自動的に送信されるものと思われます。したがって、契約が成立してしまえば、キャンセルは原則できず、商品をお客様に届けなければならなくなってしまいます。
これでは不都合です。たとえば、大量に注文があり転売目的であることがうかがわれるような場合、いったん契約が成立しているときは、たとえ転売目的の購入がNGであると規約に定めていても、転売目的であることが確実でなければ、注文をキャンセルすることにはリスクがあります。また、いったん契約が成立してしまえば、商品在庫がないことが判明した場合であっても、商品を調達してお客様に届けなければならないという事態が生じる可能性も否定し得ません。
条項例のように契約成立時期が遅ければ、商品発送をしなければ契約が成立しないため、商品発送までは注文をキャンセルすることができます。この場合、上記の問題点を回避することができます。
返品・交換に関する定め
条項例
たとえば、無印良品メンバー規約では、次のような定めとしています。
この条項例のように、返品・交換は、詳細のページを用意し、それにしたがう旨を定めることが多いです。
説明
お客様が購入した商品の返品・交換に関する紛争は、頻発するものです。適切にルールを定め、分かりやすく示した上で、お客様をこのルールに拘束させる必要があります。
事業者起因による返品・交換
破損・汚損等、数量違い等がある場合、中古品の売買などでない限り、返品・交換自体に応じる旨を定めているのが通常に思われます。そして、返品・交換に応じる期間は、ごく短い期間(7日~14日程度)とすることが多いものと思われます。他社にあわせて、同様に7~14日程度で定めておくという判断はあり得るとは考えます。
もっとも、そのような定めが有効でない可能性は認識していただいてもよいかとは思います。ビックカメラが初期不良等の交換等対応の期間を30日以内としていたところ、消費者団体から申入れがあったという事案があります。訴訟になったといったものではありませんが、結果、ビックカメラは、速やかに連絡があれば対応するという方向に修正しました。
上記の申入れの背景は、民法上、破損・汚損等、数量違い等がある場合(契約不適合がある場合)、契約不適合を知った日から1年以内であれば返品・交換等の請求ができるというものがあります。30日以内は1年という期間に比して短すぎるということです。
お客様都合による返品・交換
特定商取引法上、通信販売においては、クーリング・オフ類似の制度(商品引渡しから8日が経過するまでは返品が可能)があり、この制度の適用を回避するには見やすく、明瞭に示す必要があることは、既に説明しました【特商法回のURL】。
禁止事項に関する定め
条項例
各社がこれまでの不正行為などを踏まえて禁止事項を拡充するため、事業者ごとに内容が相応に異なっています。たとえば、ユニクロオンラインストアの利用規約では、次のような定めとしています。
説明
禁止事項を定めた上で、解除条項や損害賠償条項を設けておけば、お客様が禁止事項に該当する行為をした場合、規約違反となるため、解除や損害賠償ができるようになります。禁止事項を定めるにあたっては、他社を参考にしつつ、サービスの仕様上受け入れられない注文が何か、不正行為としたどのようなものが想定されるかという点を考慮することになります。生成AIでいちから規約のドラフトをすることは推奨しませんが、生成AIを活用して禁止事項をを考えることも有用に思われます。
なお、一般的にあった方がよいと考えている禁止事項は以下のとおりです。忘れがちですが、「事業者が不適切と判断する行為」は不明確であるものの、技術の進歩等により新たな不正行為はどんどん生まれてきますので、入れておくべきです。
- 日本国外からの注文
- 商品の大量注文
- 転売目的での商品購入
- なりすましなど虚偽情報の申告
- クレジットカードの不正利用
- 事業者が不適切と判断する行為
(次回に続く)