内部通報制度の必要性と設計方法を弁護士が解説

御社では「内部通報制度」を構築していますか?
企業が法令違反を始めとした不正をせずコンプライアンスを遵守しながら経営していくためには、企業内部の従業員等が気軽に利用できる内部通報制度が必須です。

もしも今内部通報制度を構築していないなら、できるだけ早めに整備しましょう。また2016年には「内部通報ガイドライン(公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン)」が改正されて内容が拡充されているので、内容を押さえておく必要があります。

今回は企業における「内部通報制度」の必要性と効果的な設計方法、内部通報ガイドラインの改正について、弁護士がわかりやすく解説します。

内部通報制度とは

内部通報制度とは、企業が従業員などの内部のものから法令違反を始めとする不正行為について、情報提供を受け付けるシステムです。たとえば製造の現場担当者から「適切に検査が行われていない」「原料を偽装している」などの通報が行われると、経営者側も社内の不正を把握できて早期の対応が可能となります。

内部通報制度は「公益通報制度」とも呼ばれるケースもあります。

公益通報者保護法は、内部通報者を保護する法律

企業としては、内部通報者を保護しなければなりません。通報した労働者が不当な不利益を受けるようであれば、誰も情報提供しなくなってしまうからです。
内部通報者を保護する法律として「公益通報者保護法」が作られています。この法律では通報した労働者への解雇をはじめとする不利益取扱いが禁止されています。

公益通報者保護法は、対象企業を規模や業種によって限定しておらず、中小零細企業も含めてすべての企業を対象としています。「内部通報制度を設けなければならない」とはされていませんが、内部通報を受けた場合には法律に従った対応をとらねばなりません。
そのためには事前に内部通報制度を用意して手順等を明確にしておくべきです。

内部通報ガイドラインとは

企業が構築すべき内部通報制度の内容について、より詳細に定めているのが消費者庁の「民間事業者向けガイドライン(内部通報ガイドライン)」です。
内部通報ガイドラインでは、公益通報者保護法の趣旨を踏まえて企業に望まれる内部通報制度の設計や運用のあり方が示されています。

内部通報制度の必要性

企業が適正に運営していくには内部通報制度が必要です。以下でその理由を示します。

違法行為への抑止となる

内部通報制度があると、社内では不正が行われにくくなります。不正行為をすると、他の従業員に通報されるリスクが高くなるからです。
そもそも個人情報のずさんな管理、不正会計、産地偽装などの不正が行われなければ、会社としても調査やトラブル対応に割かれる労力が不要となって生産性が高まるでしょう。

実際に違法行為が行われても早期対処が可能となる

内部通報制度があると、実際に不正行為が行われているときに労働者が制度を使って経営陣等に情報提供できるので、問題が小さいうちに芽を摘み取れます。
トラブルが大きくなる前に早期対処すれば、会社への信用も落とさずに済みダメージを最小限度に抑えられるでしょう。

会社の信用維持

内部通報制度があれば、不正を発見した労働者はまずは社内の通報制度を使って問題を告げるものです。いきなりマスコミや労基署、警察などの外部に通報されるリスクが低下して、重大な風評被害を避けられます。

内部通報を受けたときの適切な対応が可能となる

自社内に内部通報制度がなくても、通報を受けたら公益通報者保護法に従った対応が必要です。ただ内部通報制度がなければ、いざ通報を受けたときにどう対応して良いか判断できず、知らずに違法行為をしてしまう可能性があります。
始めからきちんと内部通報制度を構築して対処方法を定めておけば、法律違反の対応をすることはないでしょう。

内部通報制度(公益通報制度)に求められる対応

内部通報制度(公益通報制度)を構築する際には、以下のように対応しましょう。

徹底した秘密保持

内部通報制度を機能させるには、秘密保持を徹底する必要があります。 秘密が守られないと通報者は安心して通報できません。通報によって不利益を受けるようであれば、誰も情報提供しなくなってしまいますし、内部通報制度を利用せずいきなりマスコミなどに通報してしまうリスクも発生します。

内部通報制度の運用において秘密にすべき情報は以下の通りです。

  • 通報者の個人情報
    通報者の氏名等の個人情報です。
  • 通報にもとづいた調査であること
    調査の際、「通報にもとづいて調査を行っていること」を秘密にする必要があります。対象者や関係者へ「通報により調査している」と告げると「誰が通報したか」推測される危険性があるからです。理由は告げずに調査を進め、明らかになった事実のみを発表しましょう。
  • 通報があった事実
    「通報があった事実」も秘密にすべきです。それだけで「誰が通報したのか」犯人探しが行われたり、通報者(と疑われた人)がつるし上げされたりする可能性があります。

内部通報ガイドラインでも、通報者の所属・氏名等やその事案が通報を端緒とするものであることなど、通報者の特定につながり得る情報は開示すべきではない旨、定められています。

情報の受付方法にも注意

内部通報窓口を用意する際には、電話、メール、ウェブサイトなどで受け付けましょう。その際、他の回線と共有せず「専用のルート」を用意する必要があります。面談を行うなら個室や社外面談にて対応しましょう。

経営陣から独立している必要がある

内部通報窓口は、経営陣から独立していないと機能しません。企業の不正には経営陣が絡んでいるケースが非常に多いからです。経営陣が内部通報制度に関与していると、労働者は経営陣の不正を発見しても通報できなくなってしまうでしょう。
内部通報ガイドラインでも、社外取締役や監査役等への通報ルートなど、経営幹部から独立した通報受付・調査是正の仕組みを整備すべきと定められています。

ただでさえ経営者自身が不正をはたらいていると発覚しにくいものですし、発覚したときのインパクトも大きくなってしまいます。内部通報制度を正常に機能させるため、経営陣が関与しないルートで通報できるように社外の通報窓口を活用しましょう。

通報しやすい環境

せっかく内部通報制度を作っても労働者にとって利用しにくければ活用されません。
可能な限り「通報しやすい環境」を整えましょう。たとえば以下のような対策が考えられます。

  • 法律事務所や専門機関等に委託し、社外に通報窓口を設置する
    社内窓口しかなければ「通報すると情報を知られて自分の身に不利益が及ぶかも」と心配して通報しない労働者が出てきます。内部通報制度を機能させたければ、外部機関を利用する必要があるといえるでしょう。
  • 労働組合を通報窓口として活用する
    労働組合は労働者の味方となって会社と対峙する立場です。従業員が全員労働組合に入っている企業も多々あります。身近な労働組合であれば、労働者としても気軽に通報しやすいでしょう。
  • グループ企業の場合、共通の通報窓口を設置する
    通報先がばらばらになっていると利用しにくく情報の一元化や再発防止等の活用も難しくなります。グループ企業なら共通の通報窓口を設置して情報共有しましょう。
  • 関係事業者間で共通の窓口を設置する
    事業者団体や同業者の組合等があるなら関係事業者間で共通の内部通報窓口を設置しておくと、自社のみの社内窓口に通報するのと違って「もみ消し」や「不利益取扱い」「情報漏えい」などの不安が低減し、労働者にとっては利用しやすくなります。

通報者の疑問や不安に応える

労働者は内部通報する際、不安な気持ちを抱えているものです。効果的に情報提供を受けるには、通報者の疑問や不安を解消する必要があります。
提供を受けた情報がどのように取り扱われるのか、きちんと秘密は守られるのか、今後どういった手順で調査が行われるのかなど、可能な範囲で通報者からの質問や不安に応えましょう。

公正な検討と調査の実施

通報を受けたからといって、すべての案件に調査が必要とは限りません。まずは公正な立場から客観的に調査が必要かを検討し、必要な状況であれば速やかに調査を開始しましょう。

ただし社内組織のみで「調査の必要性」を検討すると、どうしても「隠蔽」につながりやすくなります。公正に調査の必要性を判断するには、社外の通報窓口を活用する必要があるでしょう。

また調査実施時にも注意が必要です。公正な方法で進めなければならないので、充分に教育研修を行った上、必要な能力と適性を備えた人材を配置する必要があります。

なお情報提供を受けたにもかかわらず、きちんと検討をせず調査を怠ったり調査実施時期が遅れたりすると、通報者が失望して外部の行政機関やマスコミに通報する可能性があります。 そうなると「内部通報を受けたにもかかわらず、会社全体で不祥事を隠ぺいした」などといわれて社会での信用が失墜してしまうリスクが高くなるため、公正かつ迅速な対応が要求されます。

適切な是正措置と再発防止措置

調査を終えたら、結果に応じて適切な対応が必要です。 不正が発覚すれば、正さねばなりません。関係者への処分や公表、必要に応じて新たな人材の投入や制度の刷新等も必要となるでしょう。

また原因追及と再発防止措置も重要です。今回の不正を正してもまた同じような問題が発生しては意味がありません。何が原因で不正や不祥事が発生したのかを明らかにしてトラブルの要因を取り除きましょう。

社内に不祥事の内容と処分内容を知らしめて「今後はこういったことはしてはならない」と啓蒙する必要もあります。あらためて教育研修も行いながら再発防止に努めていきましょう。

内部通報窓口・公益通報窓口の設計パターン

内部通報窓口(公益通報窓口)の設計パターンとしては、以下の3種類があります。

社内通報窓口

社内に内部通報専用の窓口を設置する方法です。専門の内部通報部門が担当しても良いですし、そこまでの余裕がなければ総務部や人事部などの管理系部門が担当してもかまいません。
社内窓口の場合、労働者が日常的に気軽に利用できるメリットがあります。ただしきちんとルールを定めておかないと情報が外に漏れやすく、労働者の側が「通報したら不利益を受けるのでは?」と警戒して利用しにくくなる可能性もあります。

社外通報窓口

社外の弁護士事務所や専門業者に内部通報の窓口を委託する方法です。
提供された情報や提供者の個人情報を秘密にしやすく、通報者も安心して通報しやすいメリットがあります。
一方で、社外にまで情報を提供するのはハードルが高く、労働者によっては利用しない可能性もあります。

両者の併用

3つ目の方法は、社内通報窓口と社外通報窓口を併用する方法です。両方あれば、両方のメリットを活かすことができて効果的な制度設計が可能となります。 気軽に通報したい労働者は社内の窓口を選択できますし、絶対に情報を漏らしたくない、社内で不利益を受けるのが不安という警戒心の強い労働者は社外の窓口を利用できます。

社内窓口と社外窓口の一方しかなければ得られない内部情報も、両方を用意することで取りこぼさずに把握できるでしょう。

社内通報窓口と社外通報窓口を併用した方が良い

内部通報制度を構築する際には、社内通報窓口と社外通報窓口を併用するようお勧めします。理由は以下の通りです。

社内窓口のみとする場合の問題点

経営陣からの独立性を維持しにくい

社内通報窓口しかない場合、経営陣からの独立性を維持しにくくなる問題があります。
建前上は「経営陣から独立している」としていても、労働者からすれば「会社とつながっているかもしれない」「通報によって不利益を受けるかも知れない」という不安をぬぐいきれません。
不正に経営陣が関与していると通報されずに発覚が遅れがちになりますし、いきなり外部の労基署や警察、マスコミなどに通報されるリスクも高まります。

公正な検討が難しい

通報を受けた後、社内窓口だけでは公正に検討を行いにくい問題があります。
どんなに公正に客観的に判断しようとしても、自社内の機関であればどうしてもバイアスが入ります。
また検討の結果、調査が行われなかったとき、通報した労働者としては「結局会社の保身に走ったのだろう」と不信感を抱いてしまうでしょう。

調査の進め方のノウハウが不足

内部通報にもとづく調査を進める際には専門のノウハウが必要です。適正な方法で調査を進めないと社内で大きなトラブルを引き起こしてしまうリスクもあります。しかし社内のみの対応では専門ノウハウを駆使するのは困難です。
調査がもたつくと、労働者側が不信感を抱いて外部通報してしまうリスクも発生します。

秘密保持が万全ではない

社内の通報制度においても、個人情報の保護は可能です。ただ社内で情報を取得して管理する以上「100%漏えいしない」という確約はできないでしょう。
秘密保持を万全にはできないことも社内通報制度の限界といえます。

社外窓口のみの問題点

一方、社外窓口には以下のようなデメリットがあります。

アクセスが悪い

労働者によっては「気軽に通報できる社内の窓口なら利用するけれど、外部の弁護士事務所に連絡するのは気が引ける」と考えるものもいます。社外窓口しかない場合、そういった通報者からの情報を取りこぼしてしまいます。

通報内容によっては社内機関の方が適している

業界特有の不正や社内規定違反については、外部の弁護士より内部機関の方が状況を把握しやすく適切に対応できるケースがあります。
労働者としても「業界や社内の事情を知らない外部の弁護士に通報しても理解してもらえないのでは?」と不安を感じて通報しない可能性があるでしょう。

両方を併用するメリット

社内窓口と社外窓口を併用すると、以下のようなメリットがあります。

情報の取りこぼしがなくなる

両方の窓口があれば「気軽に社内窓口に通報したい」「絶対に情報が漏れないようにしてほしい」「経営陣の関与がない通報機関を利用したい」など、あらゆる通報者のニーズに応えられます。
情報の取りこぼしがなくなり、すべての不祥事を把握しやすくなるメリットがあります。

いきなり外部に通報されるリスクの低減

社内窓口しかなければ、会社へ強い不信感を持った労働者はいきなり労基署や警察、マスコミなどの外部に通報してしまう可能性が高くなります。
一方弁護士事務所などの社外窓口しかない場合「弁護士に業界内の不正を告げてもわかってもらえないかもしれない」などと考えてやはりマスコミなどに通報しようとする労働者がいるかもしれません。
両方の窓口があれば、どういった労働者も「まずは内部通報窓口を利用してみよう」と考えるでしょうから、いきなり外部に通報されて会社の評価が害されるリスクを避けられます。

連携して調査が可能となる

内部窓口と外部窓口の両方があれば、両方が連携して調査を進められます。
調査には専門のノウハウが必要なので、調査の進め方や設計については弁護士が状況に応じて検討する方法が効果的です。一方で実際に調査を行うのは社内の担当者の方が適しているケースが多いでしょう。たとえば調査対象者に対し聴き取りを行うとき、いきなり弁護士が出てきたら内部通報を推測させてしまいます。そういった場合、社内の担当者が聞き取りを行って弁護士に報告し、全体的な方針を決めていくと効果的に調査を進められます。

内部の担当者と外部の弁護士が連携して実効的な調査を進めるためには内部窓口と外部窓口の両方を用意しておく必要があります。

社外窓口と顧問弁護士

社外の通報窓口を用意するとき、顧問弁護士の活用はお勧めしません。

以下のような問題が発生するからです。

不正に経営陣が関与している場合、利益相反になる

顧問弁護士は経営陣から相談を受けてその利益を守る立場です。不正に経営陣が関与している場合、顧問弁護士が内部通報を受けると利益相反が生じてしまうおそれがあります。
労働者の立場としても顧問弁護士には経営陣の不正を通報しにくいため、内部通報制度を利用せず外部への通報に踏み切ってしまう可能性があります。

労働問題について利益相反になる

36協定違反、残業代不払い、安全配慮義務違反などの労働問題の通報時にも利益相反が発生します。労働問題が発生した場合、顧問弁護士は会社側に立つべき人だからです。 客観的に内部通報に対応するには外部の弁護士が関与する必要があります。

内部通報ガイドラインでも、中立性・公正性に疑義が生じるおそれや利益相反が生じるおそれがある法律事務所の利用は避けるべきとされています。

監査役の役割

内部通報制度を構築する際、監査役の役割についても理解しておきましょう。
監査役は会社経営が適切に行われているか監督する立場ですから内部通報制度の一環として、ぜひ活用したいところです。ただ監査役を直接の通報先とするのは現実的でないケースも多々あります。
そこで社内の管理系部門と社外の法律事務所を直接的な通報窓口としたうえで、通報内容を監査役に共有し、対応を進めていく方法がお勧めです。

内部通報ガイドラインの改正について

最後に、2016年に改正された内部通報ガイドラインの改正内容のポイントをご紹介してきます。

通報窓口をわかりやすくする

通報窓口や情報の受付方法を明確にする必要があります。
「どこに」「どうやって」通報すれば良いのか、わかりやすく従業員に周知しましょう。また内部通報制度の信頼性を高めるため、社外の法律事務所等の機関の活用も推奨されています。

通報者の範囲は広く確保する

通報窓口は全従業員が広く利用できるようにしましょう。
正社員だけではなくパートやアルバイト、退職者や取引先も含めて幅広い情報提供者から通報を受け付けるべきです。

経営陣の役割を明確に

内部通報に関する規程を作って経営陣の役割を明確にしましょう。
またトップが自ら従業員に内部通報が重要であることを訴え、継続的に情報発信すべきとされています。
また経営陣からの独立性を担保するため、経営陣から離れた通報ルートを整備するようにも推奨されます。

安心して通報できる環境の整備

内部通報制度の構築の際には従業員の意見も聞いて可能な限り反映し、その後も継続的に研修を行うなどして安心して制度を利用できる環境を整備すべきです。実際に通報を受けたら質問や相談にも対応し、従業員にとって使い勝手の良いシステムとしましょう。

通報者に対しては経営者から感謝の意を伝えるなど、会社への貢献を評価すべきです。間違っても解雇などの不利益な取扱いをしてはなりませんし、万一不利益取扱いがあれば速やかに救済・回復措置をとりましょう。不利益な取扱いをした者に対しては懲戒などの処分を講じるべきです。

実効性の高い対応

内部通報についての規定では、実効性の高い対応をとれるように従業員や関係者の「調査協力義務」を明記すべきです。検討や対応については必要な能力や適性をもった担当者の育成と設置が求められますし、運営状況に対する客観的な検証も要求されます。

秘密保持の徹底

以下のような方法で通報者の秘密保持を徹底しましょう。

  • 匿名の通報を受け付ける
  • 関係資料を閲覧できる人を最小限にする
  • 資料は施錠管理する
  • 関係者の固有名詞を仮称表記にする

アフターフォロー

通報への対応終了後も、以下のようなアフターフォローが求められます。

  • 通報者が不利益な取扱いを受けていないか確認する
  • 不正行為が再発していないか確認する
  • 内部通報制度の定期的な見直し・改善

当事務所では、内部通報制度の構築方法や通報を受けた際の調査方法についてのノウハウを蓄積しています。有効な内部通報制度を構築されたい企業様は、是非とも一度ご相談下さい。

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