問題社員対応

問題社員対応

社内に問題社員を抱えていると、経営者としては頭を痛めるものです。

  • 遅刻や早退、無断欠勤を繰り返す
  • まじめにはたらかない
  • 注意しても聞く耳を持たない
  • 協調性がない、上司に反抗的な態度をとる

ただ労働者は法律によって強く保護されるので、問題行動があるからといって簡単には解雇できません。

今回は問題社員を円満に退社させる方法について、弁護士が解説します。

1.解雇は簡単に認められない

1-1.労働関係法令による解雇規制

会社が従業員をいったん雇い入れると、解雇は非常に難しくなります。労働契約法上、以下の2つの要件を満たさねば解雇が認められないためです(労働契約法16条)。

  • 客観的に合理的な理由がある
  • 社会的に相当な方法で解雇が行われている

労働者の地位を安定させるため、この2つの要件は非常に厳しく判定されます。

また以下のような場合、そもそも解雇が認められません。

  • 労働者の国籍や信条、性別や社会的な身分による解雇
  • 産前産後休業中や業務上災害による休業中の解雇
  • 労働者が労働基準監督署へ申告したことを理由とする解雇
  • 労働組合員であることや組合活動をしたことを理由にする解雇
  • 結婚や妊娠、出産、産前産後休業を取得したことを理由とする解雇
  • 育児休業や介護休業の申出や適用を理由にする解雇

解雇できるケースでも、30日前に解雇予告が必要です。30日に不足する場合、不足日数分の解雇予告手当を払わねばなりません。

なお解雇予告や解雇予告手当の措置を行ったとしても、解雇理由が認められなければ解雇は無効となるので注意してください。

1-2.従業員を解雇するなら法律上の要件を検討すべき

解雇したい従業員がいる場合、法律上の解雇要件を満たすかしっかり検討しなければなりません。「問題社員がいる」「他の社員より生産性が低い、能力が低い」というだけの理由では、解雇できない可能性が高いといえます。

2.パターン別、解雇できるケースとできないケース

具体的にどういったケースで解雇が有効となり、どういったケースでは解雇が認められないのかみていきましょう。

2-1.無断欠勤、遅刻早退を繰り返す

使用者の指示に従うのは労働者の基本的な義務なので、無断欠勤や遅刻早退は契約違反です。ただ、これらの問題行為があるからといって当然に解雇できるものではありません。

おおむね2週間以上連続して無断欠勤が続き、連絡がとれなければ解雇が認められる可能性が高くなります。裁判例では6か月の間に合計32日間無断欠勤した従業員の解雇が認められた事例があります(横浜地裁昭和56年6月26日)。

また無断欠勤によって会社に与える影響が大きい場合にも解雇が認められやすくなります。たとえばタクシー会社で無断欠勤が多かったために配車に重大な悪影響が及び、解雇が認められた事例があります(東京地裁昭和59年1月26日)。

一方、数回無断欠勤をしたというだけでは解雇できません。また使用者が暴行を振るったために従業員が出勤を拒んだなど、使用者側に問題があった場合に解雇が認められなかった事例もあります(福岡高裁昭和50年5月12日)。

2-2.服装に問題がある

制服を着用しない、茶髪や口ひげ、派手な服装など従業員の扮装に問題がある場合に解雇できるのでしょうか?

服装や髪型については、業種によって求められる内容が大きく異なります。工場の作業員なのか事務員なのか営業マンなのか。アパレルの店員なのか金融機関の職員なのか教師なのか。

お客さんと会う機会がなく黙々と作業をこなすだけの仕事なら、服装の規律は重要ではないはずです。一方「固い」業種でお客様との折衝のある仕事では服装の規律が必要になるでしょう。

裁判例では、「ハイヤーの運転手」が口ひげを生やしていたケースにおいて、「無精ひげ」や「異様、奇異なひげ」はそるべきと判断されています(東京地裁昭和55年12月15日)。

一方で中学校、高校の教師がネクタイを着用する義務は無いと判断された事例があります(東京地裁昭和46年8月23日)。

2-3.傷病休職と復職を繰り返す

傷病休職と復職を繰り返すローパフォーマー社員がいると、会社は非常に迷惑します。

ただ傷病休職と復職を繰り返しているだけで解雇はできません。

従業員が「復職可能」の診断書を提出したなら基本的に復職を認める必要があり、拒絶するなら合理的な理由の明示が必要です。何の理由も示さずに一方的に復職を拒絶すると違法と判断された裁判例もあるので注意しましょう(仙台地裁昭和61年10月17日)。

合理的な理由が認められるには、別の医師による診断を受けさせて「復職不可能」と診断してもらうか、復職を認めた医師と面談して詳細な話を伺い、実際には復職が難しい状態であると明らかにしなければなりません。

2-4.協調性がない

協調性がなく、周囲の従業員とのチームワークに障害となる従業員がいると会社の生産性が大きく低下します。

ただ「協調性がない」というだけでは解雇理由になりません。協調性の欠如が非常識で上司の指示に従わなかったり人間関係のこじれが限界に達したり他の社員に嫌がらせをしたりしている場合に限り、解雇できる可能性もあります。解雇が認められた事例として、以下のような裁判例があります。

繁忙期で事務局全員が忙しくしているのに手伝おうとせず、依頼されても断ったり同僚を大声でなじったりした従業員の解雇が有効とされた事例(東京地裁昭和40年4月28日)

ミスが多いだけではなく、同僚を軽蔑したり無視したり、上司の指示に従わなかったりした従業員の解雇を認めた事例(東京地裁昭和57年7月28日)

2-5.上司を誹謗中傷する

上司に対する態度があまりに悪い場合にも解雇できる可能性があります。たとえばメールで上司を直接攻撃した従業員の解雇が有効とされたケースがあります(大阪地裁平成14年11月29日)。

ただ、正当な理由のある「批判」まで禁止することはできません。特に社内で内紛が起こっている場合にはどうしても表現が過激になりがちです。また誹謗中傷されると上司の側は感情的になりがちですが、表現が不当かどうかはあくまで客観的に判断されます。言われた側が不快に感じて解雇しても無効になる可能性があるので注意しましょう。

2-6.借金トラブル

従業員が借金トラブルを抱えていると、会社としては自社の評判が気になるものです。会社へも取り立ての連絡が来る可能性がありますし、同僚や部下など別の社員が動揺する懸念もあるでしょう

ただ借金トラブルを抱えていても仕事をきちんとできているなら解雇理由にはなりません。

給与を差し押さえられても自己破産しても、それだけでは解雇できません。

借金トラブルで解雇できる可能性があるのは、以下のようなケースです。

「借金問題で本人の精神状態が不安定となり仕事が手につかなくなってミスばかりするようになり、同僚からも借金をしてトラブルを起こしている。」

ただ上記のような場合でも、いきなり解雇するのではなくまずは本人から事情を聞いて相談に乗り、改善指導を行ってもどうしても解決できない場合に退職勧奨や解雇を検討する流れになります。いきなりの解雇は認められないので注意してください。

2-7.職歴、学歴詐称

従業員による職歴・学歴詐称のトラブルも頻繁に起こっています。

ただ職歴や学歴を詐称したからといって解雇できるとは限りません。解雇が有効になるのは、詐称された経歴がその従業員を雇用する際の決定的な要因となったケースです。

  • 特殊な技術や資格を持っていることを前提に採用したのに、実は虚偽であった場合
  • 以前勤務していた同業会社で問題を起こして解雇された事実を隠して応募した場合

これらのケースでは解雇が認められる可能性が高いといえます。

2-8.スカウトしたのに能力がない

能力を見込んでヘッドハンティングしたのに思ったほどのパフォーマンスを発揮しない従業員を解雇できるのでしょうか?

まず「期待していたほどの能力が無い」というだけでは解雇の合理的理由が認められません。会社の期待値と実態が合致しないのはよくあることだからです。

ただし能力面だけではなく周囲になじめずにトラブルを起こすなど別要因がある場合には解雇できる可能性があります。裁判例でも、学習塾の教務部長に採用されたものが周囲とトラブルを起こすので解雇が有効とされたものがあります(大阪地裁平成6年9月22日)。

3.解雇の手順

解雇が認められる事案であるとしても、きちんと手順を追って手続きを進めないと無効になってしまいます。以下で解雇の正しい手順をご説明します。

3-1.就業規則に解雇事由を定める

解雇するには「就業規則」に「解雇事由」を定める必要があります。

一般的には「2週間以上無断欠勤したとき」「刑事事件で有罪判決を受け確定したとき」「心身の疾患により勤務できないとき」「能力不足等により、会社の指示通りに業務遂行できないとき」「会社との信頼関係に背き重大な損害を与えたとき」などを解雇事由と定めるケースが多数です。

解雇事由に「その他従業員としての適格性がないとき」という項目を入れておくと、個別の項目に直接該当しなくても解雇できて、柔軟に対応しやすくなるでしょう。

3-2.教育指導を行う

解雇したい従業員がいても、いきなり解雇通知を送ってはなりません。

まずは教育や改善のため指導を行い、問題解決をはかりましょう。従業員にも何らかの事情があるかもしれません。面談を行ったり報告書を提出させたりして、なぜローパフォーマンスとなっているのか、人間関係のトラブルを起こしてしまうのかなど明らかにし、状況に応じた対応を進めてください。

3-3.配置転換や仕事内容の変更を検討する

問題が明らかになっても、いきなり解雇するのはお勧めしません。そうではなく、配置転換や異動、仕事内容の変更、降格や場合によっては減給などの別の方法で対応を試みましょう。

3-4.退職勧奨する

教育指導や配置転換、異動、減給などの別の方法ではどうしても解決できないなら、やむなく退社の方向へ進めます。

その場合もいきなり解雇せず「退職勧奨」を行いましょう。退職勧奨とは、従業員に「自らやめるように勧める」ことです。解雇すると、法律上の解雇要件を満たさない限り解雇が無効になってしまう可能性がありますが、退職勧奨によって自主的に退職させれば基本的に「無効」と主張される心配がありません。

ただし退職を「強要」すると、退職手続自体が無効になってしまう可能性があり、退職勧奨の方法にも配慮が必要です。

3-5.解雇予告をする

退職勧奨をしても拒絶されたら、いよいよ解雇するしかありません。30日前の解雇予告が必要なので、まずは解雇予告通知を送りましょう。

もしも30日を待たずに解雇したいなら、不足日数分の解雇予告手当を計算して支給しましょう。

3-6.解雇通知を送る

解雇予告をしたら、その後に解雇通知を送ります。従業員が争ってこなければ退社させることができます。なお解雇後に「解雇理由証明書」の発行を求められたら解雇理由を明らかにした書面を交付しなければなりません。請求に備えて、解雇理由証明書にどういった内容を記載すべきか事前に検討しておくようお勧めします。解雇理由として不適切な事柄を記入すると、後に労働審判などになったときに不利になってしまうからです。

4.減給できるケースと方法

問題社員がいる場合、解雇までは考えていないけれども「減給処分」にしたいケースもあるでしょう。減給も労働者へ大きな影響を与えるので、合理的な理由がないと認められません。解雇ほど重大な事由は必要ありませんが、相応の事情がないと減給処分も違法となってしまうので注意が必要です。

4-1.減給の上限額について

また会社の規律違反によって減給を行うとしても、労働基準法により「上限額」が定められています。

1回の減給は、1日の給与額の半額が限度とされます(労働基準法91条)。たとえば1日分の給与額が8,000円の労働者の場合、4,000円までしか減給できません。

就業規則に別途の規定があり上記より少ない額が限度となっていれば、その規定が有効となるのでさらに少額の減給しかできません。

また1か月に減給できる限度は「月給額の10分の1」です。1か月内に問題行動を繰り返したとしても、10分の1の金額を超える減額はできないので注意しましょう。

4-2.減給計算の具体例

たとえば以下のような事例を考えてみましょう。

1日の給料が8,000円、月給18万円。問題行動が10回あって10回分の減給を行いたい。

この場合、1回の減給額の上限は4,000円(8,000円の半額)で、10回分減給するので計算上は40,000円を減額できそうです。しかし「月給の10分の1」という制限があるので、上限額は18,000円となり、18,000円分の減額までしか認められません。

5.ローパフォーマー対策

社内にローパフォーマーがいる場合には、以下のように対応しましょう。

5-1.適切な目標設定

まずは個々の従業員に適切な目標設定をしましょう。目標値が低すぎると従業員のモチベーションが上がらずに怠業につながります。一方高すぎると達成不可能なので「あきらめ」の感情が強くなりやる気が失われます。

社内全体に「目標を設定する制度」を適用し、成果のでていない従業員については設定された目標が適切になっているかチェックしましょう。

5-2.スキルアップの機会をもうける

定期的に研修や勉強会などを行い、社員のスキルアップをはかりましょう。

5-3.適切な人事評価方法の設定

従業員は「努力が適切に評価されている」と感じるとモチベーションを維持しやすくなるものです。人事評価制度は公正で客観的な方法を定めましょう。あいまいで上司の主観によって評価される制度では、社員のモチベーションが低下する可能性が高くなります。ローパフォーマーが多い場合には人事評価制度を見直してみてください。

5-4.個別の指導や研修などフォローアップを実施

特に問題のある従業員がいたら、状況を聞いて個別指導・研修を行ったり指導・注意したりして、フォローアップしていきましょう。

6.従業員と話し合うときの注意点

最後に、従業員から事情を聞いたり退職勧奨したりする際の面談の注意点をご紹介します。

6-1.高圧的な対応をしない

「身の程をわきまえろ!」「やめないと首だぞ!」などと声高に怒鳴ったり罵ったり暴行を振るったりすると、使用者側が違法と評価されます。パワハラと受け止められるような対応をしてはなりません。

6-2.複数で対応

使用者側は複数で面談に対応するようお勧めします。1人ではどういった流れで話し合いが行われたか証拠が残りにくいためです。

6-3.しつこく退職勧奨しない

退職勧奨をしつこく行うと「強要された」と言われる可能性があります。従業員側が退職を拒んでいるならしつこい呼出や面談強要をしてはなりません。

6-4.退職勧奨を断られたことによる不利益な取扱いはしない

退職勧奨を断られたからといって、減給や降格などの不利益取扱いをしてはなりません。

6-5.記録を残す

面談の経過については、音声録音、画像の録画などの方法で記録を残しましょう。

従業員に改善を約束させる場合には「今後は無断欠勤しません」などの書類(始末書)に署名押印をさせて、「対応改善を約束した証拠」を残しましょう。

7.平穏な退職を実現するために

問題社員がいる場合、できるだけ平穏なかたちで自主退社させるのがベストな方策です。

退職勧奨をするときには、上記の注意点を守りながら以下のようなことも伝えて、従業員が前向きになれる環境を準備してあげましょう。

  • 会社都合退職にする
    会社都合退職であれば失業保険をすぐに受け取れますし金額も上がります。
  • 退職金を支給する、場合によっては上乗せする
    状況により退職金の上乗せを打診すると、従業員は退職を受け入れやすくなります。
  • 書面を提出させる
    従業員が退職を受け入れたら、必ず「退職届」などの書面を提出させましょう。

問題社員対応でお困りの場合、弁護士がサポートいたしますので、是非とも一度ご相談ください。

茅根 豪のプロフィール画像

茅根 豪

Go Chinone

兵庫県弁護士会業務委員会等/甲南大学知的財産法研究会(事務局)/甲南大学法科大学院兼任教授(2020年・企業法務論)

弁護士を志す前は、都心の事業会社で不動産ビジネス等を経験しました(宅建士有資格者)。そのためか不動産関連のご相談を多く受けます。現在は、事務所のメンバーや他業種の方々と一緒に、税務、労務、広告規制、マーケティングなどについての勉強会を開催しています。弁護士業以外の活動としては、大阪のトレーニングジムで運動機能の改善指導を行ったり、東京で定期開催される政治・経済の勉強会等に参加しています。法律のみならず、広く社会の諸分野についても見聞を拡げていきたいと思っています。

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