企業視点で見た産学連携の注意点<前編>

企業視点で見た産学連携の注意点<前編>

はじめに ~産学連携の契約上の特殊性~

大学の契約書ひな形に感じる違和感

企業が大学と共同研究等をする際、多くの場合は大学から契約書のひな形が送られてくると思います。この契約書は、しばしば文科省の受託研究契約書がベースになっているようで、その結果、企業側視点では首をひねりたくなる条項が含まれていることがあります。

例えば、企業が費用を支出した委託/共同研究の成果を当該企業が使うのに大学へ実施料を支払う必要があるとされている契約書が珍しくありません。

企業同士であれば、研究委託費を出している側は、少なくとも成果の無償実施権ぐらいは欲しいと感じますし、知財権は委託者側に譲渡される契約も、さほど珍しくはないと思います。また、共同研究であれば通常は企業側にも発明者がいるため、生まれた発明は、企業と大学との共同出願とすることが多く(このことの是非は別にして)、特許法の原則では特許権者である両者は自由に自己実施できるはずです(特許法73条2項)。

それにも関わらず、「権利を使いたいなら金を出せ」と言われると、「うちが委託費出してるのに?」「うちの技術者も発明者なのに?」と、違和感を感じる場合もあるかと思います。

また、委託研究の成果が秘密保持の対象に含まれておらず、成果は原則公表し、例外的に非公開とできる、というような建て付けになっている場合もあります。

企業としては、自社がお金を出して得られた研究成果は重要な営業秘密となり得ますので、原則として非公開としたいため、原則と例外が逆になっているように感じるかと思います。

大学の契約書ひな形が、一見理不尽に見える理由

しかし、大学の契約書のひな形が、上記のように一見理不尽とも思える内容になっているのには、それなりの理由があります。

一般に、企業が大学へ支払う委託費や共同研究費の内訳は「直接経費+間接経費」となっており「報酬」は含まれていません。つまり、産学連携の枠組みを活用することで、企業側は大学の「知」を実質的には無料で利用できていることになります。

そのため、「間接的には国費が投入されている研究から生まれた成果を広く社会に還元させるのは大学の存在意義である」と言われると、先の契約書ひな形にも一定の合理性があるように思えてきます。

WIN-WINな関係構築を目指す

特にリソースの限られた中小企業であれば、産学連携の枠組みによって得られうる、大学の知(と、学生の人手)は貴重なはずです。一方、大学にとっても、企業と関わりを持つことでテーマ設定や実証的な研究の場が得られるなど、メリットは大きいでしょう。

そのため、企業としては、仮に大学側から一見不可解な契約案が示されたとしても、なぜそうした内容にしているのか、その趣旨を確認し、WIN-WINな合意となるよう、大学側としっかり話し合うことが、産学連携を成功させる基本的な思考方法ではないかと思います。

その際に想定される失敗は、研究室の教授は企業が提示した契約条件に合意していたのに、実はそのことを大学のTLO(Technology License Organization:技術移転機関)は知らず、最終的な契約の直前になってTLOと揉める、というパターンです。

契約交渉では、常にTLOの担当者が入っていることを確認しながら進めることが大切です。

契約審査に入る前にチェックすべきこと

先程軽く触れましたが、多くの研究室では、企業からの委託/共同研究のテーマが、学生の卒論/修論のネタとなっている場合が珍しくありません。しかし、産学連携に学生が参加することには、企業としては、次の2つの点で慎重であるべきです。

営業秘密管理

理系の学生の多くは、学部最後の1年間と修士課程2年間の合計3年間しか研究室に所属せず、その後は、競合他社へ就職する可能性が高いと言えます(もちろん、産学連携が縁で自社に入社するケースもありますが)。

また、研究室における学生の研究指導は、博士課程の学生が中心となって行う場合も珍しくありませんが、新聞記事でも見かけるように、博士課程に進学する日本の学生は少なく、他のアジア諸国からの留学生の比率が高いのが実情です。

そうすると、営業秘密管理(さらには、後述する輸出管理)の観点から、学生が参加する場合は、産学連携のテーマ設定自体を営業秘密管理や輸出管理の視点で慎重に判断しなければなりません。さもないと、思いもよらない形で外国政府からペナルティが課せられる可能性があり、今後は特に要注意かと思います。

発明の帰属

次に、従来からある問題点ですが、学生は大学教員と違って大学の職務発明規程に縛られないため、学生がした発明を企業が取得したい場合、当該企業は学生と個別の契約をする必要が生じます。

学生は、数年後にはほぼ必ずその所属が変わるという、非常に流動的な身分と言えますので、企業としては、産学連携の事案毎に、参加予定の学生と事前の譲渡契約を締結しておくことが好ましいです。

小活

本文章では、企業視点で見た産学連携の注意点<前編> として、①大学のひな形が一見特殊に見える理由や、企業側の望ましい対応、②大学との共同研究等に関する契約内容に踏み込む前に注意すべき、学生の参加リスク の2点についてご説明しました。

次回は、契約時に注意すべき具体的内容や、特に近年になってリスクが増加していると感じる点について、ご説明予定です。

大学との共同研究や委託研究等を検討しておられる企業様で、ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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伊藤 英明

Hideaki Ito

弁護士 / 弁理士 / 博士(情報学)
日本工業所有権法学会, 著作権法学会, 情報ネットワーク法学会

力新堂法律事務所に所属し弁護士業を営む傍らで、都内IT企業に勤務しています。データを見て推測するのが好きです。

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