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SNSにおける民事/刑事の名誉毀損と、侮辱罪の厳罰化について

インターネット上の掲示板やSNSへの書き込みトラブルでは、「名誉毀損」にあたるか、という点がしばしば問題になります。

この「名誉毀損」という言葉は報道等でもよく出てくる有名な言葉ですが、法律の成立要件上は民事と刑事で似通っており、そのせいか、相談をお受けしていても混乱が生じやすいように感じます。


そこで、①刑事上の名誉毀損、②民事上の名誉毀損の違いについてご説明します。さらに、まさに今ネットでの(に限りませんが)誹謗中傷対策のため厳罰化が法制審議会で諮問中である、③「侮辱罪」(刑事上の名誉毀損が成立しない場合でも、滑り止め的に成立することがある)についても、あわせて比較します。

なお、仮に犯罪の根拠となる条文上の要件(構成要件といいます)を満たしても、すぐにその犯罪が成立する訳ではありません。たとえば、傷害事件でも正当防衛が認められれば、犯罪は成立しない場合がありえます。しかし、ここでは主に構成要件に絞って検討します(民事でも同様です)。

事実の適時の有無

まず最初に、さほど長くないので条文を抜き出します。

・(名誉毀損)刑法第230条第1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を棄損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

・(侮辱)刑法第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

・(不法行為)民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


このように、名誉毀損と侮辱の両罪の文言を比べると、名誉毀損罪は事実の摘示が必要であり、侮辱罪がこれが不要であることがわかります。

また、民事上の名誉毀損については、「名誉権」という「権利」(民法709条)が侵害されることは必要ですが、事実の摘示までは要求されておらず、意見・論評等でも良いことになります。

意見・論評の摘示

事実の摘示はなくとも、例えば「A弁護士は、頭が悪い。大馬鹿だ。」などとBがインターネットの匿名掲示板に書いたとすると、「 」内は事実(いわゆる「真実」とは意味が異なる)ではなく、意見・論評の類と考えられます。しかし、そうであっても、「頭が悪い」と書かれたA弁護士の社会的評価は低下しますので、程度にもよりますが、刑事であれば侮辱罪が成立するおそれがあり、また民事の名誉毀損にも該当する可能性があると言えるでしょう。

摘示内容の特定

ところで、どこまでが事実の摘示でどこからが違うのか、また事実の摘示の場合であっても摘示された事実は何なのか、といった摘示内容の特定は、裁判例等も見ながら慎重に検討しなければ判断が難しいことが多いです。

たとえば明確に、「Aは、2021年9月1日、JR神戸駅前路上で、殺意をもって、Bの左胸を長さ13センチの包丁で力一杯刺して殺した」などとCがSNSに投稿したのであれば、「 」の中が事実の摘示だと特定できるでしょう。しかし、『「Aが、Bを殺した」とCが言っていた』などとDがSNSに投稿した場合、Dが摘示した事実は、「 」の中のことなのか、それとも「 」の中の事実をCが言ったことなのかは、個別の事情をもとに判断せざるを得ません(仮に後者であれば、この事実はAの名誉を毀損する事実とは必ずしも言い切れない可能性が出てきます)。

特に、インターネットの掲示板やSNSでは、前後の流れで主語が省略された短文が投稿される傾向があることからも、摘示内容の特定は具体的事案ごとの検討が重要になってきます。

主観

刑法38条第1項本文には、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」とあるため、刑法は基本的には故意が無ければ犯罪は成立しません。故意とは、「敢えてやってやろう」までいかなくても、「もしかすると、ある犯罪にあたるかもしれないけど、まぁいいか」ぐらいでも認められます。

(なお、他人の内心なんか分かる訳ないだろう、という意見もあるでしょうが、裁判では客観的な事実を積み上げて淡々と判断されることになります。)

名誉毀損罪も侮辱罪も、いずれも刑法犯なので、上記の原則通り、故意の立証が必要になります。一方、民事上の名誉毀損は、条文上も「故意又は過失によって」とある通り、過失(うっかり。注意義務違反)によっても成立します。

社会的評価の低下

民事・刑事を問わず、「名誉毀損」とは、その人の社会的評価を低下させることとされています。

ただし、少しでも社会的評価を低下させるとこの要件に該当する、という訳ではなく、不法行為による賠償や名誉毀損罪を成立させるほど、大きく低下させた場合にのみ、この要件に該当すると考えられています。

なお、社会的評価の低下の程度が小さくても、本人の内心として名誉感情(プライドなど)が一定程度害された場合には、侮辱罪が成立する余地はあります。

まとめ

以上をまとめたのが、冒頭の表です。

一番下の侮辱罪は、摘示された「事実」の特定が困難な場合であっても犯罪として成立する可能性があるため、ある意味ネット上での悪質な誹謗中傷を刑罰権をもって抑制するのに使いやすい犯罪と言えます。

しかし、現在の法定刑は、「拘留又は科料」とされています。

拘留とは、1日以上30日未満、刑事施設に拘束される刑です。よく聞く「懲役・禁錮」は1ヶ月以上なので、拘留は最も軽い自由(を奪う)刑です。

また科料は、千円以上一万円未満の財産刑です。よく聞く「罰金」は原則一万円以上ですので、科料は最も軽い財産刑です。

このように、侮辱罪の法定刑は非常に軽いものとなっており、これでは、社会問題となっているネット上での誹謗中傷等に十分な対応が出来ないのではないか?というのが、最近になって侮辱罪の厳罰化が提案されている問題意識になります。

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