経営者の離婚と財産分与 ~法人名義の財産も財産分与の対象となる!?~
もし離婚せざるをえない状況になってしまったら・・・
あなたが経営者であれば、気になるのは「法人名義の財産も分けることになるのだろうか?」ということではないでしょうか。
そこで、そのような場合に備えて
1.法人名義の財産が財産分与の対象となる場合・ならない場合
2.どのような割合で分けることになるのか
についてお伝えしておきたいと思います!
1.財産分与の対象となるか
財産分与の対象となる財産
まず、離婚にともなう財産分与の対象となる財産は、「当事者双方がその協力によって得た財産」(民法768条3項)です。
夫婦の「協力によって得た財産」(共有財産)ですから、独身時代の貯金や、親などから相続した財産(固有財産)は、財産分与の対象となりません。逆に、名義が夫や妻の単独名義であっても、実質的に夫婦が協力して得た財産といえるのであれば、財産分与の対象となります。
法人名義の財産
では法人名義の財産はどうでしょうか。夫婦で協力してつくった財産であれば、法人名義であっても財産分与の対象となるのでしょうか。
これについてはいくつかの考え方があります。
①法人格が形骸にすぎない場合や法人格が濫用されている場合など、法人と個人が同一視できる場合(いわゆる「法人格否認の法理」)のみ財産分与の対象となる。
②法人の実態が個人経営の域を出ず、実質上夫婦の一方又は双方の資産と同視できる場合は財産分与の対象となる。
③夫婦の実質的共有財産を法人名義の資産としたことが明確な場合は財産分与の対象となる。
裁判例
では、実際の裁判では、どのように判断されているかを見ていきたいと思います。
次のようなケースで、財産分与の対象となるか否かが争われました。
ケースA | 夫婦で設立 | 夫婦が中心となって経営に従事 | |
---|---|---|---|
ケースB | 夫の父が設立 | 夫は次期社長として、妻は営業として経営に従事 | |
ケースC | 夫が設立 | 夫が代表として経営、妻はほとんど関わらず |
裁判所の判断は、いずれも「対象となる」です。
意外に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
それぞれ理由が異なりますので1つずつ見ていきたいと思います。
ケースAの場合は、法人が夫婦を中心とする同族会社であることから、法人名義の財産も財産分与の対象として考慮するのが相当としています。これは②の考え方に近いです。
ケースBの場合は、次のような事情から、法人の財産をも財産分与の対象とすることが、まさに民法が財産分与を定めた趣旨であるとしています。
- 妻も長期間働き、売上げに貢献していたが、それに見合う手当をもらっていなかったこと
- 夫は次期社長としていずれは会社を引き継ぐ一方、妻には何も残らないこと
- 妻の貢献を還元するには会社の財産を財産分与の対象とする以外に方法がないこと
ケースCの場合は、夫が結婚後に、共有財産を原資に法人を設立したことから、すべての出資持分が、財産分与の対象となるとされました(評価額は純資産評価額の7割相当額とされています)。これは③の考え方に近いです。
財産分与の割合
基本割合
財産分与の割合は、原則として2分の1です。それは、「離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」(憲法24条2項)とされているからです。
法人名義の財産の場合
それでは、法人名義の財産が、財産分与の対象となる場合の割合はどうでしょうか。この点については、さきほどのケースCにおける裁判所の判断が参考になります。
裁判所は、以下のように述べています。
「高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには、そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ、財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい。」
このケースでは、夫は婚姻前に医師の国家試験に合格した医師であり、婚姻後に医療法人を立ち上げ、その手腕で病院を大きくしたという経緯がありました。そこで、例外的に夫6割、妻4割とすることが認められました。
それでも6:4ですから、2分の1の原則を変更するには、よほどの事情が必要といえるでしょう。医師のように、資格自体が高額収入に直結するような場合でなければ難しいかもしれません。
まとめ
ここまで見てきた内容をまとめると、名義のいかんに関わらず、その財産が、夫婦で協力して築いた財産といえるかどうかによって、財産分与の対象となるかどうかが決まるということがご理解いただけたのではないかと思います。また、対象となる場合の分与割合は、基本的には2分の1ずつで、例外的に、それ以外の割合とされることがありうるということになります。
ですから、もしあなたが経営する法人の財産を、なるべく手元に残したいのであれば、まずは財産分与の対象とならないように、法人の財産と夫婦の共有財産との線引きを明確にしておくことが必要です。その方法については、財産分与に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめいたします。