テレワークのメリットデメリット、導入の際の注意点
最近では業務効率アップや感染症対策などのため「テレワーク」を導入する企業が増えています。
テレワークとは、メインオフィス以外の自宅などの場所で働く労働形態です。上手に利用すれば企業も従業員もメリットを得られる新しい働き方です。
ただしテレワークには従来の働き方にはなかったリスクもあるので、導入の際には正しい知識が必要となります。
今回はテレワークの基本知識やメリットデメリット、導入の際に押さえておくべきリスクや注意点について、弁護士が解説します。
1.テレワークとは
テレワークとは、インターネットやチャットツール等の情報通信技術を利用して、所属するオフィスや事業所以外の場所で働く勤務形態です。働く場所や方法により、以下の3つに分類できます。
1-1.在宅勤務
自宅にいながらパソコンやタブレット、電話などで会社と連絡を取りながら仕事をする勤務形態です。
1-2.モバイルツールを利用した勤務(モバイルワーク)
電車や車などでの移動中や顧客の事務所などで、スマホやタブレットなどを利用して仕事をする勤務形態です。こういったテレワークの形態を「モバイルワーク」といいます。
1-3.サテライトオフィスなどでの勤務
メインの勤務先ではないスポットオフィスやサテライトオフィス、レンタルオフィスなどにおいて、パソコンやタブレット、スマホなどで会社と連絡を取りながら働く勤務形態です。
テレワークは上手に利用すると非常に便利ですが、労働基準法等の法令やガイドラインに違反しないよう適正な方法で導入する必要があります。
2.テレワーク導入のメリット
テレワークを導入すると以下のようなメリットがあります。
2-1.生産性の向上
従業員がいちいち事業所へ来る必要がなくなるので、通勤時間や移動時間の無駄がなくなります。時間も節約できるうえ疲れも少なくなり、全体的に生産性を向上させやすくなるメリットがあります。
2-2.コスト削減
在宅勤務の従業員には通勤手当を支給する必要がないので、これまで通勤手当を払っていた分のコストを削減できます。また従業員が勤務するスペースを用意する必要がないので、オフィスを借りずに済んだりオフィススペースを狭くして賃料を抑えたり、空いたスペースを別の目的に活用したりもできます。
このように経費や物理的なコストを削減できるのもメリットの1つです。
2-3.人材確保
テレワークは妊娠・出産する従業員や親族の介護を抱えた従業員がいる場合などに役立ちます。こうした従業員は事業所への出社が難しいケースが多く、テレワーク制度がなければ離職してしまいがちですが、テレワークが認められれば継続して就業させることが可能です。優秀な人材を失わずに済むのもテレワークのメリットです。
2-4.従業員のワークライフバランスを実現
従業員にとっては、テレワークの適用によって柔軟な働き方ができるようになったり自由な時間が増えたりして、ワークライフバランスを実現しやすくなるメリットがあります。
2-5.国際化への対応
テレワークによって時間や場所にとらわれない働き方を実現できれば海外で勤務する自社従業員とも連携しやすくなりますし、海外企業との取引への対応も容易となります。
3.テレワーク導入のデメリット
テレワークには以下のようなデメリットもあります。
3-1.業務効率が低下するおそれ
在宅勤務を認めることにより、かえって業務効率が低下するおそれがあります。
たとえば自宅周辺で騒音が発生している、自宅が狭すぎて執務スペースが足りないなど、さまざまな事情で自宅が仕事に適していない場合があります。心理的にも「家では集中できない」タイプの人がいるため、緊張感が失われて仕事の質や効率が落ちてしまう可能性があります。
3-2.長時間労働につながるおそれ
在宅勤務では、どうしても仕事とプライベートの区別が曖昧になります。
会社にとって従業員の労働時間の把握が困難となるため、次々と指示を出して「限度のない長時間労働」につながる危険性もあります。
3-3.不公平となる可能性
在宅勤務の場合、事業所に来て働くケース以上に個々の従業員の裁量が大きくなります。
自宅でも集中して質の高い仕事をたくさんこなせるものと、緊張感がなくなって適当になってしまう従業員の差が出てくるでしょう。評価制度を工夫しないと従業員間で働き方が不公平となる可能性が高くなります。
3-4.情報漏えいの危険性
社内では会社の目が行き届きますし、しっかりとセキュリティの整った環境を用意するのが通常です。
しかしテレワークの場合、個々の従業員に目を届かせるのは難しくなりますし、不可避的に情報を社外に持ち出すことになって情報漏えいのリスクが高まります。機密情報や顧客の個人情報などを流出させる不祥事が発生すると、企業の存亡にかかわる可能性もあります。
3-5.組織としての一体感が失われる
テレワークの場合、従業員は「同じ会社の社員と同じ場所で働いている」という意識を持ちにくくなります。上司や同僚などとのコミュニケーションをとる機会も減少するため組織としての一体感が失われやすいデメリットがあります。
4.テレワークに適した企業の業種や業態
テレワーク導入に向いている企業の業種や従業員の業態は、以下のようなものです。
4-1.テレワーク導入に適合する条件
1人でできる業務
基本的には「1人で完結する業務」がテレワークに向いています。複数の人が関与する場合でも、直接他の人と対面する必要がない業務であればテレワークに対応できます。
セキュリティリスクの低い業務
テレワークの場合、どうしても情報漏えいリスクが高くなります。機密情報を扱うような業務にテレワークを適用すると危険であり、秘密を扱わない仕事などセキュリティリスクの低い仕事がテレワークに向いています。
4-2.テレワークに向いている具体的な業務
- システムエンジニア(ソフトウェア開発などの技術職)
- デザイナー
- プログラマー
- 資料作成、データ入力・分析などの事務職
- ライター
- マーケティングや営業リサーチなどの調査業務
- 営業職
営業の場合、在宅勤務ではなくモバイルツールを利用したテレワーク(モバイルワーク)が適しています。移動中に事務作業を行うと、有効に時間を活用できて交通費などのコストも削減可能だからです。ただしモバイルワークを実効的に進めるには、経営者側が業務プロセスを把握するためのシステムや、担当従業員と密接なコミュニケーションをとるための仕組みを整備する必要があります。 - 管理職
部下の仕事の進捗状況や成果などを共有しやすい業種の場合、管理職もテレワークに適します。仕事の進捗状況を管理するツールとグループチャットなどのツールがあればオフィス以外の場所でも仕事ができます。
5.テレワークに適さない企業・業態
以下のような企業や業態ではテレワークは適しません。
5-1.対面での対応が必要な業種
飲食店やアパレル販売などの接客業、対面での作業が必須の仕事はテレワーク化できません。
5-2.現場作業が必要な業種
製造業における工場での勤務、建設業における現場での工事など、直接現場で作業をしなければならない職種はテレワークに適しません。
5-3.高い機密事項を扱う業種
企業の秘密情報を扱う仕事をテレワーク化すると、どうしても情報漏えいのリスクが高まります。外部に絶対出してはいけない情報を管理する業務はテレワーク化しない方が安全といえるでしょう。
5-4.多人数でのチームワークが必要な仕事
テレワークの場合、どうしても個々の従業員が個別に作業することになるため、多人数でのチームワークや連携が必要な仕事には適しません。
ただし複数の人が関与する案件でも1人1人がばらばらに作業して良いならテレワークを導入可能です。
4-5.医療、介護の仕事
医療や介護の分野では、患者や利用者への直接対応が必須です。確かに最近ではテレビ電話を使った遠隔診療なども一部実施されていますが、発展途上の段階です。
現時点において医師や看護師、介護士などの職種ではテレワーク導入は難しいでしょう。
6.テレワーク導入の注意点
テレワークを導入する際には、以下のような点に注意が必要です。
6-1.労務管理について
テレワークを導入する際、企業側は従業員の労務管理をこれまで以上にきっちり行わねばなりません。具体的には以下のような対応が要求されます。
- 労働時間を把握する義務
-
企業は労働者の労働時間を適正に把握する必要があります。平成29年1月20日に厚生労働省が策定した「労働時間適正把握ガイドライン(通称)」によって義務づけられています。
具体的には始業・終業時間の確認と記録が必須ですが、テレワークの場合にはこれらが「自己申告」となるので曖昧になりがちです。事前にテレワークを適用する従業員に説明をして理解させるとともに、適切に申告が行われるためのシステムを構築する必要があります。 - 労働条件の明示
-
労働基準法により、使用者は従業員へ労働条件を明示すべき義務があります。テレワークを実施するときには、「テレワークを行う場所」を明示しなければなりません。
またモバイルワークを許可する場合にはどこででも仕事をして良いわけではないので「就業場所として認める許可基準」を作成して対象従業員へ呈示する必要があります。 - 長時間労働対策
-
テレワークの場合、労働時間とプライベートな時間があいまいになり、長時間労働につながるリスクがあります。
たとえば時間外や休日、深夜におけるメールやチャット・電話のやりとりを禁止したり、時間外にはサーバーにアクセスできないようにしたりして、労働時間が長くなりすぎないよう対応しましょう。 - 時間外労働手当について
-
テレワーク導入に伴い時間外労働や休日労働、深夜労働が発生する場合には、必ず36協定の締結が必要です。36協定書は作成するだけではなく、労働基準監督署へ提出しなければならないので注意してください。
また36協定を締結していても長時間労働には限度があるので、それを超えてはなりません。さらに時間外労働や休日労働、深夜労働が発生した場合には、適正に割増賃金を計算して支払う必要があります。支払わないと「労働基準法違反」となるので注意しましょう。
- 作業環境の整備
-
使用者は従業員に対し、安全で衛生的な作業環境を提供すべき義務を負います。
テレワークの場合にも労働安全衛生法が適用されるので、企業側は労働者の健康や安全に配慮しなければなりません。たとえば健康診断やストレスチェック、長時間労働者に対する医師の面接指導などを実施しなければなりませんし、診断結果に問題があれば状況に応じた適切な対応が必要です。また自宅の環境が仕事場として適していない場合、就業環境を整えるための費用助成なども検討する必要があるでしょう。
- 労災への対応
-
テレワークであっても業務中に災害が発生したら労災保険が適用されます。厚生労働省によると、自宅で仕事をしている最中にトイレに行き、戻ったときに転倒した場合にも労災になると例示されています(厚生労働省 テレワーク導入のための労務管理等Q&A)。
ただしテレワークでは仕事とプライベートの時間が曖昧になるため、実際に労災に該当するかどうかについては詳細な調査と資料が必要になるでしょう。
6-2.情報漏洩、セキュリティの注意点
営業上や機密情報や顧客の個人情報について、以下のような漏えいリスクがあるので注意と対策が必要です。
- 従業員の過失で情報が漏えいするリスク
-
テレワークが適用される従業員の故意や過失によって情報が漏れるリスクがあります。
情報を持ち出した従業員が故意に他社に漏らすケースもありますし、安易にネット上に投稿したり情報の入ったパソコンやスマホを外部に置き忘れたりして、情報が漏れてしまう可能性もあります。 - システムの不備による情報漏えいリスク
-
従業員がしっかり管理をしていても、そもそもシステムに不備があったために情報漏えいしてしまう可能性があります。たとえばセキュリティ対策が万全でなかったために情報が漏れたり、秘密を守れるシステム設計が行われていなかったりする場合などです。
- 外部からの攻撃による情報漏えいリスク
-
テレワークの場合、パソコンやタブレットなどの端末はどうしても脆弱になりがちです。ウイルスやハッキングなどの外部からの攻撃に弱くなり、侵襲を受けて情報漏えいしてしまう可能性があります。
7.テレワークで発生しうるトラブルの予防や対処方法
テレワークを導入すると、労働時間の適正な把握や情報の安全な管理が難しくなり、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。予防するには以下のように対応しましょう。
7-1.就業規則の改訂や制定
まずは労働条件について定める就業規則の内容を見直すべきです。
テレワークを導入する際には、フレックスタイム制や事業場外のみなし労働時間制などを適用すべきケースが多々あります。フレックスタイム制を適用すれば1日や1週間の労働時間を固定しないので柔軟な働き方をしやすくなりますし、事業場外のみなし労働時間制を導入すれば個別の労働時間の把握をしなくてよくなります。
これらの制度を導入するには就業規則が必要なので、今まで就業規則に明記していなかった企業では必ず作成や改訂が必要です。
またテレワークを認めること自体についても就業規則に明記する必要があります。
7-2.従業員への周知、教育指導
テレワーク実施に際しては、労働条件の申告方法や就業環境の整備や管理、情報共有方法やシステム・ツールの使い方など、従業員に周知しなければならない事項がたくさんあります。休憩や有給などの考え方もこれまでとは変わりますし「自分のスマホを業務に使ってはいけない」などセキュリティに関するルールも把握させねばなりません。
従業員向けに「テレワーク導入マニュアル」などを作成し、研修を実施したり対象となる従業員に個別面談を行ったりして対応を進めましょう。
7-3.適正なシステムの構築
テレワークを正常に機能させるには、企業側で適正なシステムを構築する必要があります。
情報共有ツールや労働時間を把握するためのツール、コミュニケーションをとるためのツールなどを用意し、全体的な管理者や責任者も定めるべきです。
7-4.徹底したセキュリティ対策
情報漏えい対策として必ず実施すべきことは、従業員が仕事に使っても良い端末の制限です。会社が貸し与えた端末のみ利用可能とし、個人的なスマホやPCの利用は明確に禁止しましょう。
またテレワーク専用端末については「シンクライアント(Thin client)」を導入するようお勧めします。
シンクライアントとは、従業員側の端末上での情報処理を最小限に抑えてほとんど作業をサーバーに集中することです。このようにすれば、従業員の扱う端末からの情報漏えいリスクを大きく低減できます。
8.就業規則等の社内整備について
テレワークを導入する際には、就業規則や労働契約書、労働条件通知書などの各種書類への記載事項の変更が必須です。また労働時間の管理や新たな36協定書の作成と提出、各種マニュアル作りや従業員への研修なども必要になるでしょう。自社のみですべてに適切に対応するのは非常に困難ですし、時間や手間がかかってしまいます。
弁護士に任せれば法的に正しく安全な対応が可能となります。自社で調査や手続きをしなくて良いのでスムーズにテレワーク導入を実現できるでしょう。
当事務所では中小企業へ向けてテレワーク導入を始めとした法的サポートを進めています。今後、業務効率アップや人材確保、国際化への対応などのためテレワーク導入をご検討なら、是非一度ご相談下さい。