権利侵害の警告状を受けたら最初に確認すること(著作権編)
はじめに
ここでは、著作権者を名乗る第三者から、著作権侵害の警告(ライセンスの提案を含む)を受けた場合を想定し、弁護士等に相談する前段階で、ご自身で確認しておく方が以後の対応がスムーズ(時間とお金の節約)になると思われる形式面について、ご説明したいと思います。
もちろん、事案によって別対応を採用する場合もあり得ます。一つの考え方としてご理解ください。
誰の、どんな行為が侵害だと言われているのか?
本の代金は、著作権の対価?
著作物であれば何をしても著作権侵害になる、というものではありません。例えば、著作物である小説を「読む」行為のために著作権者の承諾は不要ですし、美術館で絵を「見る」行為にも著作権者の承諾は不要です。
つまり、本屋で本を買う代金は、本という「物」の売買の対価(所有権を得るための対価)であって、本に書かれている著作物について著作権が得られるわけではない、ということになります。
くどいようですが、本屋で「本」という物は買えますが、著作権は買えません。
法定利用行為
では、著作物について何をしたら著作権侵害になるのかということが、著作権法に書いてあります。
いわゆる法定利用行為というやつで、沢山あるので細かく見ていくと大変なのですが、ざっくりとは、
(1)著作物の、①有形的再製、②提示、③提供と、(2)二次的著作物の④作成、⑤利用、という5類型の行為です。
そして、各行為ごとに、著作家侵害とならない場合の規定もあり、複雑です。
「著作権侵害」というと、似ている・似ていない/真似した・真似していないの議論になりがちかもしれませんが、そもそも法定利用行為等をしていなければ侵害が成立しません。
そのため、警告をしてきた著作権者(と思われる第三者)は、どんな行為を著作権侵害だと特定しているのか、警告状で確認することは大切です。その内容によって、今後の方針が変わるためです。
著作権者は、誰か?
著作権者が問題になる背景
特許のような産業財産権と、著作権の大きな違いは、著作権は、権利者の名前を書かなくても成立するということです。
つまり、産業財産権は特許庁への「出願」行為がないと存在せず、出願時には願書に出願人の名前を書かされます。また、例えば特許権を譲渡する場合は、特許原簿(不動産でいう、登記簿みたいなものです)への登録が効力発生要件となっているため、現在誰が権利者か?で問題になることは、多くはありません。
しかし、著作権は出願手続きなく発生するため、自称著作権者が本当に権利者なのかを判断するのは簡単ではありません。悪気はなく、本当は著作権者じゃない方が、自分は著作権者だと思い込んでいる場合もあります。
逆に、自分は著作権者じゃないと思っていたら、共同著作物だったという場合もありえます(なお、著作権を共有した場合、その行使には全員の合意が必要(著65条2項)であることにも注意が必要です)。
著作者と著作権者を区別することも大事です
著作権とは別に、著作者人格権という、著作者本人に帰属して他人に譲渡できない権利もあります。
著作者は、現実に著作物を作成した人です。著作権者は、著作権をもっている人です。
著作物の作成時、著作者は、著作権と著作者人格権という2種類の権利をもつことになります。そこで、著作者Aさんが著作権をBさんに譲れば、Bさんが著作権者になります。しかし、著作者人格権の方は譲渡できません。
なお、法律の規定で、著作物を作成した人と別な人が著作者になる(職務著作)場合もありますが、ここでは触れません。
著作者人格権については、著作権とはまた別な侵害行為が成立しうるため、警告者は、自身を著作者本人だと主張しているのか、著作者ではないけど著作権者だと主張しているのか、も区別することが大切です。
警告状が届いた段階では、細かい点まで確認することは難しい場合も多いと思いますが、これらの点について書面になんと書かれているか/書かれていないかは、注意深く読んでおく必要があるかと思います。
おわりに
ここでは、著作権侵害の警告状が届いた場合を想定し、一般的に、確認しておくほうが良いと思われることを記載しました。
突然、警告状が来たら驚くのが普通だと思います。しかし、上記の点を含め、著作権侵害が本当に成立するかは、色々な検討が必要な場合が多いです。
したがって、単に警告が来ただけで過剰に恐れる必要はありませんが、著作権の紛争は、著作権以外の法律が問題になる場合も多々ありますので、なるべく早めに、著作権等について詳しい弁護士に相談することをお勧めします。