企業が意識すべき「コーポレートガバナンス」について弁護士が解説

企業が意識すべき「コーポレートガバナンス」について弁護士が解説

「コーポレートガバナンス」(Corporate governance)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、各企業が組織体制を整えて適正に運営するためのシステムです。
上場会社の場合には「コーポレートガバナンス・コード」というガイドラインを守らねばならず、近年に改正も行われています。

「コーポレートガバナンス」という言葉は知っているけれど具体的に何なのか、どのように対策したら良いのかわからない経営者の方も多数おられるでしょう。

今回は各企業が構築すべき「コーポレートガバナンス」の基本とコーポレートガバナンス・コードや改正内容について、簡単に弁護士が解説します。

 

コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンス(Corporate governance)は、英語で「企業統治」を意味します。
もともとは「投資家(株主)に利益が還元されるように、企業が適正に経営されるためのシステム」が企業統治の考え方です。

会社で不正が行われると、株主に利益が還元されません。たとえば粉飾決算が行われたり、取締役の報酬を不当に高額にされたりずさんな経営が行われたりすると、会社の経営状況が悪化したり破綻したりして株主に不利益が及びます。
そこで会社の統治体制を適正に整えることにより、健全な経営を進めて株主に配当や株式価格の上昇などによる還元を行おうとするのがコーポレートガバナンスの考え方です。コーポレートガバナンスは「正しい企業統治のあり方」を実現するためのものです。

たとえば「会社法」において、重要事項については取締役会や株主総会における決議が求められますが、これもコーポレートガバナンスの1種です。会社規模に応じて取締役会、監査役会、各種の委員会などを設置して企業統治体制を整えることも可能となっており、こういった機能を駆使して、各社がコーポレートガバナンスを実施しています。

また近年の「コーポレートガバナンス」においては、株主だけではなく「従業員や取引先、顧客や金融機関などのすべてのステークホルダー(利害関係者)」への影響を考慮しながら企業を運営するためのシステムとしての役割も重視されています。特に上場企業では高いコンプライアンス意識と適正なコーポレートガバナンスの実施が求められます。

 

コーポレートガバナンスの目的

「コーポレートガバナンス(企業統治)を適正に行わねばならない」といわれても、具体的に何をすれば良いかわからない経営者の方もおられるでしょう。
そもそも「コーポレートガバナンス」の目的は何か、理解しておくと答えが見つかりやすくなります。

企業の不祥事防止

コーポレートガバナンスの目的の1つは、企業における「不祥事防止」です。経営陣が不正を働くことができないよう、内部統制や監査のシステムを整えて監視します。

収益力の向上

もう1つの目的は、会社の収益力の向上です。しっかりと利益を出して株主に利益還元を行うことはもちろん、従業員にもきちんと賃金を払ってワークライフバランスを実現させ、顧客や取引先にも良い商品やサービスを提供する、これらの集積によって社会における会社への信用を高めてさらに収益性を高めていく、こういった良循環を実現することがコーポレートガバナンスの目的といえます。

 

コンプライアンスとの違い

コーポレートガバナンスはコンプライアンスと似ているので混同されている方もいらっしゃいますが、両者は異なる概念です。

コンプライアンスとは

「コンプライアンス」は「法令遵守」です。会社におけるコンプライアンスは「法令を遵守しながら業績を向上させるための事業経営」を意味します。

コーポレートガバナンスとの違いと類似点

コーポレートガバナンスは株主や他のステークホルダーに利益をもたらすための「企業統治体制」であるのに対し、コンプライアンスは「法令をしっかりと守りながら業務運営すること」であり両者は異なる概念です。
またコンプライアンスは企業統治体制だけではなく「労働基準法の遵守」「消費者保護」「知的財産の適正な活用」「持続可能な開発へ配慮した企業活動」「社会貢献」など、他の要素も含みます。その意味でコンプライアンスはコーポレートガバナンスよりも広い概念といえるでしょう。

ただコーポレートガバナンスは「会社法」や「コーポレートガバナンス・コード」などの法令にもとづく要素が大きいので、コーポレートガバナンスを適正に実施しようとすればコンプライアンスを守ることにもつながります。この意味で両者は密接に関連します。また、株主や会社のステークホルダーへ利益を還元するという目的も重なる部分があります。

こういった類似点があるので、コーポレートガバナンスとコンプライアンスがときおり混同されています。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの関係

コーポレートガバナンスを適正に実施することはコンプライアンスの実現に必須です。その意味でコーポレートガバナンスはコンプライアンスを実現する「手段」の1つといえるでしょう。

 

コーポレートガバナンスの実施方法

コーポレートガバナンスは、「内部統制」と「監査」によって実施します。「内部統制」とは、企業が不正を行わずに適切な方法で業務目的を達成できるよう統治するためのシステムです。

内部統制を適切に行うためには経営者(代表取締役)や取締役、監査役、委員会などの企業内部の組織作りが重要です。会社法には企業の組織体制についての基本事項が定められていますが「必ずこのようにしなければならない」と決まっているわけではないので、自社の状況に応じて組織体制を編成する必要があります。
またコーポレートガバナンスで重要なのが「監査」です。監査役を置くことはもちろんのこと、監査役会を設置したり社外監査役を入れたりして、適正に監査が行われる体制を整えねばなりません。

 

具体的な取り組み方法

コーポレートガバナンスを実施するための具体的な取り組みとしては、以下のような方法が考えられます。

  • 適正に企業統治をしつつ経営を進めるための優秀な人材を確保
  • 法令に関する知識と理解
  • 取締役と執行役の分離
  • 取締役などの役員報酬の開示
  • 自社の規模や状況に応じた統治体制の整備
  • 社外取締役の設置

 

コーポレートガバナンスの注意点

企業がコーポレートガバナンスを構築する際、注意点があります。それはコーポレートガバナンスを重視するあまり、スピーディな経営判断や実施ができなくなって事業運営に支障が及ぶリスクです。コーポレートガバナンスやコンプライアンスを意識しすぎると、必要な企業改革を進めにくくなるケースも少なくありません。つまり企業の発展に重要な「身軽さ」が失われる可能性があります。
また株主や各種ステークホルダーの利益を追求する際、どうしても短期的な利益に目が行って長期的な利益を得にくくなる傾向もみられます。

適正なコーポレートガバナンスを構築するには、こういった注意点にも配慮していく必要があります。

 

コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンスに関連して「コーポレートガバナンス・コード」という言葉を聞いたことのある方も多いでしょう。
コーポレートガバナンス・コードとは「企業統治の指針」を意味します。金融庁と東京証券取引所が取りまとめた「上場企業に適用される企業統治のガイドライン」であり、2015年6月から適用されています。

コーポレートガバナンス・コードでは、会社が株主や顧客、従業員などのステークホルダーや地域社会をも見据えて透明、公正、迅速かつ適正な意思決定を行うための基本原則が示されています。基本的に、以下の5つの章によって構成されます。

株主の権利・平等性の確保

企業は株主利益の最大化を図るとともに、それぞれの株主を株式数等に応じて平等に取り扱わねばなりません。

株主以外のステークホルダーとの適切な協働

従業員や取引先、顧客などのステークホルダーとも良好な関係を築く必要があります。

適切な情報開示と透明性の確保

企業内部の情報を適切に開示し、経営の透明性を確保する必要があります。

取締役会等の責務

企業の適正な統治に欠かせない取締役会をはじめとした経営陣の責務についても定められています。

株主との対話

企業と株主がコミュニケーションをとりながら企業統治を進めていく必要があります。

コーポレートガバナンス・コードでは会社の適正な統治と持続的成長のために、独立した社外取締役を2人以上選任することが要求されています。これを受けて東証の上場企業では複数の社外取締役を選任する動きが強まり、コーポレートガバナンス・コード導入前は21.5%に過ぎなかったところ2018年には91.3%の上場企業が2名以上の社外取締役を選任する成果を発揮しています。

 

コーポレートガバナンス・コードの適用対象

コーポレートガバナンス・コードが適用されるのは「東証の1部または2部に上場している企業」です。上場していない企業はコーポレートガバナンスを遵守する必要はありません。
またコーポレートガバナンス・コードは法律ではなくあくまで「ガイドライン」です。遵守しなかったからといって「違法」になるわけではありません。
ただし上場会社の場合、コーポレートガバナンス・コードを守っていないと東証による評価が下がり、最悪の場合には上場廃止などの不利益を受ける可能性もあります。

またコーポレートガバナンス・コードだけではなく「会社法」にも規定のある内容については、非上場会社であってもきちんと守らねばなりません。

さらにコーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方は非上場の中小企業にとっても参考になるものです。非上場であってもその内容を知り自社の企業統治に役立てるのは経営の際に有用となるでしょう。

なお、上場企業の場合には証券取引所へと「コーポレートガバナンス報告書」を提出しなければなりません。報告内容は証券取引所のウェブサイト上に掲載されます。

 

コーポレートガバナンス・コードの改定

実は2018年、コーポレートガバナンス・コードが改定されています。改定内容を簡単にご紹介します。

経営戦略や経営方針の策定、公表に際しての規制

企業は経営戦略や経営方針の策定・公表を行う際、自社の資本コストについて的確に把握する必要があることが定められました。また事業ポートフォリオを見直し、設備投資や研究開発投資、人材投資などについても適切に説明をしなければならないとされました。

経営陣の適正な選解任について

各企業は、経営陣幹部や最高経営責任者の選解任の際、公正で透明性の高い手続きにより適切に行うべきと定められました。後継者計画についても適切に監督が行われるべきとされています。

経営陣の適正な報酬決定方法

経営者の報酬が適正に定められるよう、取締役会が「客観性、透明性の高い手続きによって報酬制度を設計し、具体的な金額を決定すべき」とされました。

諮問委員会の積極的な活用

会社の公正な運営のためには社外の諮問委員会の活用が役立ちます。そこで指名委員会や報酬委員会がより活用されやすくするため、一定の企業には指名・報酬に関する諮問委員会の設置を求めるとされました。

取締役の多様化

取締役を選任する際、国際化やジェンダー面をも配慮するよう求められるようになりました。つまり外国人や女性を積極的に登用すべきという意味です。

持合株式の規制

持合株式などの政策保有株式は規制されます。毎年取締役会において、保有目的や保有に伴う利益・リスクがコストに見合っているかなどを検討し、保有の是非を検証して公表しなければならないと定められました。

企業年金について

企業年金が適正に運営されるよう、各企業は資質を持った運営者を計画的に登用、配置すべきとされました。またそういった取り組み内容を公表すべきと定められました。

企業が適切にコーポレートガバナンスを実施するために

コーポレートガバナンスの理解は難解で、正しく把握するには専門的な知識が必須です。
また近年では時代や考え方の変化、移り変わりが特に激しくなっており、上述のコーポレートガバナンス・コードの改定からもわかるように各企業に求められる内容がめまぐるしく変化し続けています。中小企業経営者がコーポレートガバナンスを適正に理解し運営していくためには、法律の専門知識を持った弁護士によるサポートが不可欠といえるでしょう。

 

当事務所では弁護士が神戸市東灘区を拠点として各中小企業に対し、難しいことでもわかりやすくアドバイスを行っており、会社の状況に応じたコーポレートガバナンス(企業統治)体制をもご提案しております。今後上場を見据えておられる場合にも有用な助言をさせていただきます。

近年の企業に求められるコンプライアンスやコーポレートガバナンスの高い基準をクリアして適正に企業運営を行っていきたい経営者様は、ぜひとも顧問契約をご検討ください。まずはお気軽にご連絡いただけますと幸いです。

 

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茅根 豪

Go Chinone

兵庫県弁護士会業務委員会等/甲南大学知的財産法研究会(事務局)/甲南大学法科大学院兼任教授(2020年・企業法務論)

弁護士を志す前は、都心の事業会社で不動産ビジネス等を経験しました(宅建士有資格者)。そのためか不動産関連のご相談を多く受けます。現在は、事務所のメンバーや他業種の方々と一緒に、税務、労務、広告規制、マーケティングなどについての勉強会を開催しています。弁護士業以外の活動としては、大阪のトレーニングジムで運動機能の改善指導を行ったり、東京で定期開催される政治・経済の勉強会等に参加しています。法律のみならず、広く社会の諸分野についても見聞を拡げていきたいと思っています。

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