知財ブログ
-
当所での簡単なオンライン相談のやり方
-
事業をする際に知っておきたい商号と商標の基本クイズ
-
エルデンリングのプレイ動画配信禁止騒動で考える、著作権の事業活用について
-
誤解しているかもしれない著作権の基本クイズ(2)
-
誤解しているかもしれない著作権の基本クイズ(1)
-
著作権の話と契約の話を区別することの重要性〜オープンソースソフトウェア(OSS)を例に〜
-
著作権問題の全体像(後編:権利の侵害)
-
著作権問題の全体像(前編:権利の帰属)
-
企業視点で見た産学連携の注意点<後編>
-
企業視点で見た産学連携の注意点<前編>
-
権利侵害の警告状を受けたら最初に確認すること(著作権編)
-
他社に権利侵害の警告をする際の留意点(特許編)その2
-
他社に権利侵害の警告をする際の留意点(特許編)その1
-
権利侵害の警告状を受けたら最初に確認すること(特許編)
特許権、意匠権、商標権などの知的財産。関心はあっても出願して権利を取得していない、活用できていない企業が多いのではないでしょうか?
特許行政年次報告書2018年版によると、中小企業が特許を出願した件数は約4万件。全体の出願件数は26万件なので約15.3%です。それ以外は、ほとんどすべてが大企業による申請となっており、まだまだ知的財産を活用できていない中小企業が多いことがわかります。就労者数・事業所数から言えば、中小企業が2割にも届かない状況というのは非常にもったいない話しです。
この統計は、中小企業が本領を発揮できていないことを意味しています。経営者が「うちには知的財産なんて関係ない」「知的財産で、何か売上が増えるわけじゃない」などと思い込んでいたり、あるいは、「知財で他社とどうにか差別化したいけど、どうしたら良いか分からない」という状況なのかもしれません。
いずれにせよ、多くの企業にとって、自社の技術的な差別化や人材の育成と並んで、自社内で知的財産に対する理解を深めて具体的に活用できるか否かが、今後は死活的に重要なポイントとなるでしょう。中小企業でも、知的財産を上手に活用できなければ、将来的に生き残れないのです。きっかけはバラバラですが、一部の中小企業では、知的財産の重要性に気がつき、かつ、自社の製造や販売に経営資源として活かし始めています。大きな成果を上げている中小企業も現れ始めています。
知的財産と全く関わりを持たない事業者は存在しません。存在しているのは、程度の差はあれ、知的財産を事業活動の一部に組み入れて成果を上げている企業か、まだ気づいていない企業かだけなのです。
以下では、知的財産について簡単にご説明し、あわせて弁護士がすすめる中小企業の知的財産活用法もご紹介します。
知的財産の種類
知的財産には、いくつかの種類があります。大きく分けると「産業財産権」とその他(著作権など)に分類されます。
産業財産権は以下の4種類です。
- 特許権
-
自然法則を利用した技術的な発明で、新規性があり高度なものに与えられる権利です。
- 実用新案権
-
自然法則を利用した発明ですが、特許ほど高度なものではないものに認められます。
- 商標権
-
企業名や商品名、ロゴなどの「マーク」に与えられる権利です。
- 意匠権
-
特徴的なデザイン、色の組み合わせなどに認められる権利です。
産業財産権が認められるには「特許庁」に出願をして登録される必要があります。高度な技術や誰もが知っているロゴであっても、登録されない限り知的財産という権利性は認められないのです。逆に、特許庁で登録してもらえれば、登録者は当該知的財産を一定期間独占することが認められます。
知的財産の活用方法
次に、中小企業におすすめする知的財産活用方法をご紹介します。
商標を登録してブランド力を高める
まずは御社の「商標」を登録しましょう。商標とは、社名や商品名、サービス名やロゴなどの「マーク」に認められる権利です。
楽天やソフトバンク、アサヒビールなどはそれぞれ特徴的なロゴを使っていますが、こういった大企業はみな自社で商標権を取得しています。
商標権を取得すると、出願時に指定した商品/役務に対して、そのマークの商標的使用は自社が独占できます。他者が勝手に、登録商標をその指定商品/役務に使用した場合には、使用の差し止めや損害賠償の請求が可能ですし、相手が悪質な場合には刑事罰が与えられる可能性もあります。もっとも、このような防御的な意味よりも、中小企業の場合は、次の意味の方が大きいかもしれません。
それは「ブランド化」です。商品のブランディング(差別化・唯一化・高級化)の方法は多様です。その中で商標登録のメリットは、商品実態は変わらないのに低コストでブランディングに寄与できることです。
地元の特産品などであっても、ロゴマークや商品名などの商標を自社製品に使用すれば、使用とともに商標に信用が化体し、ブランド力が高まっていきます。ブランド力が高まれば、同じものでも他の商品より高い価格でも売れるようになります。この時、商標を登録しておけば、他人にフリーライドされてしまいますし、他人の商品等の品質が劣っていれば、せっかく築いた信用も失ってしまいます。そのため、商標を適切に登録しておくことは大切なのです。
商標登録制度を活用して、地方の特産品をブランド化した成功例は多々あります。たとえば北海道の協同組合が「北海道味噌」などの地域団体商標を取得して、地域ブランドを確立しました。商品イメージをクリアにし、ユーザーへの訴求力をアップさせることは、ブランド化への第一歩です。
自信のある商品やサービス、あるいはすでに人気の出ている商品やサービスがあるなら、ぜひ商標登録を検討してみてください。ちなみに、商標登録の「ご利益」は上述に留まりません。これは、また別の機会に述べさせていただきます。
特許権を取得して技術を守る
メーカーなどで日々製品や技術開発をされているなら、ぜひ特許権を取得しましょう。特許権を取得すれば、他社は同じ技術を利用できなくなります。その技術が必要なら御社からライセンスを受けなければならないので、御社にはライセンス収入も入ってきます。
もしも特許権を取得しなければ、他社が先に特許出願をして権利取得されるかも知れません。そうなったら御社の方が先に発明していても技術を使えなくなる可能性や、特許権者にライセンス料を払わねばならなくなる可能性があります。
御社の発明や技術を守るには特許が有効ですが、特許出願した発明は、制度的にいずれ必ず公開されます。そのため、どうしても他社に知られなくないノウハウや、他社による侵害発見が困難な技術であれば、敢えて特許出願せず、営業秘密として管理すべき場合もあります。
いずれにしろ大切なことは、技術者だけが特許について悩んだり、検討したりするのではないということです。営業(販売する人)と経営(社長など)も巻き込んで、販売するときに説明しやすい形を見据えて、目には見えない知的財産の見える化に継続して取り組みましょう。中小企業で知財活用が上手く行っている会社は、技術者だけが特許について考えているのではなく、全社的に考えているのです。
注意したい著作権について
著作権は、ざっくり言うと人が思想や感情を表現した場合に認められる権利です。上記4つの産業財産権とは異なり、登録制度がありません。絵を描いた瞬間や写真撮影した瞬間など、著作物を生み出した瞬間に権利が発生します。
中小企業の場合には、カメラマン、デザイナーやイラストレーターなどに外注する際に著作権への注意が必要です。デザインやイラストなどは、何も取り決めがなければ、通常はデザイナーやイラストレーター(または、その使用者)に著作権が認められるからです。納品を受ける際に著作権の譲渡を受けておかないと、将来著作者から著作権を主張されて、差し止めを請求されたり利用料金を請求されたりする可能性があります。
このパターンのトラブルは、最近頻発しています。クリエーターや製作会社の権利者意識が高まっている一方で、所有権と著作権をごっちゃにしたまま扱っている発注者が少なくないからです。
平凡ですが、双方のために必ず契約書を作成しましょう。
以上、非常に簡単ではありますが、知的財産にはさまざまな種類のものがあり、活用方法もケースによって異なることがご理解いただけたと思います。メーカーやデザイン会社はもちろんですが、営業会社や小売事業者などでも、知的財産権は大いに関係しているのです。
知的財産権は、自社が今後どこまで業態を拡大させたいのか、人材のレベルを上げたいのかに直結したテーマと言えます。パワハラやサービス残業を減らすというような体験しやすい問題とは異なり、知的財産は正面から意識して取り組まなければ見えてこないテーマだからです(故に徐々に大きな差を生むわけですが。)。
当事務所では、知的財産のトラブル解決や紛争予防はもちろん、特に、知的財産権の活用をサポートすること(知財経営の活性化)に注力しています。各事業者の予算、事業段階、将来展望等に応じて、最適と考えられるアドバイスを継続的に行うスタイルを得意としています。