事業をする際に知っておきたい商号と商標の基本クイズ

事業をする際に知っておきたい商号と商標の基本クイズ

はじめに 〜「商号」と「商標」と「商標権」の違い〜

会社をつくって事業を始めようとする際は、会社の名称を「商号」として登記します(会社法6条1項「会社は、その名称を商号とする。」)。たとえば会社の名称として「株式会社 力新堂」を登記した場合、「力新堂」ではなく、「株式会社 力新堂」全体が商号となります。つまり、商号とは会社のフルネームにあたります。

一方、法律(商標法)上に「標章」という言葉があります。標章は、典型的には文字や図形等で構成されるマークです。たとえば「力新堂」は、文字だけからなる標章と言えます。

こうした標章が、商品やサービスと紐づいて使用されると、「商標」になります。

例えば「株式会社力新堂」が、パン屋を始めた場合、パンの包み紙に他のパン屋のパンと区別するためのマークとして「力新堂」と書いた場合、パンという加工食品に紐づけて「力新堂」という「商標」を使用していることになります。 逆に言えば、商品やサービスに紐づかない(限定されない)商標は、ありません。

また、「商標」かどうかは、いわゆる商標出願の手続きの有無とは関係ありません。

たとえば「力新堂のパンがおいしい」と評判になった場合、この評判にタダ乗りしようとして、別のパン屋がパンの包み紙に「力新堂パン」と真似してくることは、あり得る話です。 そんなとき、比較的簡易に他店のタダ乗りをやめさせる事前の備えとして国が用意している仕組みが、商標登録出願です。

具体的には、特許庁に対して、自分が使用している(または使用予定の)「商標」を「使用する商品やサービス」と紐づけて出願します。特許庁の審査を経て設定登録をうけることができれば、出願した商品やサービスについて当該商標を独占的に使用できる「商標権」が得られます。

商標権は商標の保護に特化している分、他のより一般的な法律を使う場合と比べて、自分の商標を法的に保護(差止請求や損害賠償請求)しやすいように制度が出来ていることが、わざわざ商標登録出願をする意義と考えられます。

なお、「商号」を商標登録出願することも可能です。上記の例では、「株式会社 力新堂」を「パン」について商標登録出願するケースです。これを、知財業界的に「商号商標」と呼んだりする場合もあるように思います。

以上を踏まえてクイズです。

クイズ: 商号と商標出願の関係

Q1

例えば、Aさんが神戸市に「株式会社 力新堂」を設立したあと、これと無関係のBさんが京都市で「株式会社 力新堂」を適法に設立した場合を考えます。 なお、いずれの「株式会社 力新堂」も、残念ながら周知・著名ではない会社とします。

ある日、京都市のBさんがGoogleでエゴサーチしていたところ、神戸市にも同じ社名の会社があることを知り、もし相手(Aさん側)が先に商号を商標登録したら、自社の社名の使用が差し止められるかもしれないと考えたとします。

この場合、Bさんは「株式会社 力新堂」を商標登録出願すべきでしょうか?

答え:
「株式会社 力新堂」は、両社にとって「他人の名称」に該当するため、Aさんであっても、Bさんであっても、その商標登録出願には拒絶理由が生じている(商標法4条1項8号)。よって、出願すべきではない。

なお、Aさんであれば、Bさんが会社を設立する前に出願した場合であれば、「株式会社 力新堂」という商標を登録できる可能性があります。

Q2

商号についてあれこれ書いておいて言うのもなんですが、我々は普段「商号」をあまり使っていないように思います。例えば「ソニー株式会社のテレビを買った」「トヨタ自動車株式会社の車を試乗した」等という人はあまりおらず、普段は「ソニーのテレビ」「トヨタの車」などと略して言っています(ちなみに仕事では「さん」をつける場合もありますが、これも略称にさん付けしているのではないでしょうか)。

では、Bさんも商号から「株式会社」を略した「力新堂」を念のため商標登録したいと考えた場合は、これもダメなのでしょうか?

答え:
「力新堂」は、商号「株式会社 力新堂」の「略称」であるところ、「略称」は著名でなければ先の商標法4条1項8号の拒絶理由にはあたらず、出願の早い者勝ちで登録される可能性がある。

したがって、例えばBさんが、Aさんより早く商品「パン」について商標「力新堂」を出願した場合、Bさん(だけ)が当該商標について登録を受けうることになります。

この場合、Aさんはどうなるのか?Bさんより早く会社を設立したのに、自社のパンに自社の名前すら書けなくなるのか?という点が気になりますが、この点は商標法26条1項1号が「自己の…名称…を普通に用いられる方法で表示する商標」には、「商標権の効力は…及ばない」と規定して、(一応)手当てしています。

具体的には、Bさんがパンについて商標「力新堂」を登録した場合であっても、Aさんは、自社のパンの袋に、自社の名前「株式会社 力新堂」を書くことはできます。

しかし、これはあくまで「自己の名称」を「普通に用いられる方法で」すら商品に書けないのは色々と不都合だから、という話であって、実際は袋の裏に小さなありふれた文字で、略さずに「株式会社 力新堂」と書ける、という程度で許されるだけになるかと思います (この範囲を超えて、Aさんの会社が、自社製パンの目立つところに派手な文字で「力新堂」と書くことは、Bさんの商標権侵害となるリスクがあります)。

まとめ

長くなりましたのでこの辺でまとめます。

  • 「商号」は登記された会社のフルネームである
  • 文字や記号などマーク単独であれば「標章」どまり
  • 標章が商品やサービスと紐づけて使用されると、これを見た買い手(需要者)が他の商品やサービスと識別するためのマーク=「商標」になる
  • 商標を特許庁に出願して設定登録されると「商標権」が発生する
  • 「商号」であっても、商品やサービスと紐づけて使用されると「商標」となるため、商標登録が可能
  • 特に商号の一部を商品やサービスに使う予定がある場合は、早めに商標登録出願をしておくことがトラブル防止に役立つことも

力新堂法律事務所では商標登録出願の相談を受け付けています。初回相談は無料ですのでお気軽にご連絡ください。

伊藤 英明のプロフィール画像

伊藤 英明

Hideaki Ito

弁護士 / 弁理士 / 博士(情報学)
日本工業所有権法学会, 著作権法学会, 情報ネットワーク法学会

力新堂法律事務所に所属し弁護士業を営む傍らで、都内IT企業に勤務しています。データを見て推測するのが好きです。

ご相談予約

CONTACT

メール・お電話・LINE各種でご相談の予約を承ります。お急ぎの場合は電話でお申込みください。

TEL.0120-806-860

お電話受付時間 9:00〜20:00(土日祝含む)
※執務時間 平日 9:00〜18:00

ページの先頭へ