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契約の電子化(オンライン化)についてよくある質問

「電子契約」という言葉の意味するところ

ビジネス上も人と直接会うことが減り、商談等もオンラインで行うことが増えてくると、契約を紙ではなく電子データの交換で終わらせたいというニーズが高まっています。また、紙を使わなければ印紙が不要になるメリットもあります。

当所でも、電子契約についてのご相談を頂くことがありますが、その際に最初に確認しているのは、コストとの兼ね合いでどの程度のレベルを目指しているのか、ということです。

一部の例外を除けば「契約書」を作成しなくても契約は成立します。それでも敢えて「契約書」を作成する理由は、いざ揉めた時に、「そういう契約が当事者間で成立していた」という事実を証明するための証拠として使うためです。

これは媒体が紙でも電子ファイルでも同じことです。そして、紙の契約書でも常に実印を押すわけではなく、重要な契約書には実印を、それ以外には認印やスタンプ印を押す、といったように、契約の重要性に応じて使用する印鑑も変えているのではないでしょうか?

電子契約という言葉は多義的に使われており、なんとなくモヤモヤした話にもなりがちですが、事業の継続性を図るための投資として考えるならば、従来の紙の場合と同じように、その契約の目的や重要性に応じてどの程度(実印レベルなのか、認印レベルなのか、シャチハタレベルでいいのか)の仕組みを準備するかを考えることが、過剰なコストを避けることにつながります。

その際には、紙の契約書に印鑑を押すことの法的な意味を知っておくことが大切です。

紙の契約書に印鑑を押す法的な意味

契約書に印鑑を押すことの法的な意味として特に大きいのは、民事訴訟法228条に規定があり、理想的には①ある文章に署名又は押印されている場合、それは本人の意思によることが推定され、②本人の意思で文章に署名又は押印した場合、その文章の内容についても本人の意思で作成したことが推定されることが期待できるためです。

つまり、通常は印鑑というのは大事なものなので他人に渡したりせず、本人が大事に保管しているはずだ、という経験則があって、だから、本人しか押せないはずの印鑑が押された契約書があれば、本人はその契約書の内容に同意していたはずだ、と推定していけることになります(実際にはそこまで一本道な訳でもありませんが)。

そうすると、印鑑の印影(模様)が一つ一つ違うことが上記の法的意味を持たせる最低限必要な条件となります。よく書類に「シャチハタ以外でお願いします」と書いてあるのは、そういう理由によります。

紙との類似性で考える「よくある質問」

以上を前提に、契約書でよく使用されるフォーマットであるPDFファイルに関してよく頂く質問について考えてみます。

PDFの署名・捺印欄に、署名や印影の画像ファイルを貼り付けたらダメなのか?

この質問に対する回答としては、「ダメではない(契約の有効性に影響はない)のですが、証拠としての価値は低いと思います」ということになります。

理由は、上記の紙の場合を考えると、「署名や印影の画像」は、例えば過去に別な契約をしていれば簡単に入手可能な情報ですので、そうした場合には本人以外であっても簡単に偽造できてしまいます。紙の世界におけるシャチハタよりはマシかもしれませんが、紛争が生じた場合のリスクが一定程度ある取引の場合には、お勧めできません。

iPadに表示したPDFファイルにAppleペンシルで署名したらダメなのか?

理屈上は署名は本人しかできないはずなので証拠として一定の意味があるように思うのですが、実際問題として、加工されたPDFファイルを見て、先のように署名の画像を貼り付けた場合とタブレットでPDFファイルに直接署名した場合とを区別することが難しい場合も想定されます。

また、紙に署名した場合と違って「目で見てわかる原本」が存在しないので、これを裁判所がどのように判断するのかも、まだ未知数の部分が多いように思います(そもそも同じ人の筆跡であってもタイミング等でかなり変動が生じ得ますし、筆跡自体が一般に思われているほど積極的な証拠とはなりにくいように思います)。

そこで、こうした場合はリスクを具体的にご説明した上で、そこまで重要度が高くない場合に限って使用される場面を考えていくようにしています。

Adobe Signではダメなのか?

PDFを作成する際に使用されることが多い(というか本家の)Acrobatには、Adobe Signという電子サイン機能があります。

これは、契約当事者のうち一方がAcrobat DC等を使用していれば、他方のメールアドレスに向けて署名用のURLを発行するだけで、PDFファイルに対して電子サインをしてもらうことができるため、最近見かけることが増えています。

この仕組みで担保されるのは、あくまで「そのメールアドレスを受信可能だった誰かが電子サインした」ということですので、少なくとも、当該契約の当事者であるAさんと、そのメールアドレスとの紐付けは、別途どこかで担保する必要があります。

したがって、フリーメールより会社やプロバイダー等のメールアドレスの方が当然好ましいように思いますし、会社でも多数で共有しているようなメールアドレスであれば、いざ争われると困ったことになるかもしれません。

そのため、当該メールアドレスと契約者当人との紐付けに困難がないのであれば、証拠としての価値は一定程度あるように思います。

その他

実印に相当する電子署名を実現する手段として、公開鍵暗号方式を応用した仕組みが昔から使われています。簡単に言えば、個人ごとにプログラムを使って組になる2つの電子データ(公開鍵と秘密鍵)を生成します。そして秘密鍵(実印に相当)は自分だけが保存し、公開鍵は自分自身と紐づけた形で公開します。ある計算式に入力データと秘密鍵を投入して得られる出力データは、ペアとなる公開鍵でのみ元に戻せるという性質があるため、入力データとして契約書ファイルを使用すると、秘密鍵にアクセスできる人物が署名(に対応する計算処理)をおこなったことが、あとから誰でも検証することができます。

なお、電子署名法という法律の3条には、「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と、紙の場合の法律(民訴228条4項)に対応する条文がありますが、その意図するところは、先ほどご説明した実印の場合との類似性を考えるとわかりやすいと思います。

また、クラウドサービスを使って、こうした電子署名を自らが、または第三者によって行うための有料サービスも複数展開されていますが、これらについての説明は省略いたします。

いずれにしろ、電子契約は本格的に始まって間がないため、十分な裁判例等の蓄積もありません。したがって、紙の場合の法的な議論と、電子契約を実現するシステム面の仕組みとを理解した上で、リスクやコストの観点も踏まえて演繹的に検討していく必要があるテーマだと考えます。

疑問点等ありましたら、初回無料相談をお受けしておりますのでお気軽にご連絡ください。

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