はじめに
2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)や2026年1月に下請法から改正された取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)により、発注者側に対する規制は一段と厳格化しています。
これらの法律において、発注者が最も気をつけなければならない禁止行為の一つが、フリーランスや下請企業に対する「報酬の減額」や「代金の減額」です。
「双方で合意してハンコをもらったのだから、後から減額しても問題ないだろう」という認識は、非常に危険です。今回は、発注者の目線に立ち、どのような場合であれば例外的に適法に減額ができるのか、その条件と実務上の注意点を解説します。
減額は原則NG
フリーランス法では「報酬の減額」(5条1項3号)が、取適法では「代金の減額」(5条1項3号)が、それぞれ禁止行為として明確に定められています。
発注時に決定した金額を後から発注者の都合で引き下げることは、たとえ受託者(フリーランスや中小受託事業者)の事前の合意があったとしても違法となると実務的には考えておくべきでしょう。
また、実際に報酬・代金を減額しなくとも、実質的にこれに該当するような行為(たとえば、報酬・代金を据え置いたまま、受託者に追加の作業を要請するもの)も問題となります。
「合意」があったとしても減額はできない
発注時における合意
発注時において「合意」があったとしても、次の2.のケースを除いては、減額は基本的に許されません。
- 振込手数料を受託者負担とすることはできない
近時の公正取引委員会の運用の変更により、振込手数料を受託者負担とすることは、「減額」に該当することとなりました。注意が必要です。 - 算定方法の合意に基づいて一定の金額を差し引くことは一定程度許容される
報酬・代金を定めるにあたり、具体的な金額を定めることが困難なやむを得ない事情がある場合には、具体的な金額が導かれる算定方法を定めることは許容されています。ただし、この場合でも、受託者において把握できない事情に応じて報酬・代金の変動が生じ得るならば、フリーランス法や取適法違反となってしまうため、十分な注意が必要です。
なお、似たようなケースとして、ボリュームディスカウントがあることによる減額があります。これは、一定の条件のもと合理的なものであれば許容されています。
発注後における合意
発注後に「合意」があったとしても、それは受託者の自由かつ自主的な判断ではないと判断されるケースが多いため、合意はなかったと判断されます。
そのため、例外的に合理的な理由がある場合は、自由かつ自主的な判断があったと判断されるケースもあり得ます。次のようなケースが考えられますが、この場合においても、自由かつ自主的な判断があったという記録(協議を重ねて受託者も納得したという記録)を作成・保存しておく必要があります。
- 発注時において、発注者において作業量・拘束時間が明らかでない一方で、一定の作業量・拘束時間を踏まえて一定の報酬総額を定めたものの、実際には必要な作業量・拘束時間が少なかったために(そしてそのようなことになる可能性も受託者は十分に予期し得た場合)、報酬を減額すること
- 発注者が倒産の危機にある場合に、中長期的な経営判断として受託者が一時的に報酬の事後減額に応じること
なお、取引現場においては、単価改定(単価の減額)を合意した際に、当該改訂後の単価を既に発注済みの取引においても適用するというケースがあります。これは、発注後における合意による変更ですが、一般に上記のような合理性を欠き、フリーランス法や取適法違反となると考えられていますので、注意が必要です。
帰責事由がある場合は減額ができる
フリーランス法や取適法における報酬・代金の減額の禁止は、受託者の「責めに帰すべき事由がないのに」これらを行うことを禁止するものです。
したがって、受託者において債務不履行がある場合で、民法において減額等の権利が定められているときには、報酬・代金の減額をすることができます。具体的には、次のケースが、民法上の権利があるものです。
- 契約不適合がある場合で、追完を催告したにもかかわらず相当期間内に追完がなされないとき
- 定期行為(特定の日時等に完全な履行がなされなければ目的を達成することができないもの。たとえば、クリスマスケーキの購入)について、履行の追完がなされないまま当該日時等が経過し、又は当該日時等までに履行の追完の見込みがない場合
- 債務不履行による損害賠償請求権が発生している場合
- 契約を解除して代金を支払わないことができる場合
なお、当然ですが、上記の権利行使として認められる減額幅での減額のみが認められるのであって、これを超えるものはできません。
契約上の減額等の権利が定められている場合
受託者において債務不履行がある場合で、契約上において減額等の権利が定められているときにおいても、報酬・代金の減額をすることができる可能性はあります。
しかしながら、当該減額等の権利が民法の定めるよりも発注者に有利で、受託者側に不利益な場合、当該合意に基づく減額は、上記の「発注時における合意」での議論と同様に、原則として認められないために注意が必要です。
実際にやってしまいがちな違反行為
最後に、取引慣行上、ついやってしまいがちだが違反となるケースを挙げておきます。
- 振込手数料の差し引き:
事前に合意していたとしても、振込手数料を差し引いて報酬・代金を支払う行為は、「減額」として扱われ、違法となります。 - 「予算が削られたから」という理由での減額:
発注者や元請け・クライアントの都合による予算縮小による減額は、受託者の帰責事由には当たらず、違法な「減額」となります。 - 端数切り捨て:
「キリが良い数字にするため」と、100円未満の端数を切り捨てるといった慣行があるものと認識しています。たとえ100円程度であっても、違法な「減額」に該当します。