誤解しているかもしれない著作権の基本クイズ(2)
営利目的じゃなきゃ大丈夫?
先日、デザイナー(のたまご)をしている友人から、オシャレ系某有名ブランドのロゴをもじったロゴを使ってトートバッグを作っても大丈夫か、という質問を受けました。
その際に、「営利目的じゃなきゃ著作権は気にしなくて大丈夫って、YouTuberが言っていた」と聞いて、確かに同じような誤解をしている方が少なくない印象でしたので、今回は、「営利目的と著作権」について少しお話しさせていただきます。
結論は「大丈夫じゃない」
最初に結論から言いますが、営利目的じゃなくても「大丈夫じゃない」場合が多いです。というか、そういう疑問を抱くような状況では、ほぼ「大丈夫じゃない」と考えて良いかと思います。以下、その理由です。
条文を検索してみました
前提として、我々が、目に入った他人の創作物を参考にして何かをしたからといって、なんでもかんでも著作権侵害になるわけではありません。
ただし、友人のように、有名ブランドのロゴをもじってロゴを作成するようなケースでは、直感的には「あぶないな」というのはわかると思います。具体的には、著作権法だけ考えても翻案権侵害や、同一性保持権侵害等が想定されますし、その他、商標権侵害や、不正競争等、色々心配になります(なお、そのブランドは商標権をとっていないようで、それはそれで不用心な気はしました)。
だからこそ、「営利目的じゃなきゃ大丈夫」みたいなお守りが欲しくなるのだと思いますが、現行の著作権法(令和二年法律第四十八号による改正)のなかで、「営利」という言葉が出てくるのは、21箇所です。
条文をベタッと貼っても読むのが辛いと思いますので、ざっくりまとめると、
- 第三十一条 図書館での複製関連
- 第三十三条の三 教科書用拡大図書等作成のための複製
- 第三十五条 学校等の教育機関での複製等
- 第三十六条 試験問題としての複製等
- 第三十八条 営利を目的としない上演等
- 第九十四条の二 有線放送事業者が行う、放送される実演の有線放送
- 第九十五条 放送事業者等の商業用レコードの二次使用
- 第百四条の三 私的録音録画補償金の指定管理団体の基準
- 第百十九条 罰則(営利目的で違法なダビング機器を使用させた場合
- 第百二十条の二 罰則(みなし侵害規定適用のための主観的要件)
…という感じです(正確には、例えば百二条で著作隣接権の場合に準用される場合があるなど、これだけが全てではありませんが、話が複雑になるので置いておきます)。
以上の通り、主体がかなり限定されている規定がほとんどですので、おそらく著作権が気になるケースの大部分では、営利・非営利は関係がないと思われます。
定食屋のテレビで見る相撲中継と、スポーツバーのプロジェクターでみるサッカー中継の違い
上記の条文の中でも、第三十八条は比較的多くの方が関係する規定かと思いますので、参考までに少し解説します。
同条の第一項は、典型的には学園祭等で軽音サークルが人気J-POPを演奏するような場合は、著作権者の許可はいりませんよ、という規定です。ただし、入場無料に加えて出演者もノーギャラであることが必要になります。
また同条第三項によると、営利目的ではなく、料金を取らない場合には、放送等された著作物(テレビ番組)をリアルタイムで公衆に対して家庭用テレビで映して見せてもOKとなります。例外として、例えばまちの定食屋等によくある家庭用テレビで相撲中継などを勝手に流すのは(おそらく営利目的にあたりますが)OKになります。これで著作権者等の利益を損なうとは考え難いためです。
しかし、たとえばAmazonで個人的に買ったアニメのブルーレイを喫茶店のモニターで流したり(これは「放送」ではないので上記一項の問題になるが、営利目的となるので一項の要件にあてはまらない)、スポーツバーなどで大型プロジェクターを使ってスクリーンにサッカー中継を流すには(家庭用の装置とは言えず、放送事業者がもつ著作隣接権とも問題が生じうるため)、どこかで著作権者等の承諾が必要となる可能性が高いです(そのため、業務用として販売されるメディアを購入したり、事前に管理団体と契約をしておくことなどが必要になります)。
なお、映像だけではなく音についても同様であるため、例えばサッカー中継を家庭用テレビで受信しつつ、音声を業務用のスピーカーに繋げて公衆に聞かせる場合にも注意が必要です。
まとめ
以上、繰り返しになりますが、営利目的かどうかが著作権侵害の成否に影響する場面は、かなり限定的なため、多くのケースでは「営利かどうかは、著作権侵害の成否には関係ない」(営利目的ではないことが、言い訳にはならない)と考えておくほうが無難かと思います。
心配事などがありましたら、我々へお気軽にご相談ください。
(弁護士・弁理士 伊藤 英明)