はじめに
BitTorrentはある程度ネットに詳しいユーザーが多いため、ネット上には様々な情報が書かれているようです。私は、匿名掲示板は仕事で見るだけでもう十分な気分なのですが、相談者の方と話をして気になったことがあったため、先日BitTorrent系の関連スレを少し見てみました。すると、過去の相談者の方が変なポイントに妙に拘っていた理由がこういう投稿にあったのかな等、色々思い当たることがありました。依頼者を理解するという意味では、我々も多少は読んでおく方が良いのかも、と思いました。
ただ、裁判で判決まで闘ったようなレアケース以外は通常は示談で終わりますし、示談書には、示談条件等を第三者に口外しないという条項を普通はつけますので、正しい情報を特に匿名掲示板的な場所で見つけるのは難しいと思います。
もちろん情報を集めることは自由ですが、どうせ情報を集めるなら、公開されている裁判例(例えば、先日解説っぽいものを書いた、知財高裁の令和4年4月20日判決(令和3(ネ)10074債務不存在確認(東京地方裁判所 令和2(ワ)1573)))を読む方が、コスパは良いんじゃないかなと思います。もし判決書を見て意味がわからないなら、ネットに書いてあることの真偽も判断出来ない可能性が高いので、弁護士に相談する方が良いかも知れません。
以下では、掲示板を見ていて気になった点についてメモ的に記載します。
クライアントソフトは消してはいけないのか
BitTorrent系のクライアントソフトを消してはいけない、という投稿がありました。投稿者がそう思われた理由はよくわかりませんが、私見ではなるべく早く消した方がいいと思います。
自分で消す分には刑法上の証拠隠滅的な話にはなりませんし、上に挙げた令和3(ネ)10074債務不存在確認事件で知財高裁が挙げた損害額の推定式のパラメータ的にも、早くソフトを消すことにメリットがあるためです。
なお弁護士的には、意見照会書より早くソフトを消すのであれば、証拠化しておきたいとは思います。裁判だけではなく、示談交渉でも有利な材料に使えるかも知れません。
著作権法114条の損害額の推定規定と示談の要否
著作権に限らず、知的財産権全般について損害額の立証が困難とされているため、権利者が被った損害額を別なパラメータで推定する複数の式が法定されています。裁判では、この式のパラメータ部分に、具体的にどんな数字が入るのかを証拠に基づいて争うことが損害論での争点になります。
ということを前提に、どうせ自分の損害額は数万円程度にしか推定されないから、弁護士費用+示談金で数十万円以上を支払うのはムダ、的な投稿を見ました。
金銭的な損得で計算されるのはおかしくないと思うのですが、その際に考えておくべき要素としては、
- 責任追求されるファイル共有は1件とは限らない。本件が終わった後に、また来るかもしれない。
- 民事と刑事は別なので、刑事事件化されるリスクは一応ある。
- 数ヶ月〜1年以上、交渉するのは、時間的にも精神的にも大変だと感じる人が多い。
あたりをどう評価するかだと思います。
我々としては、上記の要素も考慮してご納得いただける場合には、相手方と示談交渉をすすめるようにしています。
なお、示談金額と法定された損害の推定額とは、理論上直接は関係ありません。示談はお互いが納得して手を打つという話ですし、示談は、そもそも損害額を推定するための事実に争いがある状態で進めることが多いです。
もちろん両者の金額が乖離している場合は、減額交渉をすることになる訳ですが、示談する相手方にもメリットがないと示談はできないので、ある程度の幅に入っているなら、金額以外の条件交渉を進める方が特な場合も多いかとは思います。
おわりに
関連スレが多く全く網羅的には確認できていないのですが、取り急ぎ、対応を悩んでおられる方の参考になりそうなことについて記載しました。
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