著作権問題の全体像(前編:権利の帰属)

著作権問題の全体像(前編:権利の帰属)

著作権問題はなにが「問題」なのかと言えば、多くの場合は、著作権者等の許諾なく無断で著作物を利用することで著作権侵害が成立すると、著作権者等からの差止や損害賠償請求の対象となることが「問題」なわけです。

したがって、上記の「著作権問題」が生じる場合の全体像を権利の帰属と権利の侵害の2つの場面に分け、権利帰属の場面で注意すべき4つの場合と、侵害場面で確認すべき3つの要件(2個−4個−3個)の各ポイントがクリアーになるよう、自社/自分はどういう契約や体制を整備しているのか/いないのかを把握することが、著作権でトラブらないための第一歩といえるでしょう。

以下では、この点についてご説明します。

いま、誰が、どんな権利をもっているのか(帰属)

「著作権」は有名な権利ですが、著作権が存在する場面では、「著作者人格権」という別な権利も(著作者が生きている間)問題になります。

また、著作権や著作者人格権は、表現者に対して生じる権利ですが、表現を伝達する者に対しては、著作隣接権という権利が生じます(著作隣接権についてはここで軽く触れるだけに留めます)。

そして、著作権や、著作隣接権の一部は、後述するように他人に譲れるので、現にいま、誰が著作権等をもっているか(=著作権侵害事件の原告になれるか)は、創作の記録や契約書等の証拠類から判断するしかありません。

一方、著作者人格権や著作隣接権の一部は、他人に譲渡等はできず、真の著作者本人にしか帰属しません(一身専属権などといいます)。たとえ、ゴーストライターAが合意のもとでBとして作曲したとしても、著作者人格権者はAです。

このように、当初、著作者に生じた著作権と著作人格権という2つの権利が、のちに著作者と著作権者でバラバラに帰属している状態はしばしば起こりえます。

権利の帰属先が決まる4つの場合

著作権の帰属先が決まる(権利を取得する原因となる)のは、以下の4つのいずれかの場合です。したがって、この4つ全ての場合に権利の帰属先がクリアーになるよう、契約書や規定の整備をすすめれば良いことになります。

①じぶんで創作した

著作権は、出願等の手続き不要で、創作時に、創作者に対して帰属するのが原則ですので、これが一番オーソドックスなケースと言えます。

②著作権者から承継した(譲渡・相続)

著作権は、著作物の財産的価値を代表するものですので、他人にあげたり、相続することができます。

③仕事で作成した(職務著作)

会社の従業員が職務上(給料の対価として)、著作物を作成した場合、公表名義等の所定の条件を満たせば、会社が「著作者」となるルールが法定されています(著15条1項、2項)。

デザイン会社に勤めるデザイナーが仕事でイラストを書く場合や、IT企業に勤めるプログラマーが仕事でコードを書く場合などが典型例です。

なお、職務著作の場合は、会社が「著作権者」ではなく「著作者」そのものになってしまうので、著作権だけでなく、著作者人格権も会社のものになる点で特殊な規定です。

また、「会社」と書きましたが、条文条は「法人等(法人その他使用者)の業務に従事する者」とされており、例えば個人事業主が雇ったアルバイト等が著作物を作成した場合も、該当すると考えられます。

④映画の著作物の特則

映画の著作物については、多額の投資がされ、また多数の著作者が絡んでくるため、著作権者を定める特別な規定が定められており、所定の条件を満たすときに著作権は「映画制作者に帰属する」(著29条1項)とされています。

映画制作者とは、映画制作に「発意」と「責任」を有する者とされ(著2条1項10号)、「責任を有する者」とは、映画制作に関する「法律上の権利義務が帰属する主体であって、経済的な収入・支出の主体となる者」とされています(平15(ネ)第1107号)。

つまり、映画制作を企画し、そのための資金を出したり借り入れをしたり契約上の最終責任を負ったりなど、特別な経済的リスクを負う人が著作権者になるルールと考えられます。

なお、「映画の著作物」には、劇場公開されるいわゆる「映画」以外にも、YouTube等に投稿されるような動画や、ゲーム中のムービー等も「映画の著作物」に該当します。

この場合、「映画の著作物」としてのYouTube動画の著作者は、上記のルールに則って考えるなら、法的・経済的なリスク負担を誰が負っているのかによって、YouTube動画の製作会社になったり、企業CMならその企業になったり(平24(ネ)第10008号)、あるいはYouTuber自身になる場合もあるかと思います。

また、著29条1項が働くのは「映画の著作物」に対してのみですので、その動画の中で他人の音楽や写真、シナリオ等を使っていた場合に、音楽等の著作権までが移動する訳ではありません。別途、各著作権者の許諾が必要になります。

このように、動画制作の場面でなにも決めないと、著作権者が誰になるのか紛争のもとになりますので、しっかり契約内容を確認しておくことが大切です。

(後編へつづく)

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伊藤 英明

Hideaki Ito

弁護士 / 弁理士 / 博士(情報学)
日本工業所有権法学会, 著作権法学会, 情報ネットワーク法学会

力新堂法律事務所に所属し弁護士業を営む傍らで、都内IT企業に勤務しています。データを見て推測するのが好きです。

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